コメント(私見):
日本のお産の47%は診療所(病床数19以下)で扱われていますが、診療所の半数近くは助産師がいないか一人しかいないのが現実です。新卒の助産師で診療所に就職するのは2 %で、助産師全体の八割が病院(病床数20以上)に集中しています。
分娩場所には、個人の好みにより、さまざまな選択肢があります。分娩場所を大雑把に4 つの類型にむりやり分類するとすれば、
① 自宅分娩で、陣痛が始まったら助産師を自宅に呼んで介助してもらう。何か異常が発生すれば、救急車で病院に搬送される。
② 助産所で、低リスク妊婦のみを扱い、最初から最後まで助産師のみで分娩を介助する。医学的対応が必要な状況になったら、救急車で病院に搬送される。
③ 診療所で、主に低リスク妊婦を扱い、医師の監督・指示のもとに看護師が分娩経過を観察し、異常発生時または児娩出時には医師が呼ばれて対応する。診療所で対応できない場合は、病院に搬送される。
④ 病院の産科で、正常分娩は助産師が主に担当し、異常が発生したら医師が呼ばれて対応する。特に異常がなくても、児の娩出時は医師が全例で立ち会っている場合が多い。ハイリスク妊婦の場合は最初から医師が主に対応する。
というような4 類型に分類することができます。歴史的に、分娩場所のトレンドは大きく変化してきましたが、現時点では、①+②が1%、③+④が99%という状況になっています。
診療所では、いくら必死になって助産師を募集しても、なかなか助産師が集まらないと聞いています。これを違法状態として厳しく取り締まれば、日本中の多くの産科施設で分娩を取り扱うことが困難となってしまうかもしれません。
病院の産科もどこもフル稼働の状況ですから、いきなり診療所の先生方が分娩を一斉に止めてしまえば、あぶれた妊婦さん達の受け皿はどこにもみつからないかもしれません。
現実を無視して、受け皿がないまま、現行の医療体制を違法状態として厳しく取り締まれば、日本中、お産難民だらけになってしまうかもしれません。
****** 産経新聞、2006年11月28日
無資格助産の堀病院 違法性の一部否認
「助産師不足から私の指示でやらせていたが、法に触れるとは思っていなかった」-。助産資格の持たない看護師による内診行為で、27日に計11人が書類送検された堀病院。堀健一院長は現在、当初認めていた違法性について一部否認に転じる供述をしているという。看護師による内診は全国各地の医療機関で長年行われてきており、無資格助産行為をめぐっては、刑事処分の内容もそれぞれ異なる。産科医療の在り方をめぐる「お産論争」にまで発展した堀病院事件で、横浜地検がどのような判断を下すか注目される。(青山綾里)
■違法性認識で対立
堀病院が書類送検された保健師助産師看護師法は、助産師、看護師、准看護師の資格や業務について定めた法律。ただし、具体的な業務内容に関しては記しておらず、産科医は長年、医師の指示のもとで看護師の内診はできると解釈していたようだ。
だが、厚生労働省は平成14年と16年に2度にわたって、看護師の内診行為禁止を医療機関に通知。県警は、年間3000件の出産数を誇る堀病院が、厚労省の通知を無視して確信的に無資格助産を続けていた点を「悪質」と判断し書類送検に踏み切った。
県警が押収したカルテなどを分析した結果、堀病院では過去3年間に診察を受けた妊婦約7900人のうち、9割以上の妊婦が無資格の看護師に内診を受けていたことが判明している。堀院長は8月の家宅捜索直後の会見で、「法律違反と知っていたが、お産を減らすわけにはいかなかった」と話していたが、その後の県警の聴取には「厚労省の通知は要望と思っていた。教育したベテラン看護師がやっているから、うちは問題ないと思っていた」などと供述。一緒に送検された看護師ら10人が容疑を認める一方で、院長だけが一部否認している状況という。
■分かれる刑事処分
県警が堀病院への捜査の端緒としたのは、15年12月29日の出産。妊婦=当時(37)=は出産の際、無資格看護師ら4人の内診を受けて女児を出産したが、その後に体調を崩し、約2カ月後に死亡した。
夫が被害届を出し県警が捜査に着手。県警の家宅捜索後、日本産婦人科医会は「母体の死亡と看護師による内診は関係がない」との見解を示したうえで、「看護師の内診が認められないなら産科医療は崩壊する」と反発した。背景には「助産師不足」という「お産」をめぐる構造的な問題がある。
