コメント(私見):
日本産婦人科医会が今年5月発表した全国5861施設への緊急調査では、『現在産科に勤務している助産師数を必要数で割った充足率は71%で、不足は6718人。必要数に満たない施設が75%、「助産師ゼロ」の診療所も19%あった。』と報告されています。
現実に、助産師数が充足されていない施設が75%もあり、助産師ゼロの診療所も19%もある!との調査結果です。そのような現実を無視して、産科医療供給システムの性急な改変をあくまで貫徹しようとすれば、日本全国の多くの妊婦さん達がいきなり分娩場所を失うことになってしまいます。それらの妊婦さん達が一斉に残された施設に殺到することになってしまえば、全く収拾がつかなくなってしまうことでしょう。
例えば、助産師が2~3人しか勤務してない施設では、24時間体制で十分な助産師を配置しようとしても絶対に無理です。24時間体制で各勤務帯に助産師を十分に配置するためには、相当な数(最低でも20~30人)の助産師が必要になります。だからと言って、年間分娩件数200~300程度の規模の産科で、助産師を20~30人も雇うわけにもいきませんから、多くの産科施設が、いっそ分娩取り扱いを中止して産科を閉鎖してしまうか?、あるいは、助産師数を大幅に増やして規模を拡大して産科を継続するか?の岐路に立たされています。
現在、分娩取り扱い施設の多くが、助産師不足、産科医不足のために、維持困難な状況に陥っています。現実の助産師数、産科医数に比べて、分娩取り扱い施設数が圧倒的に多すぎることは間違いありませんから、各地域で、助産師、産科医を適正に再配置する必要があります。しかし、産科医療供給システムの抜本的変換を実行するためには、それなりの準備期間が必要です。今すぐ実行しろと言われても無理です。
現実的な対応が望まれます。
参考:
私の視点:出産医療危機 厚労省の性急改変に問題、田中啓一 (朝日新聞、2006年11月22日)
看護師の内診は違法か、八木 謙 (日本医事新報、2006年10月14日)
無資格内診摘発、助産師不足 産科大揺れ (朝日新聞、2006年11月24日)
****** 読売新聞、2006年11月26日
無資格助産3年で9000件、堀病院院長ら書類送検へ
横浜市瀬谷区の堀病院が助産師資格のない看護師らに助産行為をさせていたとして捜索を受けた事件で、神奈川県警生活経済課は27日にも、堀健一院長(78)ら幹部と看護師、准看護師の約10人を保健師助産師看護師法違反の疑いで横浜地検に書類送検する。
県警は押収した3年分のカルテなどを分析、ほぼすべてにあたる約9000件で無資格の助産行為が行われていたとしている。
堀院長は「約40年前の開業当初から無資格助産をしていた」と供述。県警は、病院ぐるみの違法行為だったとして、捜索容疑になった2003年の出産のほか十数件についても合わせて書類送検する。
調べによると、看護師と准看護師は03年12月29日、入院中の名古屋市の女性(当時37歳)に、助産師資格がないのに約2時間にわたり、産道に手を入れ胎児の下がり具合を判断する内診などの助産行為をした疑い。堀院長は看護師らに内診をさせる病院の運営方針を決めた疑い。女性は長女を出産したが、多量に出血し、約2か月後に死亡した。
ほかに書類送検する十数件は、厚生労働省が看護師の内診を違法とする2度目の通知を出した04年9月以降のお産で、特に違法性が高いと判断した。
堀病院は捜索後、横浜市から4回の立ち入り検査を受けた。1回目の検査では、常勤助産師は5人、非常勤1人。今月22日、4回目の検査で非常勤が4人増えていたが、分娩(ぶんべん)件数に比べ十分と言えず、市は「勤務状態に余裕を持たせるべきだ」と助産師の確保に努めるよう指導している。
(読売新聞、2006年11月26日)