コメント(私見):
助産所または自宅での分娩は、両者を合わせても、せいぜい全体の1%程度であり、日本の分娩の99%は病院または診療所で行われているのが現状です。
助産師数は、資格取得者全体の数としてはそれほど不足してないのかもしれませんが、診療所に勤める助産師数が絶対的に不足していることは確かな事実です。常勤助産師数ゼロ!という診療所も少なくありませんし、常勤助産師がいたとしても、せいぜい2~3人というところが多いのではないかと考えられます。今後いくら助産師を大量に養成したとしても、診療所の助産師が増えてくれるかどうかは全くわかりません。
一方、分娩件数が大幅に増えている地域中核病院では、助産師数はそこそこ足りていても、産婦人科医数が絶対的に不足し窮地に立たされているところが少なくないです。
瀕死の状況にある地域産科医療の生き残りのためは、産科診療所の先生方に、地域中核病院の産科医療に積極的に参加していただくように方向転換してゆくしかないと思われます。
参考:
無資格助産3年で9000件、堀病院院長ら書類送検へ (読売新聞)
****** 朝日新聞、2006年11月27日
無資格助産容疑で院長、看護師ら書類送検 横浜の堀病院
年間出産数が国内有数の約3000人に及ぶ横浜市の堀病院による無資格助産事件で、神奈川県警は27日、堀健一院長(78)と看護部長の女性(69)、看護師、准看護師ら計11人を、助産行為ができる資格者を定めた保健師助産師看護師法違反容疑で横浜地検に書類送検した。県警の聴取に対し、堀院長は、産道に手を入れて胎児の位置などを確認する内診行為を看護師にさせていたことを認めたうえで、「内診は法律で定める助産行為ではない」などと犯意を否認し、看護部長ら10人は違法性を認識していたと供述しているという。
生活経済課などの調べでは、同病院では医師や助産師の資格のない看護師、准看護師が03年12月29日~06年5月23日ごろの間、名古屋市内の女性(当時37)ら17人が出産する際、堀院長らと共謀して内診をした疑い。
県警が約8260人分のカルテを押収して調べた結果、03年11月26日から06年8月18日まで内診を受けたことが確認できた妊婦は7912人おり、うち約7500人は看護師、准看護師が内診をしていたという。
厚生労働省は02年11月と04年9月、看護師による内診行為の禁止を都道府県に通知。2回目の通知では、医師の指示があっても看護師は内診をしてはならない、とした。県警は、2回目の通知後も堀病院で無資格内診が続けられていたことを悪質と判断した。
堀病院は8月に家宅捜索を受けて以降、看護師による内診を中止。内診をさせていた理由を、堀院長は記者会見などで「医師に胎児の取り上げをさせていたため、取り上げをしたい助産師が辞めていった。その後、通知もあって助産師を集めようとしたが、集まりにくく、看護師にやらせていた」と説明している。
一方、横浜市は8月以降、4回にわたって立ち入り調査を実施。だれが内診をしたかカルテで確認し、助産師確保に努めるよう指導している。市によると、当初より4人の助産師が増え、現在は常勤・非常勤合わせて10人になったという。
(朝日新聞、2006年11月27日)
****** 共同通信、2006年11月27日
院長ら11人を書類送検 恒常的に看護師らが内診 堀病院の無資格助産事件
横浜市の堀病院の無資格助産事件で、神奈川県警生活経済課は27日、保健師助産師看護師法違反の疑いで、堀健一(ほり・けんいち)院長(78)と助産師資格を持つ看護部長 (69)、看護師、准看護師ら計11人を書類送検した。
同課は8月に同法違反容疑で堀病院を家宅捜索。出産記録の分析などから、医師か助産師にだけ認められる「内診」という助産行為を堀院長が看護部長を通じて指示し、恒常的に 看護師や准看護師に行わせていたことが判明。厚生労働省が2002年と04年に看護師による内診を禁じる通知を出したのに、無資格助産を繰り返した点などを「悪質」と判断 した。
03年11月から06年8月の間に内診を受けた妊婦計約7900人のうち、約7500人が看護師らによる内診だったという。
同課の聴取に堀院長は「すべて私の責任」と認めているが、通知については「厚労省の要望という認識しかなかった」と、違法性の認識が明確ではなかったという趣旨の供述をし ているという。看護部長ら10人は全員容疑を認めているという。
