10月21日、韓国は「純国産ロケット」ヌリ号を打ち上げました(リンク)。
ロケットと人工衛星の打ち上げに対する韓国の期待は大きく、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も現地に出向いて打ち上げを見守ったということです。
文大統領によれば、「打ち上げと3段階の切り離しには成功し、衛星を搭載する先端部の切り離しもうまく行ったが、模擬衛星の軌道投入は未成功のままに終わった」のだそうです。
半分成功、半分失敗というところでしょう。
記事にあるように、韓国のこれまでの宇宙開発計画は、あまりうまくいっていませんでした。2009年と2010年には、ロシア製ロケットを使って打ち上げを目指しましたが、2回とも失敗しました。2013年には打ち上げに成功したものの、1段目のエンジンはロシア製でした。
今回は、すべて「純国産」の技術で打ち上げに挑戦したものです。
ところで、今までのロケットの名称は「ナロ号」。「ナロ(羅老)」は打ち上げが行われた島の地名からとられたものです。
今回の、純国産ロケットの名前は「ヌリ号」。
カタカナで「ヌリ」と言われると、「ヌリダ(느리다)」という形容詞が思い浮かびます。これは「遅い」という意味。ロケットの名前としてはちょっとふさわしくないなあ、と思って調べると、「느리号」ではなくて「누리号」でした。
韓国語でヌリ(누리)を辞書で引くと、いくつかの同音異義語がヒットします。
まず「トノサマバッタ」が出てきます。
「バッタ号」か。飛ぶことは飛ぶけど…。
もう一つは、「雹(ひょう)」。これも違うみたいだなあ。
三番目の意味として「世の中」。古い言葉で、今でも詩などには使われる。
また、「누리다(ヌリダ)」は、「享受する」という意味の動詞です。
過去の新聞記事を探してみました。すると、2018年9月3日付のハンギョレに次の記事がありました(リンク、韓国語)。
技術情報通信部は、来る2021年の打ち上げを目標に開発中の韓国型ロケットの名を、「ヌリ」に決めたと発表した。
…科技情通部は、ロケットに新しい名前をつけるため、1か月間国民に公募を行い、6300人から1万以上の応募作を集めて審査してきた。
…科技情通部は、「「ヌリ」は「世の中」を意味する古語で、「宇宙にまで広がる新しい世の中を拓く」という意味を含み、わが国の手で作ったロケットで全宇宙を飛び回り、発展した未来を享受する」ことを希望するという気持ちが込められている」と説明した。
…名称選定にあたっては、コピーライター、国語教師など、外部の専門家が、適合性、象徴性、斬新性、発音、覚えやすさなどを基準に、候補作を選び、ロケット開発に当たった研究者、事業体関係者など400人を対象に意見を聞くというプロセスで進められた。…
「世の中」と「享受する」の掛詞だったんですね。
どちらも、外来語でも漢字語(中国語)由来でもない、純粋な韓国語で、「純国産」ロケットの名称にはふさわしいと言えるでしょう。
ところで、韓国が純国産のロケットにこだわるのには、わけがあります。
まず、北朝鮮がミサイルをガンガン飛ばしているので、それに対抗するためという理由があります。
また、韓国の悲願である先進国入りのために、自前のロケットを持つことが、そのパスポートの一つになるという考え方があります。
もう一つ、軍事衛星などを飛ばすのに他国のお世話になるのは安保上の問題がある、ということも挙げられます。
2012年、韓国は「韓国の独自技術で開発された(実はドイツの光学技術が使われている)」人工衛星、アリラン3号が軌道に乗り、韓国中が湧きたったことがあります。
ところが、あろうことかこの衛星は、日本のHⅡロケットで打ち上げられたのです。HⅡロケットの開発・打ち上げには三菱重工が関わっています。
そのときの朝鮮日報(リンク)は次のように書いています。
…アリラン3号の打ち上げを担当した三菱重工業は、日帝強占期に10万人を超える韓国人を強制徴用し賃金と労働力を搾取して、市民団体から「戦犯企業」という批判を受けている。
「勤労挺身隊ハルモニを囲む市民の会」などは18日、「アリラン3号」打ち上げに関し、 「打ち上げ成功への歓声の後ろには忘れられたハルモニたちの涙がある」、「過去の出来事をものさしにしようというわけではないが、日帝徴用被害者の深い悔恨とため息があることを忘れてはならない」とコメントした。
2008年にアリラン3号の打ち上げロケットとして三菱重工製のH2Aが選定された時も、賠償責任を回避する戦犯企業に政府が事業権を与えたという強い批判が起きたことがある。
(…)実際、韓国航空宇宙研究院がアリラン3号打ち上げの瞬間を捉えた写真はたった一枚だった。日本側から提供された発射の瞬間の写真に日の丸が映っていたからだ。
教育科学技術部と航宇研の上層部関係者は、日の丸が見える写真をメディアに流さないことを決め、画質の良くない写真を一枚だけ公開するほかなかった。
韓国航空宇宙研究院が18日公開したアリラン3号打ち上げ場面(左側)と日本のJAXAがホームページに公開した場面。右側の写真には日章旗が見えるが、韓国側の写真には見えない。
今の日韓間の最大の懸案の一つである「徴用工問題」が、こんなところにも影を落としているわけです。
