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Brugge Style
晴れの日の夕暮れは
イングランド南部、昨日今日と、とても春らしい天気に恵まれ、ほとんど丸一日屋外で過ごした。
午前中、夫が洗車をしているのを見ていたらうらやましくなり(水を使って自分の身体やものを洗うと、実際、精神の禊になるそう)、普段は娘の自己責任である彼女の車まで気前よく、3台とも洗ってしまった。
ホースで象の体でも洗っているかのような新鮮な気分になれた。
昼前にはかなり暑くなり、片付けていたカフェテーブルを出すために庭を掃き清めたら、冬の間、テラス奥に避難させていた大型の鉢植えも元の場所にもどしたくなった。
戻したら枯れた葉や枝を取り除きたくなる。植木バサミのパチンパチンという音に無心にさせられる。
柔らかい新芽が出て、蕾はやがて咲く花の色をわずかに透けさせている。
ロビンが虫を探しに近くまで寄ってくる。ロビン大好き。
夫は芝刈りまで済ませてしまった。
そうこうしているうちに冷えてきて、紅茶を入れ、テーブルの上に揺れる影を眺めて、ああ今日は気分がいいねえ、と。
先日、庭師さんが3月からの仕事の下見に来てくれたが、作業が始まったら、蔓ジャスミンや藤や薔薇をあっちに誘導してもらおう、こっちにアーチを作ってもらおう、などと、勝手なことを言って盛り上がる。
太陽の光、外で身体を動かす、何かの世話をする、
というのは精神の健康を保つために必要なのだな、毎夕暮れ、こういう風に満足して過ごせたらいいな。
midsummer dream
英国では、今週月曜日に現行の3回目のロックダウン脱出に向けてのロードマップが示された。
要約すると、「数字が許すならば」、来月3月8日から学校の再開などから始まり、4月には商店やホテル業の一部などが営業開始、5月には美術館や屋内の飲食サーヴィス業、規模を縮小してのコンサートなどが許可され、そして6月21日には規制のすべてが解除される予定だ。
6月21日夏至。
正真正銘、夏の始まりである。
前の2回のロックダウンは、入るのは遅すぎ、出るのは早すぎと判断を誤ったため、人命も経済にも大打撃を与えたとして、今回は慎重である。
その一方で、ワクチン接種が進んでおり、50歳以上は4月15日までに、18歳以上は7月末までに少なくとも一回の摂取が受けられる予定になっている。
多くの人の関心ごとである海外旅行に関しては、今後も数字を見ながら決めていくとの発表であったが、この翌日には夏休みの海外旅行の予約件数が前日の500%から600%に伸びたそう。
その気持ち、分かるよ、分かる!
しかし、なぜ人が殺到することが分かりきっている翌日に? みなさん慎重なのかしら。
ちなみに英国からのダントツ人気の旅先は、例年と変わらず、スペイン、ギリシャだとか。
スペイン、ギリシャ...魅惑的だ。
うちなんか...最近は妄想だけを食って生きているので、プランA、B、Cまで決定済み、予約済みだ。
前にも書いたがプランAはエジプト18日間。
娘のじっくり見て回りたいとの希望による。一年で最も暑い季節ゆえ、また、アフリカ方面の新型コロナの状況は読みにくいので、
プランBはインドネシア18日間。
こちらは娘にアマンダリを見せたいというわたしの希望でホテル滞在目的の旅だ。バリ島の山中のAmandariと海辺のAmankila、ジャワ島ボロブドゥール遺跡近くのAmanjiwo。
しかし、ヨーロッパからの旅行者の受け入れがどうなっているか読めないので、
プランCはローマ14日間。
ロックダウン中、夫と一緒にロンドンのナショナル・ギャラリーの美術史のオンライン講義を受けていて、今週から「バロック」が始まった。
バロックといえばローマ。ローマにじっくり滞在して永遠の都を隅から隅まで見学し、毎食おいしいものを食べ、ローマも猛暑の季節ゆえ気ままに海水浴なんかにも行きたい。
イタリアは今日から美術館・博物館が再開、観光客がゼロなので、システィーナ礼拝堂もウフィツィも、ガラガラでゆっくり堪能できるそう...うらやましくてうらやましくて、ソワソワしてしまう(笑)!!
