犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

日韓新聞社説読み比べ

2015-12-29 23:34:34 | 慰安婦問題

 日韓外相会談が行われた翌日の、日韓の主要紙の社説を読んでみました。

 まず、日本の新聞から。

朝日新聞(→リンク

慰安婦問題の合意 歴史を越え日韓の前進を
 節目の年にふさわしい歴史的な日韓関係の進展である。両政府がわだかまりを越え、負の歴史を克服するための賢明な一歩を刻んだことを歓迎したい。…両外相ともメディアを通じて両国民に固く誓ったのだ。合意をしっかり履行してほしい。…日本政府は誠実に合意を履行し、韓国側は真剣に国内での対話を強める以外に道はない。…大切なのは、日韓共同の新基金事業を着実に軌道に乗せるとともに、韓国が将来、再び問題を蒸し返さないようにすることだ。…韓国政府が合意を真剣に履行するつもりなら、まず、合意に反対を唱える国内勢力を説得できるかどうかが問われる。少女像の撤去も重要な試金石となろう。

 今年、誤報記事取り消しなどで話題をまいた朝日は、全体として歓迎の論調。合意履行に関しては、韓国のほうに多く注文をつけています。

毎日新聞(→リンク

慰安婦問題 日韓の合意を歓迎する
 戦後70年、日韓国交正常化50年という節目の年に合意できたことを歓迎したい。…両国が知恵を出しあって合意に至ったことは画期的なことである。…今回の合意について「最終的で不可逆的な解決」であることを確認したことは両国の信頼構築につながる。これにより、国連など国際社会での非難合戦という不毛な争いにも終止符が打たれるはずだ。

 毎日は朝日よりもさらに手放しの歓迎ぶり。

読売新聞(→リンク

慰安婦問題合意 韓国は「不可逆的解決」を守れ 少女像の撤去も重要な試金石だ
 …未来志向の日韓関係の構築には、韓国が合意を誠実に履行することが大前提となろう。…新基金はあくまで人道支援であり、日本の法的な立場は損なわれない。ただ、政府の資金拠出が事実上の国家賠償と誤解されないか。…合意が、停滞してきた日韓関係を改善する契機となるのか、見守りたい。


 読売は、韓国が合意を守るかどうかに対する疑念が強い。

産経新聞(→リンク

慰安婦日韓合意、本当にこれで最終決着か 韓国側の約束履行を注視する

 不正常な状態が続く日韓関係をこれ以上、放置できなかった。膠着していた慰安婦問題の合意を政府が図ったのは、ここに重点を置いたものだろう。…だが、合意内容を具体的にみると、日本側が譲歩した玉虫色の決着という印象は否めない。このことが将来に禍根を残さないか。その一つが、安倍首相が表明したおわびの内容として、慰安婦問題について「当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と、「軍関与」に言及したことだ。…韓国側は過去、日本側の謝罪を受け何度か、慰安婦問題の決着を表明しながら、政権が交代し、蒸し返した経緯がある。「妥結」の本当の評価を下すには、まだ時間がかかる。

 産経は、おわびの内容に「軍関与」が含まれていることに不満を述べています。そして韓国がこの問題を蒸し返すのではないかという懸念を強く表しています。

 続いて韓国の新聞。

朝鮮日報(→リンク

慰安婦交渉、韓日合意に対する評価と懸念
 …韓日国交正常化50周年に当たる今年が暮れる前に、両国政府がそれぞれ国内の負担を甘受しつつ接点を見いだしたのは、実に幸いだった。…日本側が軍の関与と政府の責任を認め、首相が謝罪した点は、とりあえず前向きの評価に値する。…しかし、これが「法的責任」を公式に認めたものではないという点では、明らかに限界がある。…韓国政府は、日本側の約束が忠実に履行されるということを前提に、三つの約束をした。今回の合意が「最終的かつ不可逆的なもの」であって、今後国連など国際的な舞台でこれ以上「非難・批判」をしないと言った。駐韓日本大使館前の少女像についても「適切に解決されるよう努力」するとした。日本側が今回の交渉の過程で強く要求していた事項を、全て受け入れたわけだ。…しかし、この先韓日の間で何が起こるか分からない状況で「最終的かつ不可逆」と合意した部分が適切であったかどうか疑問だ。…はっきりしているのは、慰安婦問題にばかりこだわって韓国と日本が反目する局面が、これ以上続いてはならないということだ。