ロケットと人工衛星の打ち上げに対する韓国の期待は大きく、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も現地に出向いて打ち上げを見守ったということです。
文大統領によれば、「打ち上げと3段階の切り離しには成功し、衛星を搭載する先端部の切り離しもうまく行ったが、模擬衛星の軌道投入は未成功のままに終わった」のだそうです。
半分成功、半分失敗というところでしょう。
記事にあるように、韓国のこれまでの宇宙開発計画は、あまりうまくいっていませんでした。2009年と2010年には、ロシア製ロケットを使って打ち上げを目指しましたが、2回とも失敗しました。2013年には打ち上げに成功したものの、1段目のエンジンはロシア製でした。
今回は、すべて「純国産」の技術で打ち上げに挑戦したものです。
ところで、今までのロケットの名称は「ナロ号」。「ナロ(羅老)」は打ち上げが行われた島の地名からとられたものです。
今回の、純国産ロケットの名前は「ヌリ号」。
カタカナで「ヌリ」と言われると、「ヌリダ(느리다)」という形容詞が思い浮かびます。これは「遅い」という意味。ロケットの名前としてはちょっとふさわしくないなあ、と思って調べると、「느리号」ではなくて「누리号」でした。
韓国語でヌリ(누리)を辞書で引くと、いくつかの同音異義語がヒットします。
まず「トノサマバッタ」が出てきます。
「バッタ号」か。飛ぶことは飛ぶけど…。
もう一つは、「雹(ひょう)」。これも違うみたいだなあ。
三番目の意味として「世の中」。古い言葉で、今でも詩などには使われる。
また、「누리다(ヌリダ)」は、「享受する」という意味の動詞です。
過去の新聞記事を探してみました。すると、2018年9月3日付のハンギョレに次の記事がありました(リンク、韓国語)。
技術情報通信部は、来る2021年の打ち上げを目標に開発中の韓国型ロケットの名を、「ヌリ」に決めたと発表した。
…科技情通部は、ロケットに新しい名前をつけるため、1か月間国民に公募を行い、6300人から1万以上の応募作を集めて審査してきた。
…科技情通部は、「「ヌリ」は「世の中」を意味する古語で、「宇宙にまで広がる新しい世の中を拓く」という意味を含み、わが国の手で作ったロケットで全宇宙を飛び回り、発展した未来を享受する」ことを希望するという気持ちが込められている」と説明した。
…名称選定にあたっては、コピーライター、国語教師など、外部の専門家が、適合性、象徴性、斬新性、発音、覚えやすさなどを基準に、候補作を選び、ロケット開発に当たった研究者、事業体関係者など400人を対象に意見を聞くというプロセスで進められた。…
「世の中」と「享受する」の掛詞だったんですね。
どちらも、外来語でも漢字語(中国語)由来でもない、純粋な韓国語で、「純国産」ロケットの名称にはふさわしいと言えるでしょう。
ところで、韓国が純国産のロケットにこだわるのには、わけがあります。
まず、北朝鮮がミサイルをガンガン飛ばしているので、それに対抗するためという理由があります。
また、韓国の悲願である先進国入りのために、自前のロケットを持つことが、そのパスポートの一つになるという考え方があります。
もう一つ、軍事衛星などを飛ばすのに他国のお世話になるのは安保上の問題がある、ということも挙げられます。
2012年、韓国は「韓国の独自技術で開発された(実はドイツの光学技術が使われている)」人工衛星、アリラン3号が軌道に乗り、韓国中が湧きたったことがあります。
ところが、あろうことかこの衛星は、日本のHⅡロケットで打ち上げられたのです。HⅡロケットの開発・打ち上げには三菱重工が関わっています。
そのときの朝鮮日報(リンク)は次のように書いています。
…アリラン3号の打ち上げを担当した三菱重工業は、日帝強占期に10万人を超える韓国人を強制徴用し賃金と労働力を搾取して、市民団体から「戦犯企業」という批判を受けている。
「勤労挺身隊ハルモニを囲む市民の会」などは18日、「アリラン3号」打ち上げに関し、 「打ち上げ成功への歓声の後ろには忘れられたハルモニたちの涙がある」、「過去の出来事をものさしにしようというわけではないが、日帝徴用被害者の深い悔恨とため息があることを忘れてはならない」とコメントした。
2008年にアリラン3号の打ち上げロケットとして三菱重工製のH2Aが選定された時も、賠償責任を回避する戦犯企業に政府が事業権を与えたという強い批判が起きたことがある。
(…)実際、韓国航空宇宙研究院がアリラン3号打ち上げの瞬間を捉えた写真はたった一枚だった。日本側から提供された発射の瞬間の写真に日の丸が映っていたからだ。
教育科学技術部と航宇研の上層部関係者は、日の丸が見える写真をメディアに流さないことを決め、画質の良くない写真を一枚だけ公開するほかなかった。
韓国航空宇宙研究院が18日公開したアリラン3号打ち上げ場面(左側)と日本のJAXAがホームページに公開した場面。右側の写真には日章旗が見えるが、韓国側の写真には見えない。
今の日韓間の最大の懸案の一つである「徴用工問題」が、こんなところにも影を落としているわけです。
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