ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

京阪中之島線の延伸は、とりあえず断念された。しかし……

2024年04月13日 00時00分00秒 | 社会・経済

 2023年12月18日7時付で「京阪中之島線の行方は」と題して投稿しました。今回は続篇というべき内容です。2024年4月12日15時付で、読売新聞社が「中之島線30年延伸を断念…京阪HD、IR撤退リスク見極め」として報じています(https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20240412-OYO1T50030/)。

 中之島線の延伸計画は、「京阪中之島線の行方は」において記したように、現在の起点である中之島駅(終点に見えますが、令和5年度鉄道要覧によると中之島駅が起点、天満橋駅が終点です)から大阪メトロ中央線九条駅まで延長するというものです。2キロメートル程度の延伸ですが、リスクは低くないということでしょう。

 タイトルに「とりあえず」という言葉を入れたように、京阪ホールディングスは完全に断念した訳ではなく、2030年秋までの開業を断念したのでした。その理由は、夢洲に建設が予定されているIRの白紙撤回という可能性が残されているということです。2030年冬以降の開業についてはまだわかりません。要は判断の先送りです。

 上記読売新聞社記事には「京阪HDは昨年7月以降、構想を検討してきた。だが、大阪府とIR事業者が昨秋、締結した実施協定に、事業者が26年9月末まで違約金なしで撤退できる『解除権』が盛り込まれ、リスクが大きいと判断した」と書かれており、さらに京阪HDの会長の発言の趣旨として「延伸したいが、はしごが外される可能性が出てきた。延伸は解除権の見通しが立つのが最低限(の条件)だ」と書かれています。この懸念は当然のものです。地下路線を延伸するのですから工事費も大変なものになるでしょうし、そもそも中之島線の開業区間の工事費も回収できていないでしょう。物価も上昇していますし、人件費も高騰しています。「リスクが大きい」というより大きすぎると考えるべきでしょう。というより、結局のところは延伸計画がIR頼みであるのが「何だかなあ……」という感じです。

 ここは思い切って完全に断念すべきであり、かつ、計画を変更すべきでしょう。中之島線の線形(?)が中途半端なものであることは否定できないので、大阪府、大阪市の交通網全体を見据え、利便性の向上につながる路線とする計画に変えるのです。IR頼みとは、交通政策としていかにも貧相です。

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肥薩線の復旧で合意がなされる

2024年04月03日 20時50分00秒 | 社会・経済

 2020年7月の豪雨で、JR肥薩線の八代駅から吉松駅までの区間が不通となりました。私も写真や動画で見ましたが、八代駅から人吉駅までの区間は、球磨川に沿っているということもあってか、被害は甚大であり、路盤は崩壊する、橋梁は流される、など、一体何箇所被災したのかと問いたくなるような状態でした。

 元々、JR九州の鉄道路線の中では平均通過人員が低いほうであり、とくに人吉駅から吉松駅までの区間は一日3往復しかなく、2019年度の平均通過人員が106であり、おそらくJR九州で最も低い数値でしょう。かつては鹿児島本線の一部であったという歴史があった(その理由などについては省略します)と思えないような状況でした。そのため、廃線とされてもおかしくないと言えるのです。九州新幹線の新八代駅から鹿児島中央駅までの区間が開業したことによって鹿児島本線の八代駅から川内駅までの区間が肥薩おれんじ鉄道に移管され、肥薩線がJR九州に残されたのは、何とも皮肉な話ではあります。

 不通となってから3年半が経過して、今日、つまり2024年4月3日、国、熊本県およびJR九州が復旧に関する会議を開き、そこで肥薩線の八代駅から人吉駅までの区間について復旧することで三者が合意しました。熊本放送が今日の19時24分付で「【JR肥薩線】八代ー人吉間で鉄道復旧合意 日常利用促進の『具体的な施策が示された』 2033年ごろの再開を目指す」として報じています(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rkk/1093877?display=1)。

 この合意にはいくつかの前提があるようで、熊本放送のニュース記事では「JR九州は、観光だけでなく日常の利用を増やすよう県に求めていました」とした上で「きょうの会議で県は自治体職員が公務で積極的に利用することや、子どもたちが肥薩線と触れ合う機会を増やすことなど具体策を示したということです」と報じており、これでJR九州が合意に向かったということのようです。

 もっとも、復旧するとしてもかなりの時間が必要となります(費用については言わずもがな、です)。熊本県は2023年度頃の再開を考えているようですが、今から9年後、不通となってから14年後ということになり、その間に沿線人口の減少なども見込まれることを考えるならば、肥薩線の需要も減ることは明らかであり、復旧することが地域のためになるのかどうか、疑問も残るところです。

 さらに気になるのは、人吉駅から吉松駅までの区間です。今日の会議では、この区間について結論は出されておらず、さらに協議が続けられるとのことです。被害がどの程度であったのかはあまり報じられていなかったと記憶していますが、本数の少なさ、乗客の少なさなどからすれば、廃線という結論が出る可能性も否定できません。

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JR芸備線を巡る再構築協議会が始まった

2024年03月27日 00時00分00秒 | 社会・経済

 このブログで何度も取り上げているJR西日本の芸備線を巡り、再構築協議会が組織されたことは既に取り上げています。

 2024年3月26日、広島市で再構築協議会が開かれました。時事通信社が同日の17時2分付で「3年以内に再構築方針作成へ 芸備線存廃議論スタート―全国初の協議会・国交省」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2024032600180&g=eco)として報じています。