 朝鮮日報は、日本が法的責任を認めていないことに不満を述べつつ、全体として歓迎の論調。

中央日報(→リンク

韓日両国は今こそ前を向いて行こう
 韓日関係の最大懸案である慰安今回の会談の結果は、おわびの程度や表現の仕方などからみると、内容の上で一歩進んだと感じさせる。たとえ慰安婦問題に対する日本側の法的責任までは認めていなくても、岸田文雄外相は「軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり日本政府は責任を痛感する」と発表した。初めて慰安婦問題が日本政府の責任であることが公式に認められたことになる。婦問題が28日、外相会談で妥結した。光復70周年であり韓日協定締結50周年である今年を越さずに両国間の長い間の難題が処理されて幸いだ。今や残った問題は、国民感情の壁をどのように乗り越えるかだ。…ただし憂慮されるのは、韓国が日本側に約束した3つの事案に対する国民的な反応だ。最終的・不可逆的な解決宣言、慰安婦少女像の移転、国際社会での相互非難・批判を控えることは揮発性の高い懸案だ。…それでも交渉相手がいる外交では本質的に完勝というのは存在しないという事実に留意しなければならない。日本の法的責任の不認定など惜しい部分がなくはないが、少なくない収穫があることにおいて両国の努力は認めるに値する。…今回の合意をきっかけに韓日両国は未来に向かって共に進まなければならない。

 中央日報も、合意を歓迎しつつ、韓国側が約束した三つのことに対する韓国民の反応を憂慮しています。

 東亜日報は日本版での翻訳がないので、全文を訳出します。


東亜日報(→リンク、韓国語)

「法的責任」なしに「日本政府の責任」で慰安婦協商を終えた

 韓日外相が昨日、日本軍慰安婦被害者問題解決のための交渉を妥結した。岸田文雄外相はソウルで尹炳世外相と会談した後、発表文を通じて「慰安婦問題は当時軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳に傷つけた問題で日本政府は責任を痛感する」と明らかにした。また「安倍晋三総理も総理大臣の資格で謝罪と反省を表明する」と伝えた。日本は慰安婦の傷を癒すために韓国政府が設立した財団に日本政府予算10億円を出すことにした。これに対し尹長官は「日本政府が先に表明したことを確実に実施することを前提に、日本政府とともに今回の問題が最終的・不可逆的に解決されることを確認する」と韓国政府の立場を明らかにした。光復70年、韓日国交正常化50周年である今年が終わる前に、両国が韓日関係の困難に陥った最大の難題を政府次元で解きほぐしたことは幸いなことだ。 

 慰安婦問題は、韓日関係の発展を阻害する最も痛ましい過去の歴史と言っても過言ではない。1991年に慰安婦被害者の金学順ハルモニの証言で慰安婦の存在が初めて表面化した後も、日本は1965年の韓日請求権協定ですべての問題が解決されたとし、慰安婦強制動員の「法的責任」を認めなかった。昨日の合意は、韓国が要求した「法的責任」も、日本が提示した「道義的責任」という表現も使わない代わりに「軍の関与」と「日本政府は責任を痛感する」という表現で歩み寄ったことで可能になった。韓国では日本政府が責任を痛感したこと、日本では決して法的責任を認めないこと、とそれぞれ有利に解釈できる「創意的代案」を出して、外交的成果を上げたわけだ。

 安倍総理が両国外相の共同会見の後、朴槿恵大統領に電話をかけ、「日本国内閣総理大臣としてすべての慰安婦被害者に対する心からの謝罪と反省の気持ちを表明する」と述べ、安倍総理として初めて、謝罪と反省をあらためて明言したことは評価できる。しかし安倍総理はすぐに「慰安婦問題を含んだ韓日間の財産請求権問題は1965年の韓日請求権協定で最終的で完全に解決されたという日本の立場に変わることがない」と従来の立場を繰り返し、本心に疑問を持たせた。岸田外相も、慰安婦支援基金に日本政府予算を出すことについて「(法的)賠償ではない」と強調し、後味の悪さを残した。

 朴正煕大統領の時期に締結された1965年の韓日基本条約の2条にある「1910年8月22日およびそれ以前に大韓帝国と大日本帝国間に締結されたすべての条約および協定がもはや無効であることを確認する」という文言も、これまでどおり解釈が曖昧だった。韓国側は強制併合条約が不法であるから植民地支配も無効だったと解釈した一方で、日本は締結当時合法だったが国交正常化で無効になったと解釈した。互いに有利に解釈できる方法を選んだが、50年後、結局問題がこじれて収拾がつかず、朴槿恵大統領が解決に乗り出したものだ。

 日本が慰安婦動員の強制性と「法的責任」、賠償問題をはっきり認めなかったにもかかわらず、韓国が「この問題が最終的、不可逆的に解決されたことを確認する」と述べたことについて、政府が日本の圧力に翻弄されたのではないかとの指摘が少なくない。日本政府は韓日外相会談が開かれる前から、合意してもいない内容を日本のマスコミに流して、自分たちの決めた結論へ韓国を追い込んだ面がある。ただちに韓国挺身隊問題対策協議会は28日、「被害者たちと国民の願いを徹底的に裏切った外交的談合」と批判した。

 しかし国家間交渉において、片方が100%満足する結果を得ることは容易ではないことだ。被害者が不十分と感じるかもしれないが、46人しか残っていない慰安婦ハルモニが亡くなる前に合意を引き出さねばならなかったという現実的な事情を認識する必要がある。両国首脳が、交渉妥結後に予想される自国内の一部の反発を押し切って、両国間の最大の懸案である慰安婦問題を妥結したリーダーシップは認めるに値する。朴大統領は、慰安婦問題妥結に関して発表した国民向けのメッセージで「韓日関係改善と大局的な見地から、今回の合意について被害者の方々と国民の皆様が理解をして下さるようを望む」と訴えた。

