1.改めて、国家行政組織法
国の行政組織は、中央省庁等改革基本法に基づき、2001年1月6日に改編されたが、今も複雑多岐にわたる。このため、行政組織図などを参照されたい。また、第31回の「行政組織法の一般理論」の項目も参照されたい※。
※なお、比較的簡明な組織図を掲載しているものとして、大橋洋一『行政法 現代行政過程論』〔第2版〕(2004年、有斐閣)209頁がある。
(1)憲法による行政機関の構成
憲法第65条に示されているように、原則として、国の行政権は内閣に属する。そして、内閣府設置法、国家行政組織法、各省設置法に基づいて組織が設けられ、権限などの配分が行われる。但し、人事院は内閣の所轄の下にあり、国家公務員法を法的根拠とする。
憲法上、内閣から完全に独立した行政機関の存在は許容されていない。但し、それに対する唯一の完全な例外がある。憲法第90条に基づき、憲法上の機関と位置づけられる会計検査院は、内閣から完全に独立している。
なお、国の行政事務と考えられるもののうち、独立行政法人や特殊法人などによって担われるものがある(独立行政法人の動きなどに注意すること!)。
(2)内閣
内閣は、内閣総理大臣および国務大臣(原則14人以内、最大でも17人以内)によって構成される合議体である。職務は、憲法第73条を初めとする規定に掲げられるものの他、内閣法、各個別法による。
内閣の意思決定は、内閣総理大臣が主宰する閣議による。この閣議に基づいて、内閣総理大臣が職権を行使し、行政各部を指揮監督する(内閣法の諸規定を参照)。なお、閣議における意思決定は全会一致によるとするのが慣行である(通説も支持する)。
(3)内閣総理大臣
内閣総理大臣は、次の三つの地位を占める(憲法第66条第1項・第68条第1項・同第2項、内閣法第4条ないし第8条、内閣府設置法第6条、国家行政組織法第5条第2項)。
第一に、内閣の首長としての地位である。閣議の主宰、重要政策に関する基本方針などの案件の発議権、国務大臣の任免権、国会への議案提出権、一般国務・外交関係の国会への報告権、行政各部の指揮監督権、権限疑義の裁定権、中止権を有する。
第二に、内閣府の長(内閣府設置法第6条)としての地位である。内閣府に係る事項については主任の大臣である。従って、国務大臣と同じ権限を有する。
第三に、内閣に直属する部局(内閣官房、内閣法制局、安全保障会議)の行政事務についての主任の大臣としての地位である。
なお、内閣総理大臣が各省の大臣を兼任することも可能である。
第一次吉田内閣、第二次吉田内閣および第三次吉田内閣において、吉田茂内閣総理大臣が外務大臣を兼任していたことは有名である。また、第一次吉田内閣において吉田は短期間ながら農林大臣なども兼任していた。その後、石橋内閣(石橋湛山内閣総理大臣が郵政大臣を兼任)、第一次岸内閣(岸信介内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、内閣改造後は藤山愛一郎が外務大臣を務めた)、竹下内閣(竹下登内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、昭和63年12月9日から24日までのみ)、第二次海部改造内閣(海部俊樹内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成3年10月14日以降)、第二次橋本改造内閣(橋本龍太郎内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成10年1月28日から30日までのみ)、第一次小泉内閣(小泉純一郎内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、平成14年1月30日から2月1日までのみ)という例がある。
(4)内閣府
内閣の機能強化のための一環として新設されたもので、内閣に置かれ、内閣官房を支援する組織であり、内閣の事務を助ける組織。内閣補助部局としての性質をも有する。以前の総理府と異なり、内閣府は他の省より上位の組織であり、国家行政組織法の適用を受けない。
内閣府の長は内閣総理大臣であり、内閣官房長官も統括の役割を果たす。また、特命大臣が置かれることがある。
(5)省・委員会・庁
いずれもいわゆる3条機関であり、国家行政組織法第3条第2項、そして同法別表第一に掲げられている機関である。
