ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR九州の「維持困難」な路線・区間

2019年07月24日 01時18分25秒 | 社会・経済

 国鉄分割民営化、JRグループ7社の誕生から30年以上が経過しています。当初から疑問の声はあったのですが、JR北海道の経営問題という形で顕在化しました。

 しかし、経営問題はJR北海道に限りません。そもそも、JRグループの旅客会社のうち、いわゆる三島会社(北海道、四国および九州)は、最初から脆弱な経営基盤の上にあることが織り込み済みであり、国鉄がこの三島のためにキハ31(今年全廃)、キハ32およびキハ54の3系列の気動車を製造したという事実からもわかります。九州新幹線(鹿児島ルート)の全通によるJR九州の株式上場を、かつてJR九州の在来線をよく利用した私は頭に疑問符を浮かべながら眺めていましたが、やはり「維持困難」な路線・区間が公表されてしまいました。朝日新聞社が昨日(7月23日)の8時付で「JR九州、4割の区間『維持困難』平均利用者4千人割れ」として報じています(https://digital.asahi.com/articles/ASM7D5G40M7DTIPE02M.html)。

 2018年度の路線・区間の利用状況が公表されたということについての記事ですが、4000人という数字ですぐに輸送密度が思い浮かびました。1980年代の特定地方交通線です。

 2019年7月9日0時33分40秒付の「幹線、地方交通線の分類 再検討の必要があるのでは?」において幹線・地方交通線の区別を取り上げました。そこで引用した日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令(昭和56年3月11日政令第25号)の第1条および第2条を、もう一度あげておきます。

 同施行令第1条:「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(以下「法」という。)第8条第1項の幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当する営業線は、別表第1に掲げる営業線のうち、その区間が次の各号の一に該当するものとする。

 一 その区間のうちに、昭和55年3月31日(以下「基準日」という。)における人口が10万以上である市(特別区を含む。以下「主要都市」という。)を相互に連絡する区間で、次のイ及びロに該当するものがあること。

  イ 当該連絡する区間の基準日における旅客営業キロ(旅客営業に係る営業キロをいう。以下第4条までにおいて同じ。)が30キロメートルを超えること。

  ロ 当該連絡する区間における隣接する駅の区間のすべてにおいて旅客輸送密度(昭和52年度から昭和54年度までの間(以下「基準期間」という。)の旅客輸送量について算定した旅客営業キロ1キロメートル当たりの一日平均旅客輸送人員をいう。次号及び次条において同じ。)が4千人以上であること。

 二 その区間のうちに、前号に該当する幹線鉄道網を形成する営業線と主要都市とを連絡する区間で、次のイ及びロに該当するものがあること。

  イ 当該連絡する区間の基準日における旅客営業キロが30キロメートルを超えること。

  ロ 当該連絡する区間の基準日における隣接する駅の区間のすべてにおいて旅客輸送密度が4千人以上であること。

 三 その区間における貨物輸送密度(基準期間の貨物輸送量について算定した貨物営業に係る営業キロ1キロメートル当たりの一日平均貨物輸送トン数をいう。)が4千トン以上であること。」

 同施行令第2条:「法第8条第1項のその運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるものとして政令で定める基準に該当する営業線は、別表第一に掲げる営業線のうち、その区間における旅客輸送密度が8千人未満であるものとする。」

 以上の二つの規定から明らかであるように、1980年代の前半、国鉄の営業線は、旅客輸送についてであれば、旅客営業キロが30キロメートル以上であること、および輸送密度が4000人以上であることが要件とされていました。第2条からすぐにわかるように、輸送密度が4000人以上8000人未満であれば地方交通線、8000人以上であれば幹線として扱われることとなりました。

 従って、旅客営業キロが30キロメートル未満であり、輸送密度が4000人未満であれば、原則として廃止の対象とされたことになります。これこそが特定地方交通線です。「幹線、地方交通線の分類 再検討の必要があるのでは?」において同施行令第3条の引用はしなかったのですが、今回はしておくこととします。次のような規定です。

 「法第8条第2項の政令で定める基準に該当する営業線は、別表第一に掲げる営業線のうち、その区間における旅客輸送密度(基準期間の旅客輸送量及び基準期間経過後特定の時点までの集団住宅の団地等の完成により確実に増加すると認められる旅客輸送量について算定した旅客営業キロ1キロメートル当たりの一日平均旅客輸送人員をいう。第4号及び次条において同じ。)が4千人未満であるものとする。ただし、その区間が次の各号の一に該当する営業線を除くものとする。

