最近、面白い論文を読みました。
井上徹さんという方が、一橋大学の博士論文として提出した「日本語教育の危機とその構造―「1990年体制」の枠組みの中で」です(リンク)。
1990年の入管法改正のあと、日本が留学生を低賃金労働者として産業構造の中に組み込んできたことを批判する論文です。
その中に、面白い指摘がありました。
日本語教育は以下の「4 つの信条」に基づいているというのです。
① 日本語教育は日本語母語話者が直接法で教えるのがベストである。
② 日本語教師は外国語を学ぶ必要は特にない。
③ 日本語母語話者であれば誰でも日本語教師になれる。
④ 外国人に日本語を教えるのはやりがいのある楽しい仕事である。
直接法というのは、日本語を教える際に、生徒の母語を介在させず、日本語だけを使って教えること。ダイレクト・メソッドともいわれます。私たちが日本の学校で英語を学ぶ際、日本語を使って英語を学びますが、それは間接法(インダイレクト・メソッド)です。
英語だけを使って英語を教える方が効果的だという人もいて、一部の学校で採用されているようですが、成功したという話はあまり聞きません。
初級の生徒に英語だけで教えても、生徒のほうはちんぷんかんぷん。言葉の意味などは日本語に訳してもらうほうが効率的だし、わかりやすい。
文法をひと通り終え、語彙も1000語以上覚えた段階なら、ダイレクト・メソッドでも効果を期待できるかもしれませんが。
論文の著者、井上徹氏は、ベトナムで日本語を教えた経験があり、自らの経験からもダイレクト・メソッドの問題点を感じていたようです。
井上氏によれば、4つの「信条」は相互につながっていて、根底には日本語学校の教師不足があるというのですね。
日本語教師は待遇が悪いので希望者が少ない。それで、なんとかして日本語教師を増やそうとしている。
日本語を教えるときはダイレクト・メソッドがベストだ。だから、日本語を教えるのに、外国語はできなくてよい。したがって、日本人なら、だれでも日本語が教えられる。おまけに、外国人に日本語を教えるのはやりがいがあって、楽しい…。
最後に、こう付け加えるのがいいかもしれません。
やりがいがあって楽しいのだから、少々低賃金でもがまんすべきだ。
普通、日本の日本語学校で学ぶ外国人はさまざまですから、すべての生徒に「母語を介して」教えることは不可能ですし、たとえば英語を使った場合、出身国によっては英語が得意でない生徒もいますので、不公平になる。国内の日本語学校でダイレクト・メソッドを使うのはやむを得ない事情があります。
しかし、だからといって「ダイレクト・メソッドがベスト」と強弁することはできません。
私は韓国で韓国人向けの日本語教材を作ったことがありますが、もちろん説明は韓国語、また日本語と韓国語の文法的類似性、漢字語彙の共通性を最大限に考慮して、韓国人にもっとも学びやすい教材になるように注力しました。
日本語教師が海外で日本語を教える場合、当然、現地の母語を勉強し、日本語とその言語の共通性・異質性を分析して、現地語を交えて教育するのが効果的であることは、明らかです。
実は、私はフィリピンにいる娘に、日本語教育の勉強をすることを勧めています。日本に帰ってきても、当分は出産と育児で勤めに出ることはできないので、オンラインで外国人に日本語を教えたらどうか、と提案したのです。
娘も、将来、英語を生かした仕事に就きたいといって、デパ地下での販売の仕事を辞め、一念発起してフィリピンに英語留学に行きました。英語を使って日本語を教えるなら、娘の希望にもあいますし、英語ができない先生に比べれば競争力もあるでしょう。
現在勉強しているのは、日本語教育の直接法と間接法(英語)のどちらも学べる通信教育です。
一方、ボーイフレンドのDは、結婚ビザで日本に来て、日本人に英語を教えたいという希望をもっています。私は彼に、「そのためには日本語を勉強しなければならない。日本語を使って英語を教えることができれば、フィリピン人からでも、英語を習いたいという日本人がいるだろう」と言っています。
ま、前途多難ですが。
井上徹さんという方が、一橋大学の博士論文として提出した「日本語教育の危機とその構造―「1990年体制」の枠組みの中で」です(リンク)。