もしも自分がローマの住人だったら、ロックダウン中でも近所の散歩を楽しんでいるのだろうな、いや、もし2021年の冬にまたロックダウンなら、ローマに引っ越すべきじゃない? とか。
こういう妄想(予約実行班は夫)と、何ヶ月後かに実現するであろう楽しみがなければ、3月8日まですらもやっていられないと思う。
6月は英国も一番美しい季節。ほんとうに待ち遠しい。
温室で昼寝をする
また周りにルームキャンドルや花、写真集、紅茶の乗せられる小テーブルを置いて居心地よくしよう。
今日は外気温は13度ほどだったが、太陽が高くなってきたのだろう、温室内は気温が25度まで上がった。
早速、今年初めて温室内で昼ごはんを食べる。
ミートボール入りトマトのスープと太陽の光でぽかぽか温まり、瞼がどんどん重くなる。
寝椅子に移動、日焼け止めを塗っておいた自分を褒めてやりたい...と思ったが最後、夢の世界に。
20分後、暑すぎて起きる。窓を開けて冷たい空気を入れたらシャキッとした。
猫柳がかわいらしい芽を出しているのに気がついた。
温室内でごろごろできる、いい季節が巡ってきた。
......
昨日、英国政府は現行の三回目ロックダウンの段階的な解除計画を発表した。
事実上去年のクリスマス前に突入した厳しいロックダウンが開けるのはいつか、どのような手続きを経るのか、英国国民の最大の関心ごとだろう。
わたし自身も今回の「冬の」ロックダウンにはほとほと疲れており、時間きっかりにテレビの前に座った。
この計画によると、ロックダウン解除は3月8日から学校再開などで始まり、最終的にすべての規制が解かれるのは6月21日。
うっ、分かってはいたけれど、まだまだ先は長いのだ...
前回2回のロックダウンが、ロックダウンに入るのが遅れ、出るのが早すぎたため、人命にも経済にも被害が拡大したと批判を受け、政府はかなり慎重な姿勢だ。
4回目のロックダウンを実施する余裕はどの分野にもない。
当てずっぽうを避けるため「日付けではなく、データが許すならば」解除、内容も細かく、しかも各段階の間にも5週間の余裕を持ち、実行していく。
例えばわたし自身の興味に関係してくる段階はまだまだ先の第2段階で、百貨店、ホテルなどが規制を伴いつつ営業を始めるのは4月12日から。
海外旅行に関するルールはこの日までに状況を見ながら調整される。
この頃はまだ最大2世帯、最大6人が屋外でのみ集会が可能。厳しい。
わたしならロンドンの一人暮らしの友達1人と、テラス席でなら会える段階。
美術館、レストラン屋内営業、バレエ公演やクラシック音楽のコンサートが人数規制などを伴いながら見られるようになるのは5月17日から。
すぐにヴィクトリア&アルバート博物館の『不思議な国のアリス』がテーマの展覧会のチケットを取り直した。
早速予約案内を送ってきたレストランもある。ロンドンで一番好きなレストラン、エレーヌ・ダローズへ行きたい!
バレエやクラシック音楽は、シーズンが終わるのが例年なら6月だが、今年は5月17日からの1ヶ月間だけ集中して公演するのかしら。
海外旅行に関するルールが撤廃されるのは、この日よりも前倒しにはならない。これでわたしの日本一時帰国の予定も自動的に5月に。
そして6月21日には最後に残されたジャンル、大規模なイベントも可能になる。
英国は人口の28.6パーセント(今日23日の数字)が少なくとも1回目のワクチンを接種した。
このままのペースが保たれるならば、4月15日までに50歳以上と医療関係者、持病のある人などの接種が完了し、7月末までには18歳以上の大人全員が少なくとも1回目のワクチン接種を受けられる。
ファイザーのワクチンも、アストラゼネカのワクチンも英国の調査で良い結果を出しているのは福音である。
自分がどうかというよりは、社会の弱者を守り、子供に教育を受けさせ続けるために、わたしは迷いなく摂取するつもりだ。
また来年、すてきな春を迎えるためにも。
雲のように彷徨っていると
欧州の春を告げる花の一つ、ナルキッソスが、花屋はもちろん、スーパーマーケットにも山積みされる季節が今年も巡ってきた。
一束、15本で1ポンド(約150円)で買える春の先駆け。
言葉選びがダサすぎてあまり言いたくはないが、まさに「春の妖精」。
イングランドは三回目のロックダウン中、家から出られないばかりか、窓から眺める空にも灰色の雲が垂れ込める2月、太陽のような色の薄い花びらを開いて暗い家の一角を輝かし、えもいえぬ香りを振りまく。
ブルージュのベギン会修道院の春の黄金の庭を思い出す。
小さかった娘と散歩した黄色の小道を。
ワーズワースの有名な『水仙』を訳してみた。
韻も踏めていないし、貧しい言語能力と文学的素養ゼロの限界をさらすようで恥ずかしいが、今年の今の気持ちにぴったりなので、笑わず、あきれず、読んで頂戴。
...
