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ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

アベノマスクの単価は

2020年09月29日 00時00分00秒 | 国際・政治

 Yahoo! News Japanに興味深い記事がありました。立岩陽一郎氏による「『アベノマスク』の単価は143円 黒塗り非公表の文書で黒塗りし忘れか」という記事です(https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20200928-00200337/)。

 これは、今年の4月、神戸学院大学の上脇博之教授が厚生労働省および文部科学省に対して行った情報開示請求に係るものです。8月27日に文書が開示されたのですが、見積書に書かれた総額は2億1175万円と明示されているのに、数量および単価は黒塗りになっていました(これでは総枚数もわかりません)。また、詳しいことはわからないのですが別に総額を3億800万円とする見積書もありました。これも数量および単価が黒塗りになっていたそうです。この経緯は、やはり立岩氏による「安倍政権の『目玉政策』だったアベノマスクの単価をひた隠しにする政府」という記事(https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20200927-00200259/)に書かれています。政府が公金を支出する以上、総額はもとより数量および単価も公開すべきであると考えられますが、情報公開法第5条の不開示事由のいずれかに該当すると判断されたのでしょうか。

 同条第1号から第6号までの不開示事由には該当しないと考えられます。第6号は「国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」のうちイからホまでを不開示事由としています。考えられるのは「ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」です。実際に、あくまでも記事によるところですが、上脇教授に示された不開示の理由は、契約単価が判明すれば今後の価格交渉などに支障がおよぶおそれがあるというものです。

 しかし、本当にそうでしょうか。

 見積書が数社分あって、そのうちの最も安い価額を示したA社のものを採用したというのであれば、残りのB社、C社などの見積書を不開示とすることは考えられます。ところが、実際に選択された見積書に基づいて行われた契約の結果、単価がいくらで数量がいくらかということも開示されていません。しかも、今回の場合、2億1175万円の見積も3億800万円の見積もりも契約に結びついています。単価が同じで数量が違うのであればまだよいのですが、単価も数量も違うと「どういう契約なのか」と思われるでしょう。

 それでは、不開示のはずの単価が何故わかったのでしょうか。理由は単純で、消し忘れでした。

 文部科学省から開示された文書に、業者との交渉によって単価が143円(消費税・地方消費税込み)になるという連絡が厚生労働省(マスクチーム)から文部科学省に入り、4月17日に見積書が提出されたという趣旨の文言が記されていました。

 よくぞ見つけたという感じではあります。立岩氏は「安倍政権の『目玉政策』だったアベノマスクの単価をひた隠しにする政府」において「上司からの指示だろうが、必死で単価を隠そうと作業をした同省の係官には同情を禁じえない」と書かれています。皮肉か否かは別として、たしかにそう思わざるをえませんし、役所も無駄な労力を使うものだと感心せざるをえません。

 単価はわかっても、数量が不明である以上、総枚数もわからず、実際のコストもわかりません。結局、政策の妥当性も決定過程もわからないままです。情報公開法第1条は死文化したのかもしれません。

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