ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

大晦日に青葉台で買った本から、消費税の正当性を訴える本を取り上げてみました。(続)

2012年01月05日 09時12分34秒 | 本と雑誌

 1月3日付で「大晦日に青葉台で買った本から、消費税の正当性を訴える本を取り上げてみました。」という記事を書きました。同じ日に買った、土居丈朗編『日本の税をどう見直すか』(シリーズ現代経済研究、日本経済新聞出版社)にも、やはり「消費税は逆進的ではない」という主張が書かれています。これは編者である土居丈朗教授による「第4章 経済活力を取り戻すための法人税負担軽減と消費税」にあります。

 154頁から抜粋してみます。

 「まず、消費税は、実は逆進的な税ではないことを示そう。逆進的というのは、人々の消費行動をある一時期だけに限定してみているからである。しかし、人々は1年しか消費しないわけでなく、個々人の消費行動を一生涯通じてみれば、消費税の負担は、(生涯)所得が多ければそれだけ多くなり、税負担は逆進的ではなく、比例的になると理解するのが正しい。

 消費者は、通常、稼いだ所得をいつ消費しようとするか、そのタイミングを意識的に考えるだろう。今年稼いだ所得をすべて今年に支出するわけではない。来年以降に多く消費したいならば、今年稼いだ所得の一部を貯蓄することになる。そう考えると、所得を稼ぐ時期と、消費をする時期とにはズレがある。そして、消費をするとその時点で消費税が課税される。」

 「高所得者といえども、貯蓄したお金は翌年以降に消費される。そのときには当然、消費税を払わなければならない。だから、消費税の負担を、今年1年だけでみてはならない。稼いだ所得は、今年か将来かを問わず、生涯のうちでいつかは消費される。だから、個々人の消費額は所得額と無関係ではなく、所得が多い人ほど消費を多くする傾向がある。したがって、所得が多い人ほど、消費税額も多くなるといえるから、消費税は生涯消費と比例的な税なのである。」

 土居教授も、さすがに消費税が累進性を持たないこと、所得格差是正に役立たないことを認めています。ただ、生涯所得という言葉については、それがどれだけ確固としたものであるのか、疑問がない訳ではありません。

 それから、土居教授に限らず、消費税支持者の多くは世代間格差是正、景気に左右されにくい安定性を強調します。世代間格差是正については当たっている部分もあるとは思うのですが、景気に左右されにくい安定性は、果たして正しい議論なのでしょうか。

 たしかに、納税義務の発生、もう少し精密に言えば負担義務の発生については、消費税のほうが安定しています(これでも不正確といわれる可能性はあります)。

 所得税を例に取りましょう。話の都合上、源泉徴収による所得税は除外します。

 国税通則法第15条第2項第1号によると、私が平成23年1月1日から同年12月31日までに得た所得は、平成24年1月1日になった瞬間に確定することとなりますので、この瞬間に私の所得税納税義務は確定します(第15条第2項第1号は「暦年の終了の時」に納税義務が成立すると定めています)。しかし、これでは抽象的で、果たして何円分の納税義務が発生しているのかはわかりません。そこで、これを具体化するために納税申告をします。私は、平成23年1月1日から同年12月31日までにいくらの収入を得たかを計算し、その収入を得るためにどれだけの必要経費(など)を支出したかを計算します。所得によって計算方法は違うのですが、基本形は(所得金額)=(収入金額)-(必要経費)ですから、これによって得られた所得の金額がプラスであれば具体的な納税義務を果たさなければなりません。これに対し、マイナスであれば具体的な納税義務は生じません(逆に、還付されます)。

 具体的な納税義務という点では、所得税の場合、義務が発生しないこともあります。私が自営業者であり、平成23年中の収入金額より必要経費のほうが多ければ赤字ですから、私は所得税を納めません。そのような業者が、景気の低迷期には多くなります。そうなれば、国も地方公共団体も、所得課税による税収は得られないこととなります。