1990年の入管法改正のあと、日本が留学生を低賃金労働者として産業構造の中に組み込んできたことを批判する論文です。
その中に、面白い指摘がありました。
日本語教育は以下の「4 つの信条」に基づいているというのです。
① 日本語教育は日本語母語話者が直接法で教えるのがベストである。
② 日本語教師は外国語を学ぶ必要は特にない。
③ 日本語母語話者であれば誰でも日本語教師になれる。
④ 外国人に日本語を教えるのはやりがいのある楽しい仕事である。
直接法というのは、日本語を教える際に、生徒の母語を介在させず、日本語だけを使って教えること。ダイレクト・メソッドともいわれます。私たちが日本の学校で英語を学ぶ際、日本語を使って英語を学びますが、それは間接法(インダイレクト・メソッド)です。
英語だけを使って英語を教える方が効果的だという人もいて、一部の学校で採用されているようですが、成功したという話はあまり聞きません。
初級の生徒に英語だけで教えても、生徒のほうはちんぷんかんぷん。言葉の意味などは日本語に訳してもらうほうが効率的だし、わかりやすい。
文法をひと通り終え、語彙も1000語以上覚えた段階なら、ダイレクト・メソッドでも効果を期待できるかもしれませんが。
論文の著者、井上徹氏は、ベトナムで日本語を教えた経験があり、自らの経験からもダイレクト・メソッドの問題点を感じていたようです。
井上氏によれば、4つの「信条」は相互につながっていて、根底には日本語学校の教師不足があるというのですね。
日本語教師は待遇が悪いので希望者が少ない。それで、なんとかして日本語教師を増やそうとしている。
日本語を教えるときはダイレクト・メソッドがベストだ。だから、日本語を教えるのに、外国語はできなくてよい。したがって、日本人なら、だれでも日本語が教えられる。おまけに、外国人に日本語を教えるのはやりがいがあって、楽しい…。
最後に、こう付け加えるのがいいかもしれません。
やりがいがあって楽しいのだから、少々低賃金でもがまんすべきだ。
普通、日本の日本語学校で学ぶ外国人はさまざまですから、すべての生徒に「母語を介して」教えることは不可能ですし、たとえば英語を使った場合、出身国によっては英語が得意でない生徒もいますので、不公平になる。国内の日本語学校でダイレクト・メソッドを使うのはやむを得ない事情があります。
しかし、だからといって「ダイレクト・メソッドがベスト」と強弁することはできません。
私は韓国で韓国人向けの日本語教材を作ったことがありますが、もちろん説明は韓国語、また日本語と韓国語の文法的類似性、漢字語彙の共通性を最大限に考慮して、韓国人にもっとも学びやすい教材になるように注力しました。
日本語教師が海外で日本語を教える場合、当然、現地の母語を勉強し、日本語とその言語の共通性・異質性を分析して、現地語を交えて教育するのが効果的であることは、明らかです。
実は、私はフィリピンにいる娘に、日本語教育の勉強をすることを勧めています。日本に帰ってきても、当分は出産と育児で勤めに出ることはできないので、オンラインで外国人に日本語を教えたらどうか、と提案したのです。
娘も、将来、英語を生かした仕事に就きたいといって、デパ地下での販売の仕事を辞め、一念発起してフィリピンに英語留学に行きました。英語を使って日本語を教えるなら、娘の希望にもあいますし、英語ができない先生に比べれば競争力もあるでしょう。
現在勉強しているのは、日本語教育の直接法と間接法(英語)のどちらも学べる通信教育です。
一方、ボーイフレンドのDは、結婚ビザで日本に来て、日本人に英語を教えたいという希望をもっています。私は彼に、「そのためには日本語を勉強しなければならない。日本語を使って英語を教えることができれば、フィリピン人からでも、英語を習いたいという日本人がいるだろう」と言っています。
ま、前途多難ですが。
年長者の方が会話も文章力もあるという印象です。
若い社員の報告書などは、文法的な誤りがかなりありました。面接でも英語の受け答えがしどろもどろな若者がおりました。
以前は、テレビのニュースは英語が中心でした。新聞は今でも英語が主流ですが、日本でもだんだん読まれなくなっていますね。
英語が得意という強みがアジア諸国の中で目立たなくなっている感じがします。
インドネシアとタイは、あまりできないですね。