 2023年の地域公共交通活性化再生法改正の後、再構築協議会が開かれたのは日本全国で初めてのことです。今後3年以内を目処にして、鉄道路線としての存続かバス転換か、などの方針を決めることが確認されました。ただ、参加者の立場はそれぞれで異なりますから、いつ方針が決定されるのかは何とも言えません。

 まず、国土交通省中国運輸局長(再構築協議会の議長)は「廃止ありき、存続ありきという前提を置くことなく具体的なファクトとデータに基づき議論を進めていく」と述べました。議長としては当然の発言でしょう。

 次に、JR西日本広島支社長は、芸備線が鉄道の特性を発揮できていないと発言しました。この特性は大量輸送の観点によるものです。「地域と利用者の視点に立って議論していきたい」という言葉も発せられていますが、文字通りに捉えるべきであるかどうかは、私が記さなくともおわかりの方々も多いことでしょう。

 続いて岡山県副知事が、芸備線の、問題となっている一部区間、すなわち備中神代駅から備後庄原駅までの区間の維持を求め、広島県副知事はJR西日本の業績が好調であるとした上で、JR西日本が当該区間を維持できない理由の説明を求めると述べました。

 隔たりが大きいのは明らかで、落とし所が何処なのかを見つけるのも困難かもしれませんが、今後も協議を続けるしかないでしょう。第2回の協議会は今年の秋頃に開かれるようですが、その下部組織である幹事会が5月中旬に開催されるようです。実質的な協議は幹事会で進められ、一定の方向性が見出されることでしょう。

 なお、3月26日の協議会では規約が制定されました。その内容については「中国運輸局や岡山、広島両県、新見、庄原、広島、三次各市、JR西などを構成員とする規約が制定された」とのみ、上記時事通信社記事には書かれています。

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吾妻線の一部区間の存廃論議か

2024年03月23日 00時00分00秒 | 社会・経済

 「やはり」という印象は避けられません。朝日新聞社が、2023年3月22日19時00分付で「JR東、吾妻線沿線自治体に協議申し入れ 終点付近区間の存廃議論へ」(https://www.asahi.com/articles/ASS3Q5KN9S3QUHNB001.html)として報じています。

 吾妻線は、上越線の渋川駅から大前駅までに至る55.3kmの路線です。元々は渋川駅から長野原駅(現在の長野原草津口駅)までの路線で、長野原線と称していました。また、長野原駅から太子駅までの区間も開業しますが、この区間は1970年に休止、1971年に廃止となっています。一方、長野原駅から大前駅までの区間は、大正時代の鉄道敷設法の別表に第54号ノ2「群馬県長野原ヨリ嬬恋附近ニ至ル鉄道」および第54号ノ3「群馬県嬬恋附近ヨリ長野県豊野二至ル鉄道」として追加されたものです。「嬬恋附近」が具体的に何処のことなのかは不明ですが、1961年まで草軽電気鉄道の上州三原駅が吾妻線の万座・鹿沢口駅(その当時は未開業)の近くにあり、上州三原駅の隣が嬬恋駅であったので、おそらく万座・鹿沢口駅付近が想定されていたのでしょう。そして、1971年、長野原駅から大前駅までの区間が開業します。結局、大前駅から豊野駅までの区間は工事すら行われないままに終わりました。

 私が小学生であった1970年代後半には、吾妻線の渋川駅から万座・鹿沢口駅までの間に特急が走っていました(上野駅が始発・終着駅です)。つまり、万座・鹿沢口駅から大前駅までの末端一駅区間のみが極端に本数の少ない部分であったのです。これは第54号ノ3の存在と無関係ではないでしょう。また、万座・鹿沢口駅までの特急の定期運行は2016年春のダイヤ改正で消滅しており、現在は渋川駅から長野原草津口駅までしか定期的に特急が運行されません。

 このような状態では、長野原草津口駅から大前駅までの区間について存廃論議が起こってもおかしくありません。果たして、JR東日本は、3月22日に同区間について協議を行うように、群馬県、長野原町および嬬恋村に対して申し入れたことを明らかにしたのです。

 JR東日本が発表している「路線別ご利用状況(2018~2022年度)」によると、吾妻線の2022年度における旅客運輸収入は5億3200万円です。線区収支が書かれていないので、上記朝日新聞記事によると4億6300万円の赤字となっており、営業係数は2759円となっています(つまり、100円の収入を得るために2759円の支出が必要になっているということです)。

 そして、同線の平均通過人員は、次の通りです。

 渋川駅から大前駅までの全線:1987年度は3304、2022年度は1932(1987年度の58%程)。

 渋川駅から長野原草津口駅までの区間:1987年度は4506、2022年度は2461(1987年度の55%程)。

 長野原草津口駅から大前駅までの区間:1987年度は791、2022年度は263(1987年度の33%程)。

 なお、上記朝日新聞社記事に書かれていることでもありますが、万座・鹿沢口駅から大前駅までの区間は、下り(万座・鹿沢口駅→大前駅)が1日4本(万座・鹿沢口駅発が平日、土休日ともに8:07、10:37、17:07、19:50)、上り(大前駅→万座・鹿沢口駅)が1日5本(大前駅発が平日、土休日ともに7:17、8:32、10:50、17:32、20:11)となっており、日中は6時間30分以上も空いています。