①省
省は内局として位置づけられている。行政事務を担当する機関であり、長は各省大臣である。
②委員会
各省または内閣府におかれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。合議制の機関であり、委員会自体が行政庁となる。また、委員の任免方法、任期、資格要件が一般公務員と異なる。
③庁
やはり、各省または内閣府に置かれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。包括的な行政機関である点で委員会と異なる。
なお、委員長(委員会の長)と長官(庁の長)には国務大臣が充てられるものもある。
(6)内部部局
国家行政組織法によると、府または省の機関単位は、局・官房、部、課、室、職となる(大→小)。
(7)附属機関
3条機関に附属する附属機関であり、審議会等(国家行政組織法の条文から8条機関ともいう)、施設等機関(第8条の2)、特別の機関(第8条の3)がある。
2.地方自治法
〔1〕地方自治の基本的な意義
a.地方自治の要素
従来から、地方自治の要素として団体自治と住民自治の二つがあげられてきた。このこと自体についても議論があるが、ここでは通説に従うこととする。
団体自治とは、国から独立した地域団体が設けられ、この団体が自らの事務を自らの機関により、自らの責任において行うことを指す。国家から独立した意思の形成に注目する。
住民自治とは、地域の住民が、地域的な行政需要を、自らの意思に基づいて自らの責任において行うことを指す。住民が地域における意思の形成に政治的に参加する点に注目する。
団体自治という側面から、地方公共団体の存立や権限行使に着目し、地方自治をいかに保障するものかという点に関して、地方公共団体が前憲法的な基本権を有することを前提として、自然権的・固有権的な基本権を保障するものであるとする固有権説と、地方公共団体は前憲法的な基本権を有せず、存立や権限行使などは国家によって決定されるものであるとする伝来説とが対立してきた。固有権説のほうが地方自治の保障に厚いとも言いうるが、歴史的にみても妥当とは言い難く、伝来説のほうが妥当性が高い。しかし、伝来説では、結局のところ、地方自治の制度自体が国家によって左右されてしまうため、憲法によって保障する意味が乏しくなる。そこで登場するのが、制度的保障説である。
制度的保障説は、ドイツの公法学者カール・シュミット(Carl Schmitt. 1888-1985)が『憲法論』(Verfassungslehre)において提唱したものである。シュミットによると、憲法の規定には、基本的人権自体ではなく、特定の制度の存在を保障する場合がある。日本の公法学においても多くの学説や判例によって支持されている制度的保障論は、意味や範囲が論者によって異なるが、シュミット自身が最初にあげる例は地方公共団体の基本権である。彼はフランクフルト憲法やヴァイマール憲法の規定を引き合いに出して説明を行っているが、基本的な趣旨は、日本国憲法の解釈にも妥当するであろう。但し、何が制度の中心部分であるかという点が問題となる。
なお、有力な説として、北野弘久博士による新固有権説がある。これは、制度的保障説を援用しつつも、国民主権原理と基本的人権の尊重から地方自治の固有権的な理解を導く。元々は地方税・地方財政に関する議論に由来するものである。
b.日本国憲法における地方自治
日本国憲法の第92条ないし第95条は、地方自治に関する規定である。このうち、第92条は「地方自治の本旨」を定めており、第93条は組織原理に関する規定である(但し、第92条と矛盾する関係にあるとも考えられる)。そして、第94条は、地方公共団体に、広範な権限を付与することを定めている。
c.地方自治法の法源(成文法のみをあげておく)
法源として最も基本的かつ最高の地位にあるのが憲法である。これを受けて地方自治法が存在する。そして、地方税法、地方財政法、地方交付税法、地方公務員法、地方公営企業法は、地方自治法の規定を受けて、それぞれの分野について規律をなす、という体系になっている。その他、個別法として警察法などがある。
国の法令より下位に位置づけられるのが、地方公共団体による立法である。条例は地方公共団体の議会が制定する法であり、規則は地方公共団体の長が制定する法である。
〔2〕地方公共団体とは?
