昨年のお盆休みにロシア語の学習を始めました。学生時代に一度勉強したことがあるので、正確に言えば「再学習」です。
使った学習書は、黒田龍之助著『ニューエクスプレスプラス ロシア語』(白水社、2018年)。これを、「ハロー先生.com」というサイトで見つけたロシア人のエリザヴェタ先生から、週一回のオンラインレッスンで習いました。
このユニークな学習書については、以前、紹介したことがあります。
ロシア語急行物語(前編)
複線化されていたロシア語急行
ロシア語急行物語(後編)
『ニューエクスプレス』は全20課で、2課ごとに練習問題がついています。毎回、1課学習し、練習問題にも1回を当てれば、全30週、7か月半で修了できる計算です。
ですが、『ニューエクスプレス』は練習問題の量が少ないため、ときどきエリザヴェタ先生が用意するオリジナルの練習問題などをしたりしていたので、結局、全課を終了するのに、5月の連休前までかかりました。約9か月ですね。
そのあとは、エリザヴェタ先生の手持ちの学習書(英語圏の学習者のための学習書)を使ったり、文法や場面に応じた先生オリジナルの資料を使ったりして、学習を続けています。
で、1年が過ぎた現在、何を学習しているかというと…、「数詞」です。
中学で英語を習い始めたとき、数詞は中1の1学期に学習した気がします。そんな初等文法を、なぜ今頃、と思われる方がいるかもしれません。
でも、ロシア語における「数詞」は、初等文法ではありません。
『ニューエクスプレス』は、150ページの薄い冊子に、初等文法を無理やり詰め込んだ学習書ですが、他の言語では必ず扱われている日にちの言い方や、買い物のときの値段の言い方は含まれていません。いちおう、課の番号として、20までの数詞が出てきます(20課構成なので)。そして、本の最後のほう、第18課が終わったところに、「数詞の一覧表」が載っていて、0~22、30、40、…100、200、…1000、2000が表形式で出てきますが、音声は用意されていないというそっけなさ。つまり、この学習書では数詞を体系的に扱う気ゼロなのです。
他の学習書がどうなっているかというと、たとえば安岡治子著『総合ロシア語入門』は、『ニューエクスプレス』と同じく、初学者が独習できるように編まれた学習書で、学習項目は難易度順に並べられています。全30課、最後は文学作品を読むレベルまで含まれていますが、数詞が出てくるのは後半、第17、18課です。
ロシア語の数詞は、それだけ手ごわいのですね。
数詞そのものは、たとえばフランス語なんかよりは易しい。フランス語は、70を60+10,71を60+11と表現しますし、80は4×20、99にいたっては4×20+19という複雑さです。
ロシア語はそこまで不規則ではなく、英語より多少難しい程度。
ではなぜ、数詞の学習が後回しにされるのか。その秘密は性と格にあります。
1はアディンといいます。ところが一冊の本というときは、アドゥナーとなります。なぜなら本(クニーガ)が女性名詞だからです。
1は、あとに来る名詞が男性か、女性か、中性か、複数かによってアディンодин、アドゥナーодна、アドゥノーодно、アドゥニーодниと変化します(なぜ1に複数形があるんだ!)。
2は、やはり性によってドゥヴァ(два男性、中性)、ドゥヴェ(две女性)に変化します。数詞で複数の異なる形をもつのは1と2だけです。
そして、数詞のあとに来る名詞も変化します。
1のあとには単数主格、2~4のあとには単数生格、5以上は複数生格です。文法書にはこにように書いてありました。
授業でこれを習ったとき、2~4のあとの名詞の形について、
「単数生格ですね?」
と、日本の文法書にあるとおりに聞いたら、リズ先生は、
「単数生格? 違いますよ、だって複数ですから」
と言い、しばらく考えた後、
「ちょっと調べます」
といって質問を持ち帰りました。
次の授業での説明では、「2~4のあとの名詞の形は、たまたま単数生格形と一致するが、単数生格ではない」とのことでした。2~4のあとに単数生格と同じ形が使われるようになるまでには、長くて複雑な歴史的経緯(もともと双数があったとか)があるようです。
この変化は、2、3、4に限ったことではなく、合成数詞(22とか、34とか、73とか)にも当てはまります。
たとえば、値段を言うとき、価格が合成数詞の1で終わる場合と、2~4で終わる場合と、5以上で終わる場合で、ルーブリ(ロシアの通貨単位)という名詞の形を3通りに変化させなければならず、これは時間の表現、日付の表現、年齢の表現など、あらゆる数の表現に適用されます。
そして名詞には、男性、女性、中性の3種類があり、それによって単数生格形、複数生格形も異なりますから、瞬時に適切な形で表現するためには、数と格の変化に熟達していなければならないのです。
さらに、ロシア語の数詞には順序数詞(英語のfirst、secondの類)があり、これは形容詞長語尾硬変化と同じように活用します。すなわち、修飾する名詞の性・数・格によって複雑に変化するのです。
たとえば「2021年」という場合、「年」という名詞の性・数に合わせ、2001の順序数詞は、男性単数主格でいいのですが、「2021年に」と副詞的にいう場合、2021年の前にヴ(в)という前置詞が使われ、「年」が前置格という変化形に変わり、それにあわせて2021のほうも順序数詞の前置格になるわけです。
つまり、数詞を唱えることができても、名詞・形容詞の性、数、格変化を知らないことには、数を使った表現はできません。
なので、難易度順にできている独習用教科書では、数詞の数の表現は、性、数、格の学習がひと通り終わった後に出てくるようになっているわけです。