 JR東日本高崎支社が協議を申し入れた訳ですが、現在のところ、地域公共交通活性化再生法に定められる法定協議会ではなく、任意協議会での議論を念頭に置いているようです。また、吾妻線の近隣とも言える上越線の水上駅から越後湯沢駅までの区間については、JR東日本による協議の申し入れが考えられていないようです。19億2000万円の赤字にして2022年度の平均通過人員が976と芳しくない数字ではありますが……。

 長野原草津口駅から大前駅までの区間の沿線自治体は長野原町および嬬恋村ですが、やはり嬬恋村への影響が多大でしょう。上記朝日新聞社記事には、次のように書かれています。

 「村には路線バスがなく、実証実験中の乗り合いのデマンドバスで集落と鉄道駅を結んで、交通弱者の支援をしている。今回のJRからの申し入れには『存続や廃止という前提を置かない議論』とあるものの、村の担当者は心配する。『村内の高校生は通学のために乗り、県外から観光客が利用する重要な路線。JRの申し入れにどう対応するか、JRからしっかり説明をきき、慎重に判断することになる』と話す。」

 完全な車社会であるということが想像できます。別荘地でもあるからでしょうか。それだけではないでしょう。公共交通機関がないに等しい、とまでは言えなくとも衰退しているとは言える市町村は全国に多くあります。色々と考えさせられる話です。

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大学院生の奨学金、一部返還免除への方向転換か

2024年03月21日 22時00分00秒 | 社会・経済

 昨日(2024年3月20日)付の朝日新聞朝刊31面14版に「大学院奨学金 教員になれば返済免除 文科省方針」という記事が掲載されていました。気になったので、ここで取り上げておきます。

 目が止まった理由は、私自身が大学院法学研究科博士後期課程に在籍していた時のみ、当時の日本育英会の奨学金を受けていたからです。現在はどうなのかよくわかりませんが、当時は、学部生、大学院修士課程(博士前期課程)学生、博士後期課程学生の別によって月額が異なっており、博士後期課程学生が最も高い額を受けていました(10万円を超えていました)。大学教員として就職したので支給されたのは2年間のみでしたが、返還免除が完全に認められるまで15年を要しました。日本育英会が指定する職種にて15年間在職する必要があるからです。この制度は2003年度か2004年度まで存在していましたが、廃止されてしまいました。ただ、「優れた業績を残した院生向けの既存の返還免除制度を活用して対応する」と書かれていますので、大学院生については返還免除制度が全く存在しないという訳でもないようです。

 さて、上記記事の話です。この記事に登場する「教職大学院」という言葉について説明がないのでよくわからなかったのですが、文部科学省のサイトにおいては次のように説明されています。

 「【教職大学院の概要】

 近年の社会の大きな変動の中、様々な専門的職種や領域において、大学院段階で養成されるより高度な専門的職業能力を備えた人材が求められています。教員養成の分野についても、子供たちの学ぶ意欲の低下や社会意識・自立心の低下、社会性の不足、いじめや不登校などの深刻な状況など学校教育の抱える課題の複雑・多様化する中で、こうした変化や諸課題に対応しうる高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある教員が求められてきています。このため、教員養成教育の改善・充実を図るべく、高度専門職業人養成としての教員養成に特化した専門職大学院としての枠組みとして『教職大学院』制度が創設されました。

 教職大学院では、以下の人材を養成することを目的としています。

 1.学校現場における職務についての広い理解をもって自ら諸課題に積極的に取り組む資質能力を有し、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員

 2.学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って、教科・学年・学校種の枠を超えた幅広い指導性を発揮できるスクールリーダー」

 教職大学院を修了し、かつ、正規教員に採用された者について、日本学生支援機構の奨学金の返済を全額免除するという方針を文部科学省が固めたのは3月19日のことです。2024年度に正規教員に採用された者から返済免除を適用するということです。随分と急な動きですが、国立大学で教育関係の学部を有する大学であれば教職大学院があるのに対し、公立大学には教職大学院がなく、私立大学でも聖徳大学、創価大学、玉川大学、帝京大学、早稲田大学、常葉大学および立命館大学にのみ教職大学院がないということが、何か意味するところがあるのだろうと思われるのですが、そこは脇に置いておきましょう。

 今回の方針は、あくまでも教職大学院在学中の奨学金についてのみを対象とするようで、その点にも注意を要します(学部生時代に受けた奨学金は対象外であるということです)。その一方、教職大学院以外の大学院の修了者であっても、教育活動に関して実習経験があれば返済免除となるようです。

 事実などがよくわからないので何の論評(というほどのものでもありません)を加えることはしませんが、上記記事には「23年度の採用者数でみると、教職大学院から国公私立学校の正規教員に採用されたのは753人。教職以外の大学院を加えれば、年間1千数百人が対象になる見通しだ」と書かれており、さらに「一方、正規教員に採用された大学・短大の学部卒業者も免除とするかは今後の検討課題とする。23年度採用で1万4794人(公立のみ)と人数の規模が大きく、他の職種とのバランスも考慮する必要があるためだ」とも書かれています。