 一 その区間における隣接する駅の区間のいずれか一の区間における基準期間内の特定の期間の一の方向に係る1時間当たりの最大旅客輸送人員が1000人以上であること。

 二 その区間における線路に接近し、又は並行した道路であつて、当該営業線の輸送に代わつて行うものと認められる一般乗合旅客自動車運送事業による輸送のように供することができるもの(以下この号及び次号において『代替路線』という。)及び代替輸送道路に該当するものとして整備されることが明らかである道路がないこと。

 三 その区間に係る代替輸送道路の全部又は一部につき、積雪時における積雪等のために一般乗合旅客自動車運送事業による輸送の用に供することが困難となつた日数が基準期間の各年度を平均して1年度あたり10日を超えること。

 四 その区間における基準期間の旅客1人当たりの平均乗車距離が30キロメートルを超え、かつ、当該区間における旅客輸送密度が1000人以上であること。」

 この基準により、全国各地で特定地方交通線が指定され、国鉄線またはJR線としては廃止され、第三セクター、私鉄(青森県に例があるのみ)またはバス路線に転換されました。九州であれば、佐賀線、宮原線、志布志線、大隅線などが完全に廃止され、甘木線、松浦線、湯前線、高森線などが第三セクターの鉄道路線となりました。しかし、施行令第3条に示された除外基準により、本来であれば特定地方交通線でありながら廃止されなかった路線もあります。九州では香椎線、唐津線、後藤寺線、日田彦山線、三角線、日南線、肥薩線および吉都線が、特定地方交通線から除外されました。それから30年以上、果たしてどのような結果になったのでしょうか。

 そもそも、2017年になって初めて輸送密度を公表したというのが遅きに失しています。それはともあれ、第3回目の今年は、22路線61区間のうち、26区間で4000人を下回っており、そのうちの17区間では2000人も下回っています。これは、1980年代であれば第一次特定地方交通線(九州では添田線、宮原線、妻線、香月線、勝田線、室木線、矢部線、甘木線および高森線。甘木線および高森線のみ、第三セクターの鉄道路線として存続)または第二次特定地方交通線(九州では漆生線、宮之城線、大隅線、佐賀線、志布志線、山野線、松浦線、上山田線および高千穂線。松浦線および高千穂線のみ、第三セクターの鉄道路線として存続)と同じ水準である、ということになります。路線の営業キロからすると第二次特定地方交通線並みの水準ということになるでしょう。

 但し、JR北海道と異なり、JR九州の場合は「維持困難」について明確な基準は設けられていません。

 上記朝日新聞社記事に掲載されている「輸送密度が4千人未満の区間」を、輸送密度で並べ替えてみます。左から、路線名、区間、輸送密度です(不通の区間を除外しています)。なお、路線名については、同記事と異なり、「●●本線」の名称を用います。

 豊肥本線:宮地〜豊後竹田:101

 肥薩線:人吉〜吉松:105

 日南線:油津〜志布志:193

 筑肥線:伊万里〜唐津:222

 指宿枕崎線:指宿〜枕崎:291

 肥薩線:八代〜人吉:455

 吉都線:吉松〜都城:465

 肥薩線:吉松〜隼人:656

 日豊本線:佐伯〜延岡:889

 豊肥本線:豊後竹田〜三重町:951

 唐津線:唐津〜西唐津:1005

 日南線:田吉〜油津:1160

 三角線:宇土〜三角:1242

 後藤寺線:新飯塚〜田川後藤寺:1315

 日豊本線:都城〜国分:1438

 久大本線:日田〜由布院:1756

 宮崎空港線:田吉〜宮崎空港:1918

 唐津線:久保田〜唐津:2203

 久大本線:由布院〜大分:2294

 日田彦山線:城野〜田川後藤寺:2471

 指宿枕崎線:喜入〜指宿:2537

 久大本線:久留米〜日田:3437

 日豊本線:南宮崎〜都城:3584

 日南線:南宮崎〜田吉:3770

 豊肥本線:三重町〜大分:3877

 筑豊本線:若松〜折尾:3980

 こうしてみると、いくつか興味深い(?)点に気づきます。

 第一に、以上の路線・区間には幹線が含まれています。日豊本線、宮崎空港線および筑肥線です。

 日豊本線では普通列車の運行が少ない区間があがっているということで、納得はできます。とくに佐伯〜延岡の区間では、現在、普通列車が下り1本、上り2本しか運行されていません。従って、輸送密度の多くは特急列車によるものでしょう。ただ、特急を何本も走らせてもこの程度であるとも言えます。