こうした事情もあるためか、無資格助産行為に関する刑事処分の内容は真っ二つに分かれている。14年に発覚した鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院のケースでは、書類送検された院長ら計5人全員が不起訴処分に。今月10日には、愛知県豊橋市の産院院長ら3人を、名古屋地検が起訴猶予にした。「違法だという明確な認識がなく、健康被害の危険性も認められない」というのがその理由だった。一方で、15年に千葉県茂原市の産院院長が書類送検された事件では、罰金50万円が確定している。
県内では、堀病院のほかにも、これまでに10医療機関で無資格助産行為が発覚している。中には堀病院の事件が明るみに出た後も無資格助産を行っていた医療機関もあったという。横浜地検はこうした実情も踏まえ、堀院長らの違法性の認識や無資格助産の危険性を慎重に検討したうえで、立件の可否を最終判断する方針だ。
堀病院は27日、書類送検されたのを受けて、「関係各位にご心配をお掛けすることとなり深くおわび申し上げる」と謝罪したうえで、「現場で働く助産師が非常に少ないのが現実。今回の捜査が、産科医療の改善に向けた議論の契機となれば」とコメント。同病院側代理人の小西貞行弁護士も「産科医療の現状を踏まえた適切な処分がなされるものと確信している」と話した。
(産経新聞、2006年11月28日)
****** 東京新聞、2006年11月28日
無資格助産 脈々と、堀病院院長ら書類送検
「うちの病院の方針だから、いいんだ」-。二十七日に保健師助産師看護師法違反の疑いで書類送検された堀病院の堀健一院長(78)は、違法性を指摘する同病院の看護部長(69)に対し、こう答えていたことが、県警生活経済課などの調べで分かった。現場の看護師らも疑心を抱きつつ、「命令だからやむを得ない」と内診を続けたという。県警だけでなく、内部からも疑問視された堀病院の実態。今後、書類送検を受けた横浜地検の判断が注目される。 (石川智規)
調べでは、同日に書類送検された看護部長は一九九八年ごろ、院長に対し「資格のない看護師に内診をやらせてはいけないのではないでしょうか」と助言した。また、複数の看護師や准看護師も「いいんですか」と懐疑的だったという。
これに対し、堀院長は「前からやってるからいいんだ」「内診はベテランの看護師や准看にやらせた方がいい」などと答え、取り合わなかったという。
ナースセンターには内診のマニュアルが置かれたほか、新人の看護師らには、先輩の看護師や助産師らが内診の方法を指導し、無資格助産が脈々と続けられたという。
また、県警が同病院のカルテを分析したところ、第一-三期に分かれる分娩(ぶんべん)の各段階のうち、子宮口が全開大となる第一期だけでなく、出産直前の第二期でも「相当の頻度」(県警)で無資格者の内診が行われていたという。
押収したカルテによると、二〇〇三年十一月下旬から今年八月中旬までの間に約七千九百人に内診が行われた。うち約七千五百人に対し無資格者が内診をし、回数は三万九千回に及んだという。
県警は「他の病院は月に一度か二度やむを得ずという形だが、堀病院はより悪質」としている。
■ケタ外れの“違反件数”
「ケタ外れの規模」。県警幹部は二十七日、堀病院で無資格助産が日常化していた状況をこう評した。
捜査は、看護師による内診の是非をめぐり、厚労省と医師会などの関係機関が議論を続ける中で行われ、報道や医師会などから大きな反響があった。過去に無資格助産容疑で書類送検された病院に比べ、堀病院は格段に規模が大きく、「関係者が影響の大きさに尻込みして、供述が得られにくい状況だった」(捜査幹部)という。
さらに堀院長は調べに対し、「違法だと知っていた」との当初の供述を転換させ、「法に触れるという認識はなかった。教育して訓練した看護師がやったのだから問題ない」と犯意を否認したという。
これに対し、県警は、堀病院での無資格内診を「組織的」と位置づけた。堀病院では九割以上の妊婦に対して無資格助産が行われ、横浜市の調査で無資格助産が判明した他の病院が、月に数回程度だったのに比べて、突出していた。堀病院では助産師のほとんどが産科病棟ではなく母親教室で働くなど、出産における助産師の役割は著しく軽視されていたと判断した。(中沢穣)
(東京新聞、2006年11月28日)