 この方針が現実のものとなった場合に、教職大学院の立ち位置はどのように変化するのでしょうか。

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芸備線について、JR西日本社長が困難性を主張した。

2024年03月14日 00時45分00秒 | 社会・経済

 連投になりますが、このブログでこれを取り上げない訳には参りません。

 非常に短い記事ですが、共同通信社のサイトに、2024年3月13日20時47分付で「芸備線『今のまま持続難しい』 再構築協議会初会合へ見解―JR西社長」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031301188&g=eco)が掲載されました。

 見出しだけで内容がわかりそうなものですが、3月13日の記者会見でJR西日本社長が芸備線の存続について「難しい」と語ったというものです。あまりに記事が短いので誤解を招きそうですが、あくまでも芸備線の一部区間についての話です。

 このブログでも芸備線の問題は何度も取り上げていますし、再構築協議会の件も記しています。3月26日に初の会合が広島市で行われるとのことで、地域公共交通活性化再生法の2023年改正法の下で初めて再構築協議会の会合が開かれることになります。おそらく、その場でJR西日本から存続の困難性が主張されることでしょう。

 たしかに、平均乗車人員数からして、芸備線の存続は難しいでしょう。何せ、芸備線全線の平均通過人員(2022年度)は1170であり、それも下深川駅から広島駅の区間の8529という数値によるところが大きいのです。この区間を除外し、備中神代駅から下深川駅までの区間を見れば、平均通過人員が1000を下回ることでしょう。よく覚えていませんが、東城駅か備後庄原駅から広島市へのバス路線があり、そちらのほうが芸備線よりも本数が多いということなので、2024年問題があるとしてもバス転換が望ましいという結論が容易に導かれるところでしょう。

 JR西日本社長は、おそらく芸備線の備中神代駅から備後落合駅までの区間について「全ての考えが案としてある。バス転換を否定するものではない」という趣旨を語ったそうです。それはそうでしょう。このように話すはずです。

 再構築協議会での対立の構図が見えてきたような気もします。行方が気になるところです。

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真庭市によるJR西日本株式の取得

2024年02月15日 07時00分00秒 | 社会・経済

 2024年に入っても、全国各地における地域公共交通の話題は止まりません。芸備線、函館本線の通称山線の区間、久留里線の久留里駅から上総亀山駅までの区間など、今後の行方が気になる鉄道路線・区間が少なくないのです。

 そうなると、沿線市町村の動きも気になります。勿論、最終的には沿線住民の利用の有無が問われることにはなるでしょうが、市町村の意向も重要です。

 おそらく、こういう自治体がいくつか登場するだろうとは予想していましたが、朝日新聞社のサイトに2024年2月14日18時40分付で掲載された「岡山・真庭市が1億円分のJR株取得へ ローカル線廃止の懸念のなか」(https://digital.asahi.com/articles/ASS2G5TVRS2GPPZB008.html)という記事を読んで「やはり」と思いました。

  真庭市にはJR西日本の鉄道路線、姫新線が通っています。兵庫県姫路市の姫路駅から岡山県新見市の新見駅までを結ぶこの鉄道路線のうち、津山駅から新見駅までの区間内にある美作追分駅、美作落合駅、古見駅、久世駅、中国勝山駅、月田駅および富原駅が真庭市にあります。

 上記朝日新聞社記事を読めばわかるように、あくまでも真庭市長の意向であり、同市の予算(案)の話です。これから市議会で審査・審議されるのですから、最終的にどうなるかはまだわかりません。しかし、市長が2024年度の真庭市予算にJR西日本の株式の取得費用を盛り込んだと発表したのですから、真庭市の執行機関の意向が示されたこととなります。そして、これは真庭市が姫新線に対して危機感を抱いていることを意味しています。

 JR西日本は、2023年9月29日付で「2022年度区間別平均通過人員(輸送密度)について」を公表しています。これを読むと、真庭市がJR西日本の株式を取得して株主に名を連ねようとする理由がわかってきます。

 姫新線は、芸備線ほどではないとしても区間によって平均通過人員(人/日)に極端な格差が見られる路線です。全線、つまり姫路駅から新見駅までの158.1キロメートル(営業キロ)の平均通過人員は、2021年度で1258、2022年度で1351となっているのですが、JR西日本によれば、区間毎の平均通過人員は次の通りとなります。

 ・姫路駅〜播磨新宮駅(22.1キロメートル):2021年度で6109、2022年度で6686。

 ・播磨新宮駅〜上月駅(28.8キロメートル):2021年度で774、2022年度で822。

 ・上月駅〜津山駅(35.4キロメートル):2021年度で358、2022年度で386。

 ・津山駅〜中国勝山駅(37.5キロメートル):2021年度で649、2022年度で640。

 ・中国勝山駅〜新見駅(34.3キロメートル):2021年度で136、2022年度で132。

 見比べていただければおわかりのように、真庭市内の各駅は津山駅〜中国勝山駅〜新見駅の区間にあります。新見駅は伯備線の駅であるとともに芸備線列車の始発駅でもあることを付け加えておきましょう(芸備線の起点は伯備線の備中神代駅ですが、列車は新見駅まで乗り入れます)。

 姫新線は、姫路市およびたつの市においては通勤通学路線としてそれなりの存在意義を示しているのですが、播磨新宮駅〜新見駅は典型的なローカル線であり、通学はともあれ、通勤路線としての需要があまりないことを、平均通過人員の数値が示しています。この現れ方が芸備線とよく似ているのです。