使った学習書は、黒田龍之助著『ニューエクスプレスプラス ロシア語』(白水社、2018年)。これを、「ハロー先生.com」というサイトで見つけたロシア人のエリザヴェタ先生から、週一回のオンラインレッスンで習いました。
このユニークな学習書については、以前、紹介したことがあります。
ロシア語急行物語(前編)
複線化されていたロシア語急行
ロシア語急行物語(後編)
『ニューエクスプレス』は全20課で、2課ごとに練習問題がついています。毎回、1課学習し、練習問題にも1回を当てれば、全30週、7か月半で修了できる計算です。
ですが、『ニューエクスプレス』は練習問題の量が少ないため、ときどきエリザヴェタ先生が用意するオリジナルの練習問題などをしたりしていたので、結局、全課を終了するのに、5月の連休前までかかりました。約9か月ですね。
そのあとは、エリザヴェタ先生の手持ちの学習書(英語圏の学習者のための学習書)を使ったり、文法や場面に応じた先生オリジナルの資料を使ったりして、学習を続けています。
で、1年が過ぎた現在、何を学習しているかというと…、「数詞」です。
中学で英語を習い始めたとき、数詞は中1の1学期に学習した気がします。そんな初等文法を、なぜ今頃、と思われる方がいるかもしれません。
でも、ロシア語における「数詞」は、初等文法ではありません。
『ニューエクスプレス』は、150ページの薄い冊子に、初等文法を無理やり詰め込んだ学習書ですが、他の言語では必ず扱われている日にちの言い方や、買い物のときの値段の言い方は含まれていません。いちおう、課の番号として、20までの数詞が出てきます(20課構成なので)。そして、本の最後のほう、第18課が終わったところに、「数詞の一覧表」が載っていて、0~22、30、40、…100、200、…1000、2000が表形式で出てきますが、音声は用意されていないというそっけなさ。つまり、この学習書では数詞を体系的に扱う気ゼロなのです。
他の学習書がどうなっているかというと、たとえば安岡治子著『総合ロシア語入門』は、『ニューエクスプレス』と同じく、初学者が独習できるように編まれた学習書で、学習項目は難易度順に並べられています。全30課、最後は文学作品を読むレベルまで含まれていますが、数詞が出てくるのは後半、第17、18課です。
ロシア語の数詞は、それだけ手ごわいのですね。
数詞そのものは、たとえばフランス語なんかよりは易しい。フランス語は、70を60+10,71を60+11と表現しますし、80は4×20、99にいたっては4×20+19という複雑さです。
ロシア語はそこまで不規則ではなく、英語より多少難しい程度。
ではなぜ、数詞の学習が後回しにされるのか。その秘密は性と格にあります。
1はアディンといいます。ところが一冊の本というときは、アドゥナーとなります。なぜなら本(クニーガ)が女性名詞だからです。
1は、あとに来る名詞が男性か、女性か、中性か、複数かによってアディンодин、アドゥナーодна、アドゥノーодно、アドゥニーодниと変化します(なぜ1に複数形があるんだ!)。
2は、やはり性によってドゥヴァ(два男性、中性)、ドゥヴェ(две女性)に変化します。数詞で複数の異なる形をもつのは1と2だけです。
そして、数詞のあとに来る名詞も変化します。
1のあとには単数主格、2~4のあとには単数生格、5以上は複数生格です。文法書にはこにように書いてありました。
授業でこれを習ったとき、2~4のあとの名詞の形について、
「単数生格ですね?」
と、日本の文法書にあるとおりに聞いたら、リズ先生は、
「単数生格? 違いますよ、だって複数ですから」
と言い、しばらく考えた後、
「ちょっと調べます」
といって質問を持ち帰りました。
次の授業での説明では、「2~4のあとの名詞の形は、たまたま単数生格形と一致するが、単数生格ではない」とのことでした。2~4のあとに単数生格と同じ形が使われるようになるまでには、長くて複雑な歴史的経緯(もともと双数があったとか)があるようです。
この変化は、2、3、4に限ったことではなく、合成数詞(22とか、34とか、73とか)にも当てはまります。
たとえば、値段を言うとき、価格が合成数詞の1で終わる場合と、2~4で終わる場合と、5以上で終わる場合で、ルーブリ(ロシアの通貨単位)という名詞の形を3通りに変化させなければならず、これは時間の表現、日付の表現、年齢の表現など、あらゆる数の表現に適用されます。
そして名詞には、男性、女性、中性の3種類があり、それによって単数生格形、複数生格形も異なりますから、瞬時に適切な形で表現するためには、数と格の変化に熟達していなければならないのです。
さらに、ロシア語の数詞には順序数詞(英語のfirst、secondの類)があり、これは形容詞長語尾硬変化と同じように活用します。すなわち、修飾する名詞の性・数・格によって複雑に変化するのです。
たとえば「2021年」という場合、「年」という名詞の性・数に合わせ、2001の順序数詞は、男性単数主格でいいのですが、「2021年に」と副詞的にいう場合、2021年の前にヴ(в)という前置詞が使われ、「年」が前置格という変化形に変わり、それにあわせて2021のほうも順序数詞の前置格になるわけです。
つまり、数詞を唱えることができても、名詞・形容詞の性、数、格変化を知らないことには、数を使った表現はできません。
なので、難易度順にできている独習用教科書では、数詞の数の表現は、性、数、格の学習がひと通り終わった後に出てくるようになっているわけです。
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