一般的に、国家の三要素になぞらえる形で、地方公共団体の三要素が主張される。住民、区域、法人格(地方自治法第2条第1項)の三つである。
既に第29回において述べたように、地方公共団体は、普通地方公共団体と特別地方公共団体とに区別される。普通地方公共団体とは、都道府県および市町村のことであり(同第1条の3)、特別地方公共団体とは、特別区、地方公共団体の組合および財産区のことである。
a.普通地方公共団体は、憲法上の自治権を保障される公法人である。
①市町村
地方自治法第2条第4項により、市町村は基礎的な地方公共団体として位置づけられる。同第8条第1項は、市となるための要件を定めており、原則として、人口が5万人以上であること(同第1号)、当該普通地方公共団体の中心となる市街地を形成する区域内の戸数が全戸数の6割以上を占めていること(同第2号)、「商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること」(同第3号)および「前各号に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること」(同第4号)とされているが、市町村の合併の特例に関する法律第7条に特例が定められている。また、地方自治法第8条第2項は、町となるための要件の定めを都道府県条例に委任する。。
市と町村とでは、組織、事務配分などで取り扱いが異なる。例えば、議会に代わる町村総会の設置(同第94条)、事務局を置かない議会の職員の配置(第同138条第4項)、出納員(同第171条第1項)、監査委員の定数(同第195条第2項)をあげることができる。
また、地方自治法は、市を3種類に分けている。
まず、指定都市(同第252条の19以下。一般的には「政令指定都市」といわれる)は、人口50万人以上の都市であって政令で指定されたもの(実際には70万人以上あるいは80万人以上か)を指す。2017(平成29)年1月1日現在で「地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令」(昭和31年政令第254号)によって指定都市とされるのは、大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市および熊本市である。
次に、中核市(同第252条の22以下)は、人口20万人以上の都市で政令であって指定されたものである。同日現在で「地方自治法第252条の22第1項の中核市の指定に関する政令」(平成7年政令第408号)によって中核市とされるのは、宇都宮市、金沢市、岐阜市、姫路市、鹿児島市、秋田市、郡山市、和歌山市、長崎市、大分市、豊田市、福山市、高知市、宮崎市、いわき市、長野市、豊橋市、高松市、旭川市、松山市、横須賀市、奈良市、倉敷市、川越市、船橋市、岡崎市、高槻市、東大阪市、富山市、函館市、下関市、青森市、盛岡市、柏市、西宮市、久留米市、前橋市、大津市、尼崎市、高崎市、豊中市、那覇市、枚方市、八王子市、越谷市、呉市、佐世保市および八戸市の48市である。
1995(平成7)年に中核市となる要件として面積および昼夜間人口比率も定められていたが、数度の改正の度に要件の緩和または廃止が行われ、2006(平成18)年には人口30万人以上の要件のみとなった。2014(平成26)年改正によって特例市制度を中核市制度に統合することとなり〔施行は2015(平成27)年4月1日〕、併せて人口要件も30万以上から20万以上に引き下げられた。「中核市要件の変遷」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000356216.pdf)を参照されたい。
指定都市、中核市のいずれも、程度の差こそあれ、都道府県から権限を移譲するために設けられた制度であるため、本来は都道府県の担当すべき事務を担当することになる。この点については、同第252条の19および同第252条の22を参照していただきたい。
指定都市、中核市のいずれにも該当しないのが一般の市である。
なお、地方自治法第252条の26の3により、特例市の制度が設けられていた。これは、中核市と同様、2000(平成12)年度に施行されたものであり、人口20万人以上の都市であって政令で指定されたものであった。前述のように、中核市制度に統合される形で廃止された。但し、特例市から中核市へ自動的に移行する訳ではなく、2017年1月1日現在で、小田原市、大和市、福井市、甲府市、松本市、沼津市、四日市市、山形市、水戸市、川口市、平塚市、富士市、春日井市、吹田市、茨木市、八尾市、寝屋川市、所沢市、厚木市、一宮市、岸和田市、明石市、加古川市、茅ヶ崎市、宝塚市、草加市、鳥取市、つくば市、伊勢崎市、太田市、長岡市、上越市、春日部市、熊谷市、松江市および佐賀市の36市が施行時特例市となっている。
②都道府県
市町村を包括する広域の地方公共団体であり(同第2条第5項)、広域にわたる事務、市町村の連絡調整に関する事務、市町村が処理することが適当でないと認められる程度の規模の事務を処理するものとされている。
なお、本来的には、都道府県と市町村との間に上下関係はない。
b.特別地方公共団体
地方自治法によって創設された地方公共団体であり、憲法上の自治権を保障されない。但し、特別区については以前から議論があり、かつては憲法上の自治権を保障されないとする理解が優勢であったが、現在は保障されるとする理解のほうが多数を占めるものと思われる。
①特別区
都※の区である(同第281条)。現在は基礎的地方公共団体として位置づけられており、基本的に市の規定が適用される(同第283条)。