 また、筑肥線は、姪浜〜唐津と山本〜伊万里(上記の「伊万里〜唐津」は、唐津線の山本〜唐津を含んでいます)というように分断されており、しかも前者は電化されていて一部複線の上に福岡市営地下鉄空港線と相互直通運転するのに対し、後者は非電化・単線で本数も少ないのです。私も何度か乗っていますが、同じ路線とするのが不自然に感じられるくらいです。姪浜〜唐津は筑肥線のままでよいとして、山本〜伊万里は伊万里線とでも名を改めたほうがよいでしょう。

 わからないのが宮崎空港線です。この路線はJR九州が1990年代に開業させたもので、わずか1.4キロメートルしかなく、それでいて幹線に位置づけられています。しかし、輸送密度はかなり低いと言えます。もっとも、営業係数がよければ話は変わってきます。需要予測から幹線と位置づけられたのでしょうか。一度しか利用したことがありませんが、あまり乗客が多くなさそうな路線で、空港に直接アクセスできる鉄道路線にしてはそれほど利便性は高くないと感じられました。

 第二に、豊肥本線および久大本線という九州横断鉄道です。利便性の低さがうかがわれるところでしょう。

 豊肥本線の場合、現在も肥後大津〜阿蘇が不通であるため、その影響はあるものと思うのですが、熊本〜肥後大津ではない区間があがっているのは理解できます。宮地〜豊後竹田は以前から普通列車の運行が少ない区間で、一度、この区間を夕方に利用した時には、2両編成で車掌も乗務している列車に2人しか乗客がいないほどでした(前の車両に1人、後の車両に私のみ)。また、豊後竹田〜三重町も利用者が多くない区間です。やや意外であったのは三重町〜大分で、私も大分大学在職中には何度も利用しましたが、そんなに輸送密度が低いのかと驚いたのです。あるいは、三重町〜中判田と中判田〜大分に分けると話が違ってくるのかもしれません。

 久大本線の場合は、全区間が4000人未満となっています。区間ごとにみた輸送密度については、大体思っていた通り、高い順に久留米〜日田、由布院〜大分、日田〜由布院の順でした。人気のある特急「ゆふいんの森」が走っていてもこの程度であるということです。また、久大本線にほぼ並行するような形で大分自動車道が通っており、高速バス網も発達していますから、福岡県〜大分県の行き来には高速バスのほうが利便性が高い訳です。また、博多駅と大分駅とを往復するのであれば、小倉経由の特急「ソニック」のほうが、日田経由の特急「ゆふ」より速いのです。距離としては久大本線経由のほうが短いはずですが、単線非電化であるためでしょう。

 第三に、やはりというべきか、本来であれば特定地方交通線に指定されるべきであったが除外基準に該当したので生き延びた、という路線が今回もあげられています。唐津線、後藤寺線、日田彦山線、三角線、日南線、肥薩線および吉都線です(香椎線は福岡市を通りますし、JR九州となってからは輸送人員の数も伸びました)。これらについては、除外基準が妥当であったかどうかの検証が必要ともされるかもしれません。

 第四に、上記のいずれにも該当しないものとして指宿枕崎線があげられています。ただ、この路線の指宿〜枕崎は昔から乗客も運行本数も少ない区間でした。これに対し、同線の鹿児島中央〜喜入は輸送密度が4000人を超えているようです。鹿児島市およびその近郊の通勤通学路線として機能していることが示されています。

 第五に、長崎県内を通るJR九州の旅客線には、輸送密度が4000人未満である路線がありません。これも興味深い事実ではありますが、長崎県内のJR線といえば長崎本線、佐世保線および大村線しかありません。

 さて、上記とは逆に、輸送密度が高い路線・区間は何処なのでしょうか。記事によれば、鹿児島本線の小倉〜博多が82,713人、同線の博多〜久留米が68,269人、筑肥線の姪浜〜筑前前原が46,283人であるということです。また、九州新幹線の輸送密度は19,275人(博多〜鹿児島中央)です。

 とはいえ、JR九州の鉄道事業は、2018年度で8億円ほどの赤字であるということですから、状況はかなり厳しいでしょう。黒字路線については書かれていませんが、在来線では篠栗線でしょうか。

 今後、JR九州についても存廃論議が起こりそうな予感がします。

コメント (4)
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