調べでは、堀院長らは2003年12月、出産で入院した女性=当時(37)=について、子宮口の開きなどお産の進み具合を確認する内診を看護師と准看護師計4人に行わせた のをはじめ、今年5月までに妊婦計17人の出産で無資格助産を繰り返した疑い。
女性は出産後、大量出血し、別の病院に転院。04年2月に多臓器不全で死亡した。
看護師による内診は各地の医療機関で長年行われてきており、横浜地検は無資格助産の危険性などを慎重に検討し、立件の可否を最終判断するとみられる。
〔出産時の内診〕 産道に手を入れて子宮口の開きや胎児の頭の位置など、お産の進み具合を確認する助産行為。厚生労働省は2002年と04年に「看護師が行ってはならない」と都道府県に通知 した。日本産婦人科医会などは、助産師不足で廃業する産婦人科が多い現状を訴え、陣痛から子宮口全開までの「分娩(ぶんべん)第1期」は、医師の指示下で看護師による内診 を認めるよう主張。一方、子宮口全開から出産までの「分娩第2期」については求めていない。助産師団体などは「内診は出産時の危険の予知と回避のための助産業務で、看護師 は代行できない」としている。
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注目される横浜地検の判断 分かれる同種事件の処分
医師か助産師にのみ許される助産行為の「内診」を看護師らに行わせたとして、院長ら11人が書類送検された堀病院の無資格助産事件。これまで同種事件の刑事処分の内容は分 かれている。「日本一」の出産数をうたう病院で起きた事件は、産科医療の在り方をめぐる論争にまで発展、横浜地検の判断が注目される。
2002年に発覚した鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院のケースでは、書類送検された院長ら計5人全員が不起訴処分に。一方、千葉県茂原市の産院院長が書類送検された事件(3 年)では、04年に罰金50万円が確定した。
今月10日には、愛知県豊橋市の産院院長ら3人を、名古屋地検が起訴猶予にした。犯罪の成立は認めたが「違法性の認識が明確でなく、証拠上(看護師らによる内診に)健康被 害の危険性は認められない」という理由だった。
厚生労働省は02年と04年、都道府県にあてた通知で看護師による内診を禁じた。堀病院の堀健一(ほり・けんいち)院長(78)は8月の家宅捜索直後の記者会見で「法律違 反と知っていた」と話したが、その後の県警の聴取に「厚労省の要望という認識だった」と供述したという。
助産師不足を背景に無資格助産は各地の医療機関で行われてきた実態がある。日本産婦人科医会などは「内診は子宮口の開き具合などの『計測』で、体を傷つける危険性はない。 医師の指示下で看護師が行える」と主張している。
横浜地検は堀院長らの違法性の認識、看護師による内診の具体的な危険性などを検討し最終判断するとみられる。
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無資格助産事件の経過
2002年4月 鹿児島県鹿屋市の産婦人科医院で看護師による内診が発覚。県警は03年、院長ら5人を保健師助産師看護師法違反容疑で書類送検。後に全員不起訴。
2002年11月14日 厚生労働省が「内診は助産行為に当たり、看護師が行ってはならない」と通知。
2003年8月20日 千葉県警が同法違反容疑で同県茂原市の産院院長ら8人を書類送検。院長は罰金刑確定。残りは不起訴。
2003年12月29日 横浜市の堀病院で、准看護師らが院長の指示で女性=当時(37)=を内診。
2004年9月13日 厚労省が看護師による内診を禁じる2回目の通知。日本産婦人科医会が撤回求める。
2005年4月28日 厚労省で同法の在り方について検討会。11月までに「看護師による内診」を認めるか意見まとまらず。
2006年8月24日 神奈川県警が同法違反容疑で堀病院を家宅捜索。
2006年10月18日 愛知県警が同法違反容疑で同県豊橋市の産婦人科医院院長ら3人を書類送検。後に全員が起訴猶予処分に。
2006年11月27日 神奈川県警が同法違反容疑で横浜市の堀病院の院長ら11人を書類送検。
(共同通信、2006年11月27日)