 また、2021年度はCOVID-19の影響がかなり大きかった時であり、2022年度はその影響が多少とも和らいだ時です。姫路駅〜播磨新宮駅〜上月駅〜津山駅の区間では2022年度の数値のほうが大きくなっていることからもわかると言えます。しかし、津山駅〜中国勝山駅〜新見駅の区間では逆に2022年度の数値のほうが小さくなっています。しかも、前述のように、再構築協議会の設置が決定された芸備線の起点は備中神代駅であるものの、列車は新見駅を始発駅としています。真庭市が危機感を募らせたことは想像に難くありません。中国勝山駅〜新見駅の132(2022年度)という数字は、芸備線の備中神代駅〜東城駅(2022年度で89)、東城駅〜備後落合駅(2022年度で20)および備後落合駅〜備後庄原駅(2022年度で75)の各区間ほどではないものの、相当に低いと言わざるをえないのです。

 真庭市長は、JR西日本の株式を市が取得して資本参加をすることにより、JR西日本に意見を述べると語っています。上記朝日新聞社記事にも「『もの言う株主宣言』をした市長」という中身出しが付けられています。実は、市長が株式取得の意思を表明したのは今回が初めてではなく、2023年11月に行っていたことでした。他の市町村がどのように反応したのかは不明ですが、まずは真庭市が動こうということなのでしょう。

 同市の2024年度予算に取得費として盛り込んだのは1億円で、2023年度決算の剰余金から充てるとのことです。また、取得時期などについては今後「証券会社などの意見を聞いて検討するとし、議会との調整次第では増額もあり得るとの見解を示した」とも書かれています。

 上記朝日新聞社記事には「なるほど、たしかに」と思うことも書かれていました。これは真庭市長の発言を捉えたものなのですが、「真庭市内の駅などではJR西の交通系ICカード『ICOCA(イコカ)』は利用できず、太田氏は予算案発表の会見で『赤字路線であっても基本的サービスは同じにするのが会社の責務』と訴えた。姫新線について『こんなに揺れる鉄道に乗っていると(都市部と)差別されているように感じる』とも述べた」とあります。読んだ瞬間に阪急電鉄の小林一三のエピソードを思い出したのは私だけでしょうか。また、私のようにPASMOを使いまくっている者からすれば、ICカード(さらに言えばスマートフォンアプリ)を利用することができる区間とそうでない区間とに分かれるのは大変に不便ですし、利用できないというのはサービスとしてあまり良くないことは否定できません。私は真庭市に行ったことがないのでよくわかりませんが、例えば同市内にあるコンビニエンスストアでICOCAやSUICAなどを使用できるとするならば、JR西日本の路線である姫新線で利用できないというのはおかしな話であるとも言えます(ちなみに、姫新線でICOCAを利用できるのは姫路駅〜播磨新宮駅の区間です。また、伯備線は、一部の駅で利用できないものの、全線が利用可能エリアに含まれています)。

 ただ、乗客数と旅客収入、設備投資のための費用などを考えると、JR西日本の全線・全駅でICOCAを利用することができるようにすることは非常に困難でしょう(他のJR各社についても同様です)。自動改札機や簡易改札機を設置する(場合によってはバスと同じように電車や気動車の中に読み取り機を設置する)ことは勿論、維持するにも費用がかかります。JR西日本に限らず、多くの鉄道会社は将来の人口減少に伴う乗客の減少を見込んでいるはずですから、設備投資にも慎重にならざるをえないでしょう。そうであるならば、ICOCAの利用エリアの拡大についても気前よく行うことはできないはずです。

 また、真庭市がJR西日本の株式を取得するとして、どの程度の発言権を確保できるかという問題もあります。株主総会における議決権は所持する株式の数に応じるものであるからです。

 我々国民・住民が選挙権を行使する場合には一人一票ですが、株主総会での議決権行使は一人一票ではなく、一株一票です(正確には単元株式数で考えるべきですが、ここでは単純化のために一株一票と記しておきます。また、議決権制限株式などを考えないこととします。まさか、真庭市が議決権制限株式を取得するはずはないでしょう)。発言権は保有株式数に左右されると考えてよいのです。もとより、例えば真庭市が株主として議案を提出することはできますが、株主総会の議題にかかる際には取締役会の意見が付されるはずです。株主提案に対して取締役会が反対意見を付している場合、株主総会では株主提案が否決されることが多いようですから、どこまで「もの言う株主」として振る舞えるのかについて疑問も残ります。

 1億円でJR西日本の株式をどのくらい取得できるかを少しばかり調べてみると、2024年2月14日の終値は6185円(121円安)でしたので、証券会社に支払う手数料などを考慮に入れなければ16168株を取得できることとなります(単元株式数は100となっていることにも注意を要します)。JR西日本の発行済み株式総数は2億4400万1600株ですから、真庭市が1億円でJR西日本の株式を取得してもごく僅かな率にしかなりません。

 さらに記すならば、株価は日々変動しているものですから、地方公共団体が予算を投じて株式を取得することの妥当性が問われるかもしれません。法制度上は特に問題はない訳ですが(地方自治法などに株式の保有を禁止する条項はありません。それに、株式の保有が禁止されるのであれば第三セクターを設置することもできません。地方公共団体が株主に名を連ねる株式会社はいくらでもあります)、保有の目的の妥当性などが問題とされる可能性はある、と考えられます。

 しかし、真庭市がJR西日本の株式を取得しようとしているという事実は、決して小さいものでもないと言えるでしょう。他の市町村、さらに都道府県が追随するかどうかはわかりませんが、公共交通機関の維持のための手段として考慮しておくべきものでしょう。

