21世紀に入ってから、公共交通機関はますます厳しい状況に見舞われるようになっています。
私は「交通政策基本法の制定過程と『交通権』~交通法研究序説~」という論文の冒頭に「公共交通機関の退潮が止まらない」と書きました。これは、JR北海道留萌本線の留萌〜増毛、およびJR西日本三江線全線の廃止を念頭に置いて書いたものですが、もちろん、話はJR北海道に留まるものではありません。JR九州、JR四国についても同様です。そればかりか、或る意味では「むしろ」と書くべきかもしれませんが、中小私鉄のほうが危機的状況にあると評価すべきでしょう。かつては準大手私鉄であった神戸電鉄の粟生線の問題が象徴的ですが、全国的に共通する少子高齢化の影響により、鉄道路線の輸送量が年々減少していますので、費用がかかる鉄道路線を維持しうるか否かが問題となっています。高千穂鉄道のように災害によって廃止される路線が新たに生じてもおかしくないでしょう。
また、大手私鉄といえども例外でないと言えます。現に、名鉄や近鉄の一部路線について存廃問題が生じました。近鉄について記せば、これまで、北勢線、伊賀線、養老線、内部線および八王子線を経営分離しました。要は、近鉄の路線としては廃止し、別会社の路線にした訳です。
さて、このブログでも鉄道の存廃問題を再三取り上げています。岳南電車、近鉄内部線および八王子線(現在はいずれも四日市あすなろう鉄道の路線)には実際に乗りに行き、写真を撮影した上で、記事を載せています。
今回は滋賀県の近江鉄道を取り上げます。西武グループの一員であるこの私鉄の経営問題(存廃問題)を知ったのは今年の夏でしたが、それよりも大分前にレールバスのLE10形を導入した時に、実は黄色信号または赤色信号が我々に送られていたのかもしれません。全線が電化されているのに気動車(ディーゼルカー)を走らせたのですから、乗客の減少はかなり深刻だったのでしょう。しかも、せっかく導入したLE10は合理化に貢献したと言い難く、運用期間は短かったのでした。近江鉄道に限らず、レールバスの失敗例は多いようです。
2019年11月1日、私は高津駅から東急田園都市線の下り各駅停車に乗り、鷺沼駅で準急中央林間行きに乗り換え、長津田駅で横浜線の各駅停車桜木町行きに乗り換え、新横浜駅で降りました。目指すのは米原駅ですが、朝の9時台で米原駅に停車する新幹線の列車は9時52分発のひかり507号しかありません。
小田原駅で満席となったひかり507号は、名古屋駅、岐阜羽島駅、そして米原駅に着きました。定刻です。神奈川県から滋賀県まで晴れています。それはよかったのですが……
米原駅は東横線および東急多摩川線の多摩川駅を大きくしたような所で、典型的な乗換駅でした。近江鉄道の駅がある東口には、ロータリーはあるものの、そのロータリーのすぐそばにある売店と、少し離れた所にある喫茶店しかありません。あとは住宅地が続くのですが、すぐ目の前に小高い山が連なります。そこで西口に行ってみたのですが、西口も似たようなもので、昼食をとれるような店がほとんどありません。
JR米原駅の東口に、近江鉄道の米原駅があります。御覧の通り、薄暗い場所です。奥に窓口がありますが、この時は駅員が席を外していました。理由はわかりません。JRの駅と異なり、自動改札機どころか自動券売機もありません。
米原駅に掲げられている運賃表です。彦根駅まで310円、多賀大社前駅まで530円、貴生川駅まで1050円、近江八幡駅まで850円です。ちなみに、JRを利用すると彦根駅まで190円、近江八幡駅まで510円、貴生川駅まで1170円です(草津駅で草津線に乗り換えるルートです)。
12時を過ぎてから再び近江鉄道米原駅に行ってみたら、駅員が戻ってきていたので、「1デイスマイルチケット」という一日乗車券を買いました。金曜日、土曜日、日曜日および祝日しか発売されないもので、900円です。米原駅から貴生川駅までの運賃は上記の通りで、米原駅から日野駅までの片道運賃が990円ですので、ずいぶんと思い切った設定をしたものです。米原駅からであれば、高宮駅までの片道運賃が460円ですので、往復すればよいということになります。
12時10分になる前に、2両編成の電車が到着しましたが、降りた客は数人でした。
この電車が貴生川行きとして折り返すのですが、前の車両(1号車、モハ802)には私を含めて2人、後の車両(2号車、モハ1802)には3人だけです。黄色い電車で、いかにも西武の中古車ですが、前面は改造されています。元は西武401系で、3扉車です。
定刻の12時22分に貴生川行きは発車しました。少し走ると東海道本線から離れますが、東海道新幹線からも少しばかり離れます。フジテック前という新しい駅に着き、乗客が1人増えますが、駅は工場からも離れており、住宅もあまりありません(工場は他にもいくつかあります)。ローカル線らしく、スピードがあまり出ないので、並行する道路の乗用車に抜かされます。鳥居本駅で再び東海道新幹線が見えます。乗客が3人増えました。発車すると東海道新幹線の下をくぐり、山の中を走ります。
近江鉄道の車内放送は、所々で観光案内をします。彦根駅についてもそうです。しかし、これだけ空いていると虚しく聞こえます。それに、乗客の多くは地元の人でしょう。
山を抜けたと思ったら市街地で、また東海道本線に近づき、彦根駅に到着します。やはりこちらのほうが米原駅周辺よりも市街地としては大きいのでした。駅構内には近江鉄道の車庫もあります。色とりどりですが、やはり西武の中古車ばかりです。彦根駅から多くの客が乗り込み、1号車の座席は90%ほど、2号車の座席もかなり埋まりました。
彦根駅を発ち、しばらく東海道本線と併走します。ひこね芹川駅でも乗客が増えます。東海道本線の普通電車に抜かれます。彦根口駅付近でようやく東海道本線から離れます。上り、下りのホーム(番線表示はなし)のどちらにもお客がいますが、自転車とともに乗り込む高校生もいます(近江鉄道では一部の駅を除いて認められています)。列車交換をしてから発車し、次の高宮駅で乗り換えることとしました。
この高宮駅で運転士が交代したのですが、米原駅から高宮駅まで乗務した運転士が3番線に停車中の多賀大社前行きに乗り、運転します。構内には西武3000系の6両編成が留置されていました。
多賀大社前行きも2両編成で、後の車両には1人の乗客のみでしたが、前の車両には20人くらいが乗っています。すぐに発車し、スクリーン駅で半分ほどの乗客が降りました。駅のすぐそばにSCREENホールディングスの工場があります。東海道新幹線に乗っていてもすぐに気づくことですが、滋賀県には大きな工場などが多いのです。そのため、近江鉄道の沿線にも多い訳です。その意味では潜在的な鉄道利用可能性は高いほうではないかと思われます。
スクリーン駅を出ると水田の中を通り抜けるようにして走り、終点の多賀大社前駅に着きます。この駅には番線表示がありますが、無人駅です。折り返しの高宮行きが発車するまで30分以上あり、多賀大社までは700メートルくらいしか離れていませんので、多賀大社まで歩き、参拝することとしました。
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