※現在、都は東京都のみであるが、同第281条第1項は「都の区は、これを特別区という」と定めるに留まるから、別に東京都の23区に限定されるという意味ではない。例えば、大阪府と大阪市が合併して大阪都になった場合、現在の大阪市にある各区(行政区)は特別区に変更されるであろう。但し、特別区の設置については「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(平成24年法律第80号)の定めるところによる。
なお、政令指定都市(横浜市、川崎市など)の区は行政区(地方自治法第250条の20)であり、法人格をもたない。
②地方公共団体の組合
一部事務組合、広域連合(介護保険などで多用された)など、複数の地方公共団体が事務を共同で処理するための、独立の法人格を有する組合組織のことである。
③財産区
市町村や特別区の一部分でありながら、財産や公の施設の管理や処分を行う法人のことである。
(3)地方公共団体の事務(同第2条第2項など)
①地方自治法における事務の分類
地方分権一括法による地方自治法の改正前には、団体事務(固有事務)、団体委任事務および機関委任事務に分類されていた。このうち、団体事務(固有事務)は地方公共団体の事務であった。団体委任事務は、地方公共団体そのものに委任された事務という意味であるが、やはり地方公共団体の事務であった。
問題は機関委任事務で、これは地方公共団体の長に委任された事務である(地方公共団体そのものに委任されるのではない)。国の事務としての性格を有し、地方公共団体の長は国の機関と位置づけられていた。数が多かっただけでなく、委任が法律によって行われるものと限らなかった。
地方分権一括法による改正後、現在の自治事務と法定受託事務とに分類されるようになった。このうち、自治事務は、地方自治法第2条第8項により、地方公共団体の事務のうち、法定受託事務でないもの、という定義しかなされていない。そこで、同第9項に定められる法定受託事務の定義をみておく。
法定受託事務は、第1号法定受託事務と第2号法定受託事務とに分けられる。このうち、第1号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって地方公共団体が処理すべきものとされているが、本来は国が果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。これに対し、第2号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって市町村または特別区が処理すべきものとされているが、本来は都道府県が果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。
両者の区別は、国による関与の方法などによる。とくに、都道府県の法定受託事務について、同第245条の9第1項により、各大臣は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」。また、市町村の法定受託事務について、同第2項により、都道府県の執行機関は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」(同第3項にも注意すること)。自治事務については、以上のような処理基準を定めることはできない。
(4)地方公共団体の権能
地方公共団体は、自治組織権、自治行政権、自治財政権および自治立法権を有する。
(5)地方公共団体の機関
普通地方公共団体は、長と議会の二元主義をとる。これは、大統領制的な要素を基本とするが、議院内閣制的な要素をも含んでいる。
①首長主義
地方自治法は、長(知事、市町村長)以下を執行機関※とする(同第138条の2 )。執行機関については多元主義がとられている(同第138条の4・第180条の5)。
※行政官庁理論の執行機関と意味が異なるので注意を要する。
長は、自治立法権限(同第15条)、条例案の提出権(同第149条第1号)を有する。他方、議会は、長に対する議会の不信任決議をなすことができるが、これに対して、長は議会を解散する権限を行使しうる(同第178条)。
また、普通地方公共団体の議会が成立しないとき、長が議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであるとき、議会が議決すべき事件を議決しないときなど、一定の要件が充足されるならば、長は議会が議決すべき事件を自ら処分することができる(同第179条第1項。同第2項も参照)。これを専決処分といい、長は次の会議において議会に報告し、承認を求めなければならない(同第3項。同第4項も参照)。また、専決処分は、議会の議決により指定された事項についても行うことが認められている(同第180条第1項。同第2項も参照すること)。
②議会
議会の最も重要な権限は議決権である(条例制定権も議決権の一種である)。議決事項は、地方自治法第96条に規定されるものである。なお、自治事務のみならず、法定受託事務についても条例制定権が認められる。また、同第100条により調査権が認められており、この他、地方自治法の第6条ないし第9条の5など、重要な事項について議決事案とされている。
また、同第109条以下に、委員会に関する規定が存在する。
議会議員の選挙については、長と同様に公選制がとられている。同第11条においては日本国民たる住民のみに選挙権が認められているが、この点については最三小判平成7年2月28日民集49巻2号639頁を参照。
③住民
地方公共団体において、住民は必要不可欠の存在であり、「地方自治の本旨」を充足するためには十分な権利・権限が与えられていなければならない。地方自治法においては、住民に次のような権利・権限が認められる。
