コメント(私見):
分娩時に母児の異常事態が起きた場合に、分娩施設内で速やかに適切な処置ができることが非常に重要です。分娩時の異常はいつ起こるか全く予測ができませんから、分娩施設では24時間体制で適切な処置ができる体制を整備しておく必要があります。
産科医の当直日数を週1回以下にして、当直の翌日は非番にできるような勤務体制にするためには、産科の常勤医は10人程度は必要です。新生児科医、麻酔科医も院内に常駐している必要があります。
現状の不十分な医療提供体制のまま放置すれば、基幹病院の常勤医達が疲れ果てて大挙して現場から離脱してしまい、事態はますます悪化するばかりだと思います。
****** 毎日新聞、2006年11月21日
奈良・妊婦転送死亡:脳内出血死、9年前の提言生かせず----「CTに有用性」
◇旧厚生省研究班「CTに有用性」
妊産婦に異常事態が起きた場合、分娩(ぶんべん)施設内で速やかに処置できるよう、医師数や検査機能の充実など体制整備を求める提言を、旧厚生省研究班が97年にまとめていたことが分かった。全国約200人に及ぶ妊産婦の死亡原因を詳細に分析して導き出した報告。だが今年8月に奈良県の妊婦が脳内出血で死亡した問題では、分娩施設や搬送システムの体制不備など地域の産科救急体制の危機が浮き彫りになり、9年前の貴重な提言が生かされなかった形だ。【根本毅】
「妊産婦死亡の原因の究明に関する研究班」(班長、長屋憲・吉祥寺南町診療所院長)の報告によると、91-92年の妊産婦死亡は230人に上った。調査できた197人の死因は、子宮破裂などによる出血性ショックが74人で最も多く、次いで脳出血が27人だった。
死亡例の分析で、転送された施設(大学病院を除く)の産婦人科の平均医師数は、常勤が4・4人、当直は0・6人。麻酔科医なども少なく、「十分な24時間体制とはあまりに懸け離れた現状」と指摘した。一方、死亡した妊産婦の分娩を当初扱った施設は、より体制が貧弱で「マンパワーや検査機能の不備が死亡に大きく影響した」と分析した。
脳出血では、頭痛を訴えたのに診断・搬送が遅れた例もあった。診断について「頭痛や血圧上昇、意識消失があると、産婦人科医の多くは妊娠中毒症や子癇(しかん)発作と考え、その治療を優先させる。これは現時点では正しい」とした。その上で、CT(コンピューター断層撮影)の有用性に触れ、「どの症状なら脳出血を疑い、画像診断(CT)すべきかガイドラインを示す必要がある」と提言した。
今回の奈良のケースでも夜間、脳外科医と麻酔科医が不在で、産科医と内科医計2人で対応。報告書の指摘と同じように頭痛や意識消失などの症状があったが、失神や子癇発作と判断し、CTは撮らなかった。
長屋院長は「9年前と変わらず、全身管理の専門家や設備がほとんどない状態で大多数の分娩が扱われていることが最大の問題。こんな危険な環境での分娩は、日本ぐらいなものだ」と早急な改善を訴える。
(毎日新聞、2006年11月21日)