ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

無資格内診摘発、助産師不足 産科大揺れ (朝日新聞)

2006年11月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

陣痛室に数人の陣痛開始した妊婦さんが入院していれば、助産師は、それぞれの妊婦さんの傍らにつききりで、分娩が終了するまで、介助し続けなければなりません。産科病棟ではそういう状況が、1年中、夜昼かまわず延々と続いているわけですし、最近は助産師外来を充実させようという動きもありますから、助産師数はかなりの大人数を要します。

しかし、いくら大々的に助産師を募集しても、そう簡単には助産師は集まりません。やはり、常日頃から、助産学生をきちんと教育して地元で新人助産師を多数養成して積極的に採用し、ベテラン助産師が新人助産師を数年かけてしっかりと教育してベテランに育て上げ、立派に育った助産師達が、後輩の助産学生や若い助産師を教育してゆくというように、地道に、地元で人材を育成し続けてゆくことが重要だと思います。

いくら分娩件数が増えたとしても、分娩件数の増加に見合うだけ、十分に助産師数が増えれば、それほどの激務にはならないだろうし、産休や育休も十分に取れて、一生の仕事として長く勤務してもらえると思います。

また、助産師達に自律して思う存分に活躍してもらうためにも、助産師と医師との連携を緊密にして、安全性が十分に確保された分娩環境を整えてゆくことが非常に重要だと思います。

「助産師は大勢いるのに、医師数が全く足りない」とか、「医師数はそこそこ足りているのに、助産師数が全く足りない」とかのアンバランスな状況の職場では、それぞれのスタッフの専門能力を十分に発揮できません。場合によっては、助産師や医師を地域内で適正に再配置するような調整が必要になると思います。

****** 朝日新聞、2006年11月24日

無資格内診摘発
助産師不足 産科大揺れ

「お産撤退」動き拡大

 九州のある診療所は10月いっぱいで、年約200件あったお産の扱いをやめた。13~14年前は5人いた助産師が家庭の事情や出産で辞め、ここ数年は2人に。6月、そのうちの1人が定年になり、もう1人の助産師と、当直で内診を担っていた看護師が相次いで辞めた。

 50代の院長は「少人数では夜のお産がみられない、と次々に辞めていく悪循環だった」。看護学校や知人の紹介などあらゆる手だてを使って助産師と看護師を募集したが、応募がない。

 内診とは、子宮口の開き具合などからお産の進行具合をチェックすること。厚労省が、告発を受けて02年と04年、医師・助産師以外はできないと通知を出すまで、半世紀にわたり広く看護師が携わってきた実態がある。だが、8月の横浜市・堀病院の家宅捜索を受け、「いざとなれば責任を問われる」と看護師までが産科診療所を敬遠するようになった、と感じる。自分一人で内診を担うのは体力が続かない。「分娩はもう無理」と判断した。

 朝日新聞が日本産婦人科医会の各都道府県支部に聞き取りをしたところ、「今夏以降、助産師が確保できずに、お産を扱わなくなったり廃業を検討したりしている施設がある」のは、青森、岩手、茨城、東京、三重、京都、大阪、広島など18都府県にわたった。

 岩手県の小林高支部長は「助産師どころか、看護師の採用もままならない。当直がある産科は嫌われる」。秋田県の高橋裕副支部長は「夏以降、県内でも3診療所で助産師を新たに募集した。だが、3カ所とも採用できなかった」。過疎化と少子化で診療所のお産は年平均220件という島根県。小村明弘支部長は「小規模施設で6人の助産師を雇えば、経営できなくなる。少ない助産師を長時間働かせれば労働基準法違反に問われかねない」と嘆く。

 助産師不足を主な理由にこの数年で7診療所が分娩をやめた三重県。二井栄支部長は「県内のどこかに警察の家宅捜査が入れば、ほとんどの診療所が『お産ストライキ』状態になるだろう」と話す。同県では、「助産師がいない」または「充足率30%未満」の診療所が6割強を占める。診療所で助産師がいない時間帯に陣痛が始まった場合、これまでのように看護師が診れば違法性を問われる。結局、診療をせず、助産師のいる病院に送らざるを得ない、という。「こんな地方の現状を見ずに、警察の捜査が先行するとやりきれない」

解消に「最低10年」 75%の施設不十分

 厚労省によると06年、医療施設などに勤務する助産師は2万6千人で、不足は1700人。リタイア中の助産師の職場復帰を進め年600~700人ずつ増やし、10年までに充足率は97%になる、としている。だが、これは産科以外で働く約4千人を含んだ数字だ。

 日本産婦人科医会が今年5月発表した全国5861施設への緊急調査では、現在産科に勤務している助産師数を必要数で割った充足率は71%で、不足は6718人。必要数に満たない施設が75%、「助産師ゼロ」の診療所も19%あった。医会は「不足解消に最低10年はかかる」とみる。

 しかも、偏在が深刻だ。助産師になるには、看護師のカリキュラムに加え、大学や短大で720時間を履修、国家試験を受ける。助産師は自律してお産を扱えるため、医師主導になる診療所を敬遠し、都市部の病院に就職する傾向が強い。診療所はお産の半数を担うが、勤める助産師の数は病院の4分の1だ。

 「育てても県内に残らない」と嘆くのは佐賀県医務課。県内27の産科診療所のうち8カ所が「助産師ゼロ」。94~05年に県立総合看護学院の助産師コースを卒業した173人のうち、県内就職組は41人。県は6月、厚労省に「産科で働いている看護師が助産師になるための通信教育制度の創設を」と要望書を出した。

偏在の切り札遠く 夜間養成所整備へ

 厚労省も来年度から、産科の看護師が働きながら学べる夜間の助産師養成所整備に乗り出す。助産師養成所は現在、全日制コースしかないが、そこに併設することなどを想定。すでに水戸市医師会が名乗りを上げた。

 しかし、看護師の高学歴化が進み、助産師養成も大学や短大に移行。98年には47校あった養成所は33校に減っている。山形、群馬、石川、大分など助産師不足が深刻な地域に養成所がなく、偏在対策の有効な切り札にはならない。

 また、日本助産師会の江角二三子事務局長は「現在の助産師教育ですら医療行為をするには短すぎるといわれ、2年制の大学院を設けたばかり。数合わせのために、産科看護師を助産師にすればいいというものではない」と警戒する。偏在対策には、現在働いていない推定2万6千人の「潜在助産師」の復帰研修充実を、という立場だ。

 日本産婦人科医会は8月末、「少なくとも助産師が充足するまで、看護師による医師の指示下における内診を認めて欲しい」と声明。だが、厚労省看護課は「足りないからといって、法の解釈を時限的に緩めるわけにはいかないし、違法行為は黙認できない。育成コースの充実以外、現時点で方策はない」としている。

(朝日新聞、2006年11月24日)