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鉄道会社の運転士不足

2024年02月04日 00時00分00秒 | 社会・経済

 2023年から急にクローズアップされ、むしろ前倒しされた感すらある2024年問題は、既に各地方の公共交通機関に深刻な影響を与えています。

 これまで、このブログでも運転士不足問題を取り上げてきました。最も極端な形で現れたのが、金剛自動車の路線バス事業撤退でした。近鉄バスや南海バスが引き継いだものの、減便や路線廃止を免れることはできなかったのです。

 運転士不足による減便は、鉄道でも行われています。その一部については、やはりこのブログでも取り上げました。実のところどうなのであろうかと思うのですが、国土交通省が2023年の10月に調査をしていたようです。朝日新聞社のサイトに、2024年2月2日15時30分付で「全国地方鉄道の半数が『運転士不足』、低賃金など背景に 国交省調査」(https://www.asahi.com/articles/ASS2252KZS22UTIL00Z.html)という記事が掲載されています。

 国土交通省が調査の対象としたのは172の鉄道事業者です。この記事の書き方がおかしいと言うべきか、少々わかりにくいと言うべきか、「大手を含む全国172の鉄道事業者」、「地方鉄道140事業者」と書かれています。大手というのはJRグループ7社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州、貨物)、大手私鉄16社(東急、東京メトロ、東武、西武、京成、京王、小田急、京浜急行、相鉄、名鉄、近鉄、阪急、阪神、京阪、南海、西鉄)のことでしょうか。

 「JRなど大手を含む32事業者では、『不足あり』と答えたのは7事業者(22%)に留まった」と書かれています。この32事業者の範囲がわからないのですが、JRグループと大手私鉄を足しても23しかないので、公営鉄道(東京都交通局、京都市交通局などが運営する鉄道)を含むのでしょうか。

 一方、「地方鉄道140事業者」は中小私鉄、準大手私鉄、第三セクター鉄道を指すものと思われますが、これもよくわかりません。その上で続けるならば、調査の結果、半数の70事業者で不足があり、27事業者では過不足がなく、43事業者では余裕があるとのことでした。私が思っていたよりも良い結果とは思います。過不足がない、あるいは余裕がある事業者はどういう会社であるかを知りたいものです。少なくとも、地方別で。

 ただ、半数の事業者で運転士不足が問題となっていることは見逃せないと判断されたのでしょう。これらの全てかどうかわかりませんが、鉄道でも現在ではワンマン運転が当たり前となりつつあります。大手私鉄でもそうです。私が通勤などに利用している東急田園都市線および東急大井町線では車掌も乗務しますが、東急東横線でも2023年からワンマン運転となっているくらいです。東京メトロでは丸ノ内線、有楽町線、副都心線、南北線などで行われています。

 既に、国土交通省は鉄道運転士の免許を取得することができる年齢の引き下げ(20歳→18歳)を方針としています。これは一つの方法ではありますが、それだけでは問題が解消しないでしょう。給与水準、労働時間などの面を検討し、改善することも求められてきます。勿論、このようになれば運賃の見直しなども必要になってきますから、消費者(つまり鉄道の利用者)にとっては困ったことになるかもしれません。

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やはりそうなる 首都圏への転入超過

2024年01月31日 00時00分00秒 | 社会・経済

 共同通信社のサイトを見ていたら「やっぱりね」と思うような記事が掲載されていました。2024年1月30日17時20分付の「都の転入超過、23年は80%増 6万8千人、人口流出40道府県」(https://www.47news.jp/10461602.html)です。

 これは、総務省が公表した2023年の人口移動報告を扱った記事です。80%増という言葉が目に入ったのですが、2022年に38,023人の増、2023年に68,285人の増ということです。

 もう少し詳しく見ると、2023年に東京都に転入した人は454,133人、東京都から転出した人は385,848人です。前年比で転入がおよそ14,000人増えており、転出はおよそ16,000人減っています。

 COVID-19により、東京都への転入超過は鈍化していた訳ですが、一時的なものであったようです。或る意味でCOVID-19が東京一極集中を和らげ、むしろ東京都からの転出超過が見込まれていた節もあり、それを期待するような声もあったのですが、実際には神奈川県などへの転出に留まったようです。

 東京都の他に転入超過となったのは、上記記事に書かれているところによれば埼玉県、千葉県、神奈川県であるようです。逆に、転出超過となったのは40道府県です。首都圏を東京都、神奈川県、埼玉県および千葉県と定義すると、首都圏への転入超過は126,515人で27%増です。

 上記共同新聞社記事には、総務省担当者の分析として「コロナ禍が明け経済活動が活発化したほか、就職や進学に伴う若年層の東京への移動が増えた」と書かれているのですが、それだけでしょうか。昨年であったか、首都圏への転入超過が止まらない理由として、女性の就職機会が首都圏以外では少ないこと、また、女性の生活しやすさ(生きやすさという感じの言葉であったかもしれません)が首都圏以外の場所で低いことなどが書かれた記事があったと記憶しています。また、別の観点ですが、村社会あるいは村意識が強い地域があまりに多く、他所者を排除するような意識が強いためにせっかくの転入者も追い出されてしまうような所もあるそうで、これでは道府県や市町村がいくらUターンだのIターンだのと宣伝しても意味がなく、せいぜいふるさと納税を強化するしかない訳です。

