ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用 (毎日新聞)

2006年11月17日 | 出産・育児

コメント(私見):

脳性麻痺に関する「無過失補償制度」(医師の過失がなくても妊婦が補償を受けられる制度)を早急に創設すべきという主張に反対する者はいないと思いますが、その保険料を、公的負担にすべきか、患者負担にすべきか、医師(病院)負担にすべきか、について盛んに議論されてきました。

今回の報道によれば、『現在、35万円の出産育児一時金を2~3万円増額して分娩料を増額しやすくして、医師の保険料負担による民間保険で、脳性麻痺に関し「無過失補償制度」を2007年度中に創設する方針が固まった』ようです。

脳性麻痺は、分娩管理が進歩した現代であっても、一定の頻度(新生児千人に2~4人)で必ず発生します。ですから、単に確率の問題でどの妊婦にも同様に発生しうるわけですから、たまたま分娩に立ち会った医師の責任に帰する問題ではなく、本来は、患者負担(または公的負担)による「無過失補償制度」で救済すべき問題と考えられます。

****** 毎日新聞、2006年11月17日

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用

 政府・与党は17日、新生児が脳性まひで生まれてくるなど出産時の事故に関し、医師の過失を立証できなくとも患者に金銭補償する「無過失補償」制度を、07年度に創設する方針を固めた。民間保険を活用、保険料負担は医師に求めるが、負担増対策として健康保険から支払う、現在35万円の出産育児一時金を2~3万円増額する。新生児1人につき2000万~3000万円の一時金を補償する方向で調整する。

 財源に関し、日本医師会は税負担を求めているが、与党は「国が直接かかわる話ではない」として、親に支払う出産育児一時金を活用することにした。一時金を増やせば、やがて出産費がアップし、その分医師の収入増につながるため、医師に保険料を負担してもらう構想だ。

 民間保険会社に新たに「無過失補償」の商品を企画してもらい、産科医が任意加入する形をとる。保険料の決め方などの詳細は今後詰める。先天性異常の場合は、補償対象としない。将来的には、自動車損害賠償責任保険のような強制加入の制度に移行することを想定している。

 政府は、出産育児一時金を37万円にアップすれば、医師全体で約200億円程度の増収となり、事故一件につき2000万円の補償が可能になるとみている。政府は補償金に税投入はしないが、民間保険会社の支払い審査、原因分析といった事務費の半額、数億円を「少子化・医師不足対策」名目で税負担する。

 医療事故に絡む民事訴訟件数は年々増えており、04年は1110件と10年前に比べ倍増している。なかでも産科(143件)は、件数こそ内科などに次ぐ4位だが、医師1000人当たりでは11.8件と最も多い。このことが産科医のなり手不足を招いている、との指摘がある。無過失補償をすることで、被害者の救済に加え、医師不足対策にもなるというのが政府・与党の判断だ。【吉田啓志】

(毎日新聞、2006年11月17日)

****** 参考

「無過失補償制度」の産科医療への導入について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

産科における無過失補償制度の創設

お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省