犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

幽閉生活の中の読書

2022-08-30 22:34:17 | 
アントン・チェーホフ『賭け』(ロシア語)


 コロナ陽性で自宅の一室に幽閉されてた妻が、10日ぶりに隔離生活から復帰しました。

 さぞつらかっただろうと思いきや、

「家事もしなくていいし、寝転がって本を読んでいればいいので、快適だった」

などと言っていました。

(幽閉中に読書三昧……)

 昔読んだ、チェーホフの「賭け」という小説を思い出しました。たしか、教科書にも載っていたと思います。

あらすじは…

 ある銀行家と法律家が「死刑の是非」をめぐって議論する。

 銀行家は、「一瞬の苦痛ですむ死刑より、長く苦しむ終身刑のほうが残酷だ」と言い、法律家は「それでも生きているほうがいい、自分は独房でも耐えられる」という。

 そして、ある賭けをすることになる。

 法律家は15年間、銀行家が提供する離れで幽閉生活を送り、もし耐えられたら、銀行家は法律家に200万ルーブル渡す、というものだ。

 法律家はその間、だれとも会ってはならず、新聞を読むことも、手紙をもらうこともできない。ただし、楽器を弾いたり、本を読むことは許され、希望する本はすべて銀行家が提供する。

 最初は手軽な読み物を読んでいた法律家は、6年目から、語学書や哲学書、歴史書を読み漁るようになる。やがて、聖書ばかり読むようになったかと思うと、最後の2年間は、自然科学書、シェイクスピア、神学、医学、哲学などあらゆる分野を濫読する。読んだ本は600冊におよぶ。

 そして15年後、あらゆる叡智を得た法律家は、かつてあこがれていた富やこの世の幸福を軽蔑するようになり、期限の5時間前に、自らその部屋を出て、200万ルーブルの受け取りを放棄する…。


 で、妻の場合、15年間ではなく10日間、読んだ本は600冊ではなく5冊でした。

 その5冊とは、

『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、2018年、筑摩書房)

『アーモンド』(ソン・ウォンピョン、2019年、祥伝社)

『あやうく一生懸命生きるところだった』(ハ・ワン、2020年、ダイヤモンド社)

『今日も言い訳しながら生きてます』(ハ・ワン、2021年、ダイヤモンド社)

『死にゆく人のかたわらで』(三砂ちづる、2017年、幻冬舎)


 最初の4冊は私の書棚から持って行った本で、いずれも韓国人著者のもの。『82年生まれ…』は韓国で136万部売れたというベストセラー小説、『アーモンド』は2020年の本屋大賞、『あやうく…』、『今日も…』は韓国のイラストレーターのエッセイで、やはりベストセラーになったそうです。

 最後の本は、長女が私の妻に勧めた本で、癌の夫を自宅で看取るというノンフィクション。私はまだ読んでいません。

「ぜんぶおもしろかったよ」

というのが、妻の簡単すぎる感想でした。

 富やこの世の幸福を軽蔑するようになった兆しは見られませんでした。


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