 これに対し、消費税の場合は、国税通則法第15条第2項第7号によって「課税資産の譲渡等(消費税法第二条第一項第九号 (定義)に規定する課税資産の譲渡等をいう。)をした時又は課税物件の製造場(石油ガス税については石油ガスの充てん場とし、石油石炭税については原油、ガス状炭化水素又は石炭の採取場とする。)からの移出若しくは保税地域からの引取りの時」に納税義務が確定することとされます。また、納税額は、売り上げにかかる税額から仕入れにかかる税額を差し引くことによって得られます。赤字であろうが黒字であろうが、売り上げによる収入はあるでしょうし(ない場合もありえますが)、仕入れによる支出はあるでしょう。この点で、消費税の場合は、事業者が赤字であろうが黒字であろうが、具体的な納税義務は発生してしまうのです。そのため、赤字の事業者は、所得税や法人税については具体的な納税義務を負わないのに、消費税については具体的な納税義務を負うことになり、借金をしてでも納税しなければならないという、或る意味で本末転倒な話をしなければならなくなるのです。

 日本の行政も経済学者も、中小企業の存在を無視する、または中小企業の実情を知らない、というのでしょうか。よくわからないのですが、そうとしか思えないことがあります。

 昨年の12月13日付で朝日新聞朝刊5面14版に「消費税滞納 悩む中小企業 価格転嫁できず年3000億円超」という記事が掲載されました。この内容の記事は日本経済新聞に掲載されていなかったと記憶しています。私は切り抜いておきました。実は、この朝日新聞の記事については、12月16日付で「消費税は最も滞納の多い租税 税率アップで日本の産業は壊滅か?」として紹介しておりますので、そちらも御覧いただくこととしますが、国税滞納額全体の半分の割合以上を消費税が占めているという事実だけでも、消費税は景気に左右されないどころか、所得税以上に景気に左右される税であるということがわかるでしょう。赤字企業であるからと言って人件費を支出しなくてよいという道理はありませんし、その他の経費を支出しなくてよいという道理もありません。

 そして、消費税法に定められる消費税は間接消費税であり、付加価値税であるということは、滞納の問題をいっそう複雑にしています。納税義務者(法律上、申告納税義務を負う者)と担税者(実際に、最終的に負担することが想定されている者)が異なるからです。上記朝日新聞記事では「小売店なら、私たちから預かった消費税から、仕入れのときにかかった消費税を引いた額を納めればいいのだから、滞納が発生するはずはない。だがそれは、消費税が店頭価格にきちんと上乗せされている場合だ。/ライバル店との価格競争で消費税分を上乗せできなければ、消費者が負担すべき税金をお店が肩代わりすることとなる」と書かれています(/は原文改行箇所)。ここに書かれていることは半分ほど不正確で、実は「消費税が店頭価格にきちんと上乗せされている場合」であっても滞納は生じえますが、いずれにせよ、納税義務者と担税者との違いはこの記事でも示されており、消費者が負担させられている消費税が納められないという事態は起こりうるのです。

 勿論、納税義務者の脱税や意図的な滞納もありえます。しかし、払いたくとも払えない、価格に消費税分を上乗せすることができない、ということは、今まで繰り返されたことであり、今後も繰り返されるでしょう。そうなると、納税義務者である事業者は海外に移転するか廃業するかの選択を迫られることもあります。景気が良ければ、そのようなことを考えなくてもよいかもしれませんが、日本は長期低迷状態に置かれています。

 消費税の議論に際しては、担税者である消費者のほうが注目されることも多く、桜井良治教授も土居丈朗教授も消費者に視点を置いて「逆進的でない」と主張されています。今後、私自身が検証していかなければならないことと考えていますが、当たっている部分もあるかもしれません。しかし、消費者は納税義務者ではない、という厳然たる事実が忘れられています。事業者に注目すると、消費税には逆進性があると言えるかもしれません。


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