 世間では、そして学者でも、私のようにふるさと納税を批判する人は少ないようで、私のような人間は叩かれるのが落ちなのでしょうが、それではふるさと納税を強化している道府県や市町村の人口がどうなっているのか、と問いたくなります。総務省はわかっているはずですね。

 また、ふるさと納税で集まった寄附金は、一体どのような支出に向けられているのでしょうか。この辺りのことが全くわからないという地方自治体は少なくないはずです。

 脱線したので元に戻りますと、一極集中の理由は一つや二つではなく、多数が複雑に層を重ねているはずです。一つ言えると思われることは、モータリゼイションが進んだ地域では転出超過になりやすいであろうということです。身近にも、モータリゼイションが進んだ地域から首都圏にやってきて、自家用車を運転しなくなった人がいます。理由を聞くと、ちょっとした買い物なら徒歩か自転車で行けるし、少し離れた場所なら電車やバスで行けて便利であるから、ということでした。

 ※※※※※※※※※※

 実は今回、共同通信社のサイトに2024年1月30日の13時17分付で掲載された「八つの赤字区間検証、3年先送り JR北海道、コロナ禍の影響で」(https://www.47news.jp/10461202.html)という記事を取り上げようかとも考えたのですが、首都圏への転入超過のほうを選びました。

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指宿枕崎線について協議が行われるようです

2024年01月26日 06時00分00秒 | 社会・経済

 1999年8月、私は鹿児島市に行きました。当時の西鹿児島駅、現在の鹿児島中央駅から徒歩圏内にあった東急イン鹿児島(その後、鹿児島東急REIホテルとなり、2021年秋に閉業)に宿泊し、鹿児島市電に乗って鹿児島市内を回りましたが、8月13日に指宿枕崎線のディーゼルカーにも乗りました。

 初めて乗ったキハ200系は、とにかくうるさかった。こんなことを覚えています。

 同線は鹿児島中央駅から枕崎駅までの路線ですが、指宿駅または山川駅で系統が分割されており、鹿児島中央駅から枕崎駅まで直通する列車は非常に少なく、指宿駅か山川駅までしか走らない列車ばかりであったので、山川駅で折り返しました。結局、開聞岳付近や枕崎市へは車で行くことになったのです。

 さて、その指宿枕崎線ですが、JR九州が公表した「線区別ご利用状況」によれば、同線の平均通過人員は次のようになっています。

 鹿児島中央駅〜喜入駅:1987年度は8253(人/日)、2022年度は7168(人/日)。

 喜入駅〜指宿駅:1987年度は8253(人/日)、2022年度は1862(人/日)。

 指宿駅〜枕崎駅:1987年度は942(人/日)、2022年度は220(人/日)。

 末端区間というには42.1kmもある指宿駅から枕崎駅までの区間がとにかく閑散ぶりの目立つ路線であり、赤字であることが容易に推察されます〔ちなみに、JR九州の路線・区間のうち、最も平均通過人員(2022年度)が少ないのは豊肥本線の宮地駅から豊後竹田駅までの区間で171(人/日)です〕。同一路線でありながら、鹿児島中央駅から喜入駅までの26.6kmの区間との落差が激しく、JR西日本の芸備線に似ているとも言えます。

 このような状況のため、鹿児島市、指宿市、南九州市および枕崎市は「指宿枕崎線輸送強化促進期成会」を組織しており、枕崎市は2023年7月25日に「JR指宿枕崎線(指宿~枕崎)活用に関する検討会」の第1回検討会の資料を公表しています。そして、JR九州は、指宿枕崎線の指宿駅から枕崎駅までの区間について沿線自治体に対して協議を申し入れました。2024年1月18日、鹿児島市においてJR九州、鹿児島県、指宿市、南九州市および枕崎市の実務担当者が初会合を開いたとのことです。

 以上は、2024年1月24日の20時13分付で共同通信社のサイトに掲載された「指宿枕崎線で協議申し入れ JR九州、鹿児島の沿線自治体に」(https://www.47news.jp/10435748.html)という記事によります。短い記事なので、この協議申し入れが地域公共交通活性化再生法に定められた再構築協議会に係るものなのかどうかがわかりませんが、「設置する会議体や議論の進め方を今後詰める」ということなので、直ちに再構築協議会という訳でもないのかもしれません。また、JR九州は「存続や廃止といった前提を設けず、幅広い選択肢を示して話し合いたい考えだ」とのことです。ただ、字面通りであるのかについては疑問が残ります。

 指宿駅から枕崎駅までの区間を見ると、指宿駅は有人駅(業務委託駅)、山川駅と西頴娃駅は簡易委託駅、その他の駅は無人駅であり、列車交換ができる駅も指宿駅、山川駅および西頴娃駅しかありません。山川駅から西頴娃駅まで17.7km、西頴娃駅から枕崎駅まで20.1kmですから、本数を増やしたくても増やせないという状況です。

 山川駅の時刻表を見ると、下りは1日7本であり、そのうちの1本は西頴娃駅までしか走りません。

 また、枕崎駅の時刻表を見ると1日6本、うち3本が鹿児島中央駅まで走るのに対し、2本は指宿駅止まり、1本は山川駅止まりです。しかも、鹿児島中央駅まで走る列車は6時4分発、15時54分発、20時6分発となっています。これでは列車を利用したくともできないということになりかねないでしょう。