まず、直接請求である。一応のイニシアティブとしての条例制定改廃請求権、事務監査請求権、リコールとしての議会解散請求権、長など特定職員についての解職請求権(同第12条・第13条。なお、市町村合併特例法を参照) が認められている。
次に、住民監査請求および住民訴訟(地方自治法第242条・第242条の2)である。基本的には、地方公共団体の職員が行った不当または違法な財務会計上の行為を正すことを目的とする制度であり、差止請求(1号請求)、違法な処分の取消または無効確認の請求(2号請求)、違法に怠る事実の違法確認請求(3号請求)、損害賠償または不当利得返還の請求を求める請求(4号請求)が規定されている。なお、住民監査請求では不当または違法な財務会計上の行為を対象としうるが、住民訴訟では違法な財務会計上の行為のみを対象としうる※。
※住民監査の一つの問題点として、次のようなものがある。住民が適法な住民監査請求を行った。しかし、監査委員は誤って違法と判断して却下した。この場合、その住民は同一の行為または怠る事実について再び住民監査請求を行うことができるか(平成13年度国家Ⅱ種で出題された)。
住民には、公の施設の利用権も認められる(同第10条・第244条)。ここでいう公の施設は、道路、公園、文化会館、学校、病院などであり、営造物、公共用物に対応するものが多いと言われている。設置については条例主義が採られる(同第244条の2第1項)。また、救済については同第244条の4が規定する。
他方、住民には一定の義務も課される。同第10条が公課(地方税の他、分担金、加入金、使用料、手数料、受益者負担金などを指す)についていわゆる負担分任の義務を定める。この他、個別法に定められることがある。
(6)国と地方公共団体との関係
これは、日本国憲法施行当初から続いてきた問題であり、地方分権改革もこの問題に対する一定の解決を目指すものであるが、現実には課題が山積している。
憲法第92条を受けて地方自治法第1条の2が地方公共団体の役割と国の役割などについての大原則を示し、さらに同第2条第11項および第12項において国と地方公共団体の役割分担が規定される。
①国の立法権と地方公共団体の立法権
国の立法権は、地方公共団体の立法権に優先する。すなわち、条例は法令の範囲内で制定可能である。
これは憲法および地方自治法に示される原則であり、法律先占論もここから導かれる。しかし、「地方自治の本旨」は、国の立法権に対する枠をかぶせるものである。とくに問題となるのが、条例における上乗せ規制や横出し規制であり、法律の定める規制の基準がミニマムを定めていることが明文で示されている場合、あるいは解釈から導き出される場合には認められる、という解釈が多数説になっているものと思われる。
②国の行政権と地方公共団体との関係 国と地方公共団体は、常に互いに無関係あるいは独立に行政活動を展開しているのではない。国が地方公共団体に関与し、都道府県が市町村に関与することは、憲法も当然に想定していることである。 地方公共団体が私人と同様の立場で活動する場合には、とくに議論をする必要はない。これに対し、地方公共団体が私人と異なる立場で活動する場合には、国の関与が問題となる。 関与の仕方は、地方自治法第245条に定められている(必ず参照のこと!)。そして、関与の法的根拠は法律または政令でなければならない(同第245条の2・第245条の4)。
さらに、関与の基本原則は、同第245条の3に規定されている。 もっとも、関与の法的性質については問題が存在する。以下、関与の種類などを概観する。
助言、勧告、資料の提出の要求は、事実上の行為であり、自治事務、法定受託事務のいずれに対しても行いうる。
是正の要求は、都道府県の自治事務に対するものである。この場合には、地方公共団体に措置をとるべき義務が課される。
是正の指示は、都道府県の法定受託事務に対するものである。要件は是正の要件と同じであり、やはり地方公共団体に義務が課される。
同意、許可、認可、承認は、行政行為に準ずるものと考えられる。すなわち、これらがなされない限り、地方公共団体の行為は効力を生じない。但し、同意については議論があるが、協議のうち、同意を要する場合には、上記の同意などと同じ効力があると解される※。
※ 詳細は、森稔樹「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)49頁を参照。
代執行は、都道府県の法定受託事務に対するものである(同第245条の8を参照)。
処理基準の設定は、同第245条の9に規定される。
関与の手続は、同第247条以下に規定される。行政手続法に準じたものが多い。
関与をめぐって、国と地方公共団体との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、国地方係争処理委員会(総務省に置かれる、いわゆる8条機関。地方自治法第250条の7)である。対象となるのは公権力の行使にあたるもので、是正の要求や指示、許可の拒否などである(同第250条の13)。手続については、同第250条の14を参照。
同様に、都道府県と市町村との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、自治紛争処理委員である(同第251条の3。第251条も参照)。
また、同第251条の3・第252条は、裁判による紛争処理手続を規定する。
③地方公共団体相互の関係 委員会等の共同設置(同第252条の7)
事務の委託(同第252条の14) 職員の派遣(同第252条の17) この他、同第252条17の2、第252条の17の3、第252条の17の4を参照。 また、紛争処理として、自治紛争処理委員による調停制度(第251条)、境界紛争(第8条)などがある。
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