今日の朝日新聞朝刊37面14版に「出生届『婚外子』記載規定 『合憲だが不可欠でない』 最高裁が初判断」という記事が掲載されています。昨日、最高裁判所第一小法廷が下した判決に関する記事です。
まずは戸籍法第49条の全体を参照しておきましょう。
第四十九条 出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。
2 届書には、次の事項を記載しなければならない。
一 子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別
二 出生の年月日時分及び場所
三 父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人であるときは、その氏名及び国籍
四 その他法務省令で定める事項
3 医師、助産師又はその他の者が出産に立ち会つた場合には、医師、助産師、その他の者の順序に従つてそのうちの一人が法務省令・厚生労働省令の定めるところによつて作成する出生証明書を届書に添付しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。
御覧いただければ明らかなように、問題となったのは戸籍法第49条第2項第1号です。戸籍謄本を見れば一目瞭然ですが、現在も「長男」「長女」などの記載があります。
かつては住民票も同様でした。正確なことを覚えていませんが、1990年代に住民基本台帳法が改正されたため、住民票の続柄欄の記載については、子であれば嫡出・非嫡出に関係なく「子」に統一されています。「住民票の記載事項」という見出しが付けられた住民基本台帳法第7条を参照すると、「氏名」(第1号)、「出生の年月日」(第2号)、「男女の別」(第3号)、「世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄」(第4号)、「戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨」(第5号)、「住民となつた年月日」(第6号)などとなっており、「子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別」は示されていません。
戸籍謄本よりもはるかに利用する頻度が高いと思われる住民票で、嫡出子・非嫡出子の区別がなされていないということは、これが実務上も重視されておらず、むしろ必要性の低いものと考えられていることを示しています(勿論、記載が社会問題となったことも覚えていますが)。法務省の幹部も、嫡出子・非嫡出子の別を記載すべき理由に乏しいと認めています(今日付の朝日新聞朝刊37面14版「戸籍法改正案を提出へ 法務省」)。それに、今月4日、最高裁判所大法廷の決定が民法第900条第4号について違憲判断を下しています。同省は、民法第900条第4号とともに戸籍法第49条も改正(より正確には削除)したいという意向を持っています。当然のことでしょう。
最高裁判所第一小法廷は、戸籍法第49条第2項第1号についてどのように判断したのでしょうか。
結論は「合憲」であり、原告による損害賠償請求も棄却しました。理由として、同号は「差別的扱いを定めたものではな」いということを述べています。これで一応の一致を見ているのですが、「記載の義務づけが、事務処理上不可欠とはいえない」とも指摘しています。また、桜井龍子裁判官が補足意見を出しており、その中で制度見直しの検討が要望されています。
合憲とすべき積極的理由はなく、むしろ、記載の必要性が認められなかった訳です。損害賠償請求でしたので、原告の精神的苦痛と法律との因果関係が認められなかったということではありますが、損害賠償請求を認めるか否かを別として、規定を違憲と判断する(宣言する)ことは可能であったのではないでしょうか(実際にそのような例があります)。本当に「差別的扱いを定めたものではな」いと言えるかどうかも疑問です。
もっとも、戸籍法第49条は、親子関係の扱いを定めていますので、例えば子の氏(名字)をどうするかという問題にもつながります。民法第4編・第5編の諸規定とも深い関わりを持っていますから、戸籍法の見直しと民法の見直しの双方を進めなければなりません。今月4日の決定が様々な方面に大きな影響を与えることは予測されていましたが、民法第4編・第5編、戸籍法など、関係する法律の諸規定の改正は避けられなくなりました。
既に最高裁判所が一定の判断を示し、行政(法務省)も動いています。残る関門は立法、つまり国会です。先の最高裁判所大法廷決定に対しては反発の声も少なくないだけに、刑法第200条と同じく、適用はされないが規定としては長らく残るという事態も考えられるのです。
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