 

 これまで、このブログではJRグループの地方交通線の存廃問題を何度も取り上げてきました。三江線、岩泉線など、実際に廃止された路線または区間もあります。

 全てに当てはまる訳ではないとはいえ、21世紀に入ってから存廃が問題となった路線の多くは、大正時代の鉄道敷設法に基づくものです。指宿枕崎線もまさにその例で、鉄道敷設法別表には第127号「鹿児島県鹿児島附近ヨリ指宿、枕崎ヲ経テ加世田二至ル鉄道」としてあげられていました。実際に国鉄の路線として開業したのは西鹿児島駅(鹿児島中央駅)から枕崎駅までの区間ですが、これは1931年に南薩鉄道が加世田駅から枕崎駅までの区間を開業させていたからです。また、南薩鉄道が伊集院駅から加世田駅までの区間を開業させたのは1914年のことです。南薩鉄道は後に鹿児島交通となり、伊集院駅から枕崎駅までの区間が枕崎線となりました。鉄道敷設法別表第127号により、指宿枕崎線と鹿児島交通枕崎線の双方、さらに鹿児島本線を加えることによって薩摩半島を一周するルートができる訳です。

 しかし、実際に鉄道を利用して薩摩半島を一周できる期間は、思いのほか短いものでした。

 薩摩半島の西側を通る鹿児島交通枕崎線は1931年に全通しましたが、指宿枕崎線の鹿児島中央駅から五位野駅までの区間が開業したのが1930年、指宿駅まで延伸開業したのが1934年、山川駅まで延伸開業したのが1936年、西頴娃駅まで延伸開業したのが1960年、そして枕崎駅まで延伸開業したのが1963年でした。こうして指宿枕崎線と鹿児島交通枕崎線がつながり(実際に線路がつながっていたのかどうかまではわかりませんが)、薩摩半島一周ルートが完成しました(余談ですが、鹿児島交通枕崎線には国鉄鹿児島本線に直通する列車がありました)。

 ただ、1960年代は高度経済成長期であると同時に、鉄道の衰退が始まった時期でもあります。南薩鉄道には、枕崎線の支線として万世線および知覧線がありましたが、万世線は1962年に、知覧線は1965年に廃止されています。南薩鉄道の経営状況が悪化していたことがうかがわれます。実際に、南薩鉄道は1964年に三州自動車に吸収合併されます。1970年代には枕崎線の状況も悪化の一途をたどりました。1983年には豪雨による被害を受け、伊集院駅から日置駅までの区間と加世田駅から枕崎駅までの区間が不通のまま、枕崎線は1984年に廃止されてしまうのです。薩摩半島一周ルートは21年くらいしか続かなかったという訳です。

 一方、指宿枕崎線のほうも、1968年に赤字83線に指定されました。全区間ではなく、山川駅から枕崎駅までの区間です。この時、既に指宿駅から、または山川駅から枕崎駅までの区間の存在意義が問われていたことになります。それから55年が経過し、現在に至るまで存続していることが驚異と言えます。また、指宿枕崎線は1980年代の特定地方交通線には指定されていませんが、これはおそらく鹿児島中央駅から喜入駅または指宿駅までの平均通過人員が多かったことによるものと考えられます(当時は路線毎に選定したので、一部区間の平均通過人員が多ければ全区間の平均通過人員も多くなり、特定地方交通線の指定から外されることとなります)。

 実に半世紀以上も問題を内包したまま、指宿枕崎線の営業が続けられてきたことになります。

 このような状況を見て考えることは、地域公共交通活性化再生法がどれだけ役割を果たしうるかということです。このブログで取り上げた、存廃が問題となった路線などを見ると、大正時代の鉄道敷設法にたどり着けることが多いという趣旨は前述しました。そして、その鉄道敷設法が制定されてから40年以上が経過した1960年代に、国鉄は赤字経営になり、悪化の一途をたどります。赤字83線の時に徹底した対策が採られていたのであれば、もしかしたら状況は改善されたかもしれないのですが(歴史に仮定は禁物というルールを破ります)、実際にはいくつかの路線が廃止されたのみであり、むしろローカル線の建設が進んでしまった例もあります。こうして1980年代の国鉄改革および国鉄分割民営化に至りました。それでも鉄道を巡る情勢が大きく変わった訳でもないようです。

 その意味において、公共交通機関の問題と過疎化の問題には共通する低音が流れているのかもしれません。少なくとも、通底する部分は存在します。存廃が問題となる鉄道路線のほとんどは過疎地域と言われる所を通っているからです。

 日本には過疎地域に関する法律が1970年から存在しています。過疎地域対策緊急措置法(昭和45年4月24日法律第31号。廃止法令)、過疎地域振興特別措置法(昭和55年3月31日法律第19号)、過疎地域活性化特別措置法(平成2年3月31日法律第15号)、過疎地域自立促進特別措置法(平成12年3月31日法律第15号)、過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法(令和3年3月31日法律第19号)です。これだけの法律が存在しているにもかかわらず、過疎の問題は、地域毎であれば解決した事例もあるのかもしれませんが、全体として解決していません。

 こうした例を考慮に入れるならば、地域公共交通活性化再生法は対処療法あるいは止血方法として或る程度役立つかもしれませんが、根本的な解決のための道具になりうるかどうか、疑問が残るところです。

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