わたしは彷徨(さまよ)っていた
谷と丘の上にうかぶ孤独な雲のように
突然、目の前に
黄金に輝く水仙の群れが
湖のそば、樹々のしたに
風に揺れて踊る
銀河に輝く星々のように
またたく
水の縁に
永遠に続くかのように広がる
わたしの目に映るのは10000の花
頭を振り立ててすてきな春の踊り
湖の波も踊る
花の踊りは歓喜の波を起こす
わたしは喜びに満たされる
愉快な仲間にかこまれて
見つめ、見つめるが
言葉にならない
他にどんな富がこんな喜びを与えてくれる?
ソファに座って空虚さと悲痛に沈んでいる時
ふと思い出す
孤独なまぶたの裏に浮かぶのはあの光景
するとわたしの心は喜びに満たされ
水仙と一緒に踊りだす
I wandered lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.
Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
Tossing their heads in sprightly dance.
The waves beside them danced; but they
Out-did the sparkling waves in glee:
A poet could not but be gay,
In such a jocund company:
I gazed—and gazed—but little thought
What wealth the show to me had brought:
For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.
"I Wandered Lonely as a Cloud" by William Wordsworth
ブレグジット、食のあとさき
代わりに、昨日頼まれて作ったパリ・ブレスト。
今回はプラリネ・クリームにローストしたアーモンドと、
アマルフィの砂糖がけレモンピールを合わせた。これが合うのですよ。
英国の料理は、世間一般に知られているようにまずい。
できればもっと婉曲的な言い方をしたいのだが。
ただ、食材はいいものがなくはないので、処理や料理の仕方が悪いのだと思う。
わたしの住んでいる街には家族経営の魚屋さんがある。
ちなみに家族経営の肉屋さんもある。肉はオーガニックの農場から直販で買っているためほとんど利用しないものの、英国でもどんどん減っている個人商店の存続は応援したいと思っている。
で、日本人としてはこの魚屋に世話にならない手はない。
夫はあまりにもしばしば「刺身用」を買い求めるので、店の奥で「刺身紳士」とかあだ名されているかもしれない。
この魚屋でも、一年に一回くらいの確率で解凍の仕方が悪かったのだろう、水っぽく味が抜けた魚介を買わされてがっかりすることもあるとはいえ、わたしの英国生活にはなくてはならないお店のひとつなのである。
金曜の夜、娘が「今夜の手巻き寿司の具に海老の天ぷらを」というので、夫が海老を買いに行った。
そうしたらものすごく立派で、見た目も新鮮なぴちぴちした車海老を買って来た。20センチ、15尾で...恐る恐る値段を聞いたら15ポンド(2千円ほど)。安っ。
頭と殻は後日アメリケーヌ・ソースを作るために冷凍しておくのだが、みそからしてとてもおいしそう!!
この海老が抜群に美味で、どれだけ美味かというと、わたしの天ぷらの腕が上がったのかと錯覚してしまうほどだった。
土曜の夜は天ぷらそのもので楽しむため、夫はまた海老を買いに行った。
そういえばこのところムール貝も、スズキも、カニもイカも、今までとは違うレベルでとてもおいしかったことを思い出した。
なぜか。
ブレグジットは英国と欧州の貿易力学を変化させた。
EUをぬけた英国は、新たな通商ルールに従い、各製品ごとに膨大な税関書類を作成、またそれを厳しくチェックされる必要がある。
この慣れない作業に今までにはない手間がかかり、最近は多少は改善されたのかもしれないにしても、英国の海でとれた、EUに出荷されようとする高級魚介類がトラックの中で劣化していくのをただただ見守るだけだと言う。
EUでは、一番いい食材はパリの市場に集積され、そこから再分配されるのが常なのだそうだ。
トラックの中の魚が古くなって売れなくなるのに何日かかるのかわたしは知らないが、たぶん、2、3日の遅れではないことは間違いないだろう。
もしかしたらパリの市場に集積されるはずだった魚介、流通が悪いためにだぶつき、英国内の市場に出回っているのではないか...
というのがわたしの読みである。
単なる想像である上に、いつまで続くのかも分からないが。
ブレグジット、功罪?
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