 駐韓日本大使館の前の少女像について、韓国政府は関連団体との協議を経て適切に解決されるように努力することにした。外国公館である日本大使館の前の少女像は、国際法や国内法上議論の余地があることは事実だ。しかし国内外のほかの少女像は韓国政府が関わる余地がないだけに、この問題について日本がこだわり続けるのは望ましくない。

 韓国と日本は自由民主主義と市場経済の価値観を共有する隣国だ。北朝鮮の核やミサイルによる威嚇のような安保問題や経済、文化など、色々な分野で協力しなければならない部分が多い。激変する東北アジア情勢の中で、未来指向的な韓日関係改善は韓米同盟と韓米日3国協力体制を堅固にするのにも役に立つだろう。今回の合意後、日本で総理や閣僚、政治家たちが交渉妥結の精神を傷つけて慰安婦被害者の傷を深めるような発言をして、やっとのことで得た合意に傷をつけるようなことがあってはならない。

 東亜日報も、国内の反対意見を紹介しつつ、全体的には合意を歓迎する論調。これに対し、ハンギョレ新聞と京郷新聞は、合意に対する批判の旗幟を鮮明にしています。

ハンギョレ新聞(→リンク

法的責任なき慰安婦問題の最終解決はない
 …両国外相が発表した合意案は真の解決法とは距離がある。何よりも慰安婦制度という「国家犯罪」に対する日本政府の法的責任が明確にされていない。…今回の合意は以前の歴代日本政府が提示したものの受け入れられなかった方案の限界を抜け出していない。…今回の合意は支援金の金額がやや増えただけで、以前出された案を総合したものと大差ない。…政府は今回の合意に先立ち慰安婦問題の最も直接的な当事者である被害者たちの意見を聞く手続きさえ経なかった。…原則に反する内容を「外向的解決法」として国民に強要してはならない。…慰安婦問題は今回の合意で「最終解決」されたのではなく、今ようやく出発点に立ったといえる。…

 京郷新聞は日本版がないので、やはり全文を訳出します。

京郷新聞(→リンク、韓国語)

慰安婦合意に納得しない市民と政府の責任

 韓国と日本の間の「慰安婦合意」の翌日に吹き荒れた暴風がすさまじい。被害者ハルモニはもちろん、野党と市民社会の反発も大きい。国際的な葛藤が、政府と国民の間の葛藤に変質する兆しが見える。当初、外交交渉で解決の難しい問題を、年内妥結するという目標にこだわり、拙速に本質を捕え損ねた政府の自縄自縛の結果だ。

 慰安婦問題は、被害者と国民が納得する解決策を整えるのが本来だ。政府は正反対の行動をした。被害者ハルモニたちと対話をして最善の解決策を整えることなしに、先に日本と交渉して導き出した解決策で納得しろと、ハルモニたちに要求している。民意を無視したまま、対話なしに押し切る一方的な国政運営の弊害が、国際交渉にも間違いなく表出されたものだ。政府が、被害者と市民社会の受け入れ不可能な合意について「最終的で不可逆的な解決」と日本に約束したのも、同じやり方だ。国民と被害者の気持ちを十分に代弁しない政府が、そのようなことをする権利はない。国際交渉で、これほどまでにはっきりと外国の要求を受け入れる例も珍しい。

 被害者ハルモニたちは、日本の法的責任を引き出すことができなかったのは背信であり談合だと非難している。国家間の関係は、あくまでも国民の幸福と利益のために存在する。外交交渉が国民の幸福と利益を制限し、犠牲にしてもよいというのであれば、それなりの理由がなければならない。政府はそうした条件を満足させることができなかった。今後、日本の逸脱的な行動も、合意の意味を弱める結果を産むだろう。すでに「日本が失ったのは10億円」という岸田文雄外相の発言が、国民感情を刺激している。政府が少女像移転問題について「適切に解決されるように努力する」という文言を合意文に明示したことは深刻な問題だ。少女像は民間が建立したもので、政府が移転問題に関与できないことを日本の要求に押されて公言したためだ。これは韓国人の自尊心を屈伏させ、深刻な人権侵害と蹂躪の記憶を消すと言うのと同じだ。交渉のわずか一日前に、絶対に妥協対象でないと否認しておきながら電撃的に合意した尹炳世外相に、被害者は背信を感じるほかはない。

 今回の交渉は、被害者である韓国が加害者である日本に堂々と要求するという立場を前提にしていた。しかし現実は、韓国がさらに譲歩する結果が出た。何のためにここまでしなければならなかったのか、政府は国民的な疑問に答える責任がある。合意文には、国民が納得できるような内容がない。韓日および韓米関係の発展と東北アジアの安定のための大局的な決断という話だけでは充分でない。


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