今月に入ってから俄に吹き荒れた解散風ですが、来週にも行われそうです。それとともに、今年度中になされるはずであった消費税(消費税+地方消費税)の税率引き上げの判断が先送りされる、または税率引き上げの延期が決断されることとなるようです。内閣改造があの通りの結果で、どう見ても失敗だったことは明らかですから(しかも、辞任などの理由が第一次安倍内閣の時と同質というか何というか……)、今開かれている第187回国会(臨時会)も、突然のように審議が進まなくなり、様々な意味で重要な法律案が廃案になりかねない状態となっています。行き詰まっていることは明らかでしょう。
昨日(11月13日)の朝日新聞朝刊1面14版トップ記事が「来月総選挙へ 消費増税 先送り検討 安倍政権 『14日投開票』軸に調整」というもので、あくまでも調整の方向ということですが12月2日に公示、14日に投開票という案、または12月9日に公示、21日に投開票という案が出ているというのです。その記事にも「政権は、来年10月に予定されている消費税の税率10%への再引き上げを1年半先送りすることを検討している」と書かれており、これが真実か否かを別にしても、12月に予定されていた判断が先送りされることは確実でしょう。衆議院の解散中に判断するというのは、ありえない話ではないとしても筋としては通らないでしょうし、戦略的な問題も絡むでしょう。11月17日に発表される7~9月期のGDP一次速報も、良い結果を示すものになっていないのではないかと考えられます。
今日(11月14日)の日本経済新聞朝刊1面14版トップ記事「消費税10% 延期へ 『17年4月』が有力 軽減英率導入も検討 首相、来週決断」を読んでみると、やはり基本的内容は昨日の朝日新聞朝刊トップ記事と同様です。日経記事に掲載されている表には、11月18日に「消費増税の影響に関する点検会合最終回、首相が今年度補正予算編成を指示→増税延期・衆院解散判断」、19日あたりに衆議院解散、と出ています。
こうなると、これまで進められた様々な政策が結局のところ何だったのか、というような疑問が出されることとなります。そもそも、消費増税は「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年8月22日法律第68条)および「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(平成24年8月22日法律第69号)に基づくものです。前者(法律第68号のほう)の第1条は、次のような規定です。
「この法律は、世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築することが我が国の直面する重要な課題であることに鑑み、社会保障制度の改革とともに不断に行政改革を推進することに一段と注力しつつ経済状況を好転させることを条件として行う税制の抜本的な改革の一環として、社会保障の安定財源の確保及び財政の健全化を同時に達成することを目指す観点から消費税の使途の明確化及び税率の引上げを行うため、消費税法(昭和六十三年法律第百八号)の一部を改正するとともに、その他の税制の抜本的な改革及び関連する諸施策に関する措置について定めるものとする。」
実は両法律が制定される際に三党合意があり、様々な経緯があったのですが、それはここで触れません(後に参考として条文を紹介しておきます)。今年の4月に実施された引き上げは、昨年の10月1日に内閣総理大臣の決断として発表されました。根拠は、法律第68号の附則第18条第3項、同第1条(いずれも、下の方で紹介しておきました)、本則の第2条および第3条です。
時が進めば事情も変わるのが世の常ですが、法律の第1条に示されている「世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築すること」は、実際にどこまで実現されているでしょうか。また、経済事情はどこまで好転しているでしょうか。今日も1ドル=116円台と円安傾向が続いており、東証の日経平均株価も高いようですが、これらが本当に経済状況の好転につながっているかどうかは疑問である、というところでしょう。
そればかりでなく、税率引き上げ(の判断の)先送りが他の方面にも影響を与えているようです。今日の朝日新聞朝刊1面14版トップ記事「与党税制協『休眠』■日銀、緩和直後で戸惑い 消費増税先送り論 波紋」には、13日午後の与党税制協議会の様子が記されています。今月中に衆議院が解散されたら、総選挙で新たに議員が選出されるまで衆議院議員はいない訳ですから、通常ならば12月にまとめるべき税制改正大綱をまとめようがないのです(総選挙の結果を見ないうちにまとめることも可能ではありますが、仮に政権交代が起これば意味のない作業になりかねません)。
このブログでも11月5日23時49分39秒付で「ゴルフ場利用税廃止論議」という記事を載せましたが、勿論これだけでなく、大きなところとしては法人税の実効税率引き下げの議論があります。国税としての法人税はもとより、地方税としての都道府県法人住民税、市町村法人住民税、法人事業税などの改正も絡んできます。また、地方税については、第186回国会でも議論された自動車取得税の廃止などという課題もあります。全て、消費税・地方消費税の税率引き上げと関連する話ですから、消費税・地方消費税に関する判断が先送りされるならば、または税率引き上げが見送られるならば、もう一度前提から検討しなければならなくなります。
日本銀行の金融政策にも影響が出ます。消費税・地方消費税の税率引き上げを前提としているからです。二段階の税率引き上げが消費など国民経済全体に負の影響を与えることは否定できないので、賛成しかねるのですが、それでも財政再建の必要性も否定できません。先進国はもとより、世界的に見ても異常な財政赤字を抱え続ける日本です。国債の金利が上昇すれば、大変なことになります。金融緩和の意味がなくなるでしょう。
また、本来、消費税・地方消費税の税率引き上げの目的とされていた社会保障関係についても、多大な問題が生じてくるでしょう。財源をどうするか、という厄介な問題が現れてくるからです。
もう一つ、昨日の朝日新聞朝刊トップ記事にも書かれていましたが、仮に引き上げの時期を先送りするならば、法律の改正が必要となります(単に判断の時期を先送りするだけならば、その時期の設定によっては法律を改正する必要はないのですが)。法律第68号の第1条第3号は、8%→10%という変更の時期を2015(平成27)年10月1日と明記しているからです。1年半も延ばす、つまり2017年4月1日に延ばすのであれば、現在の第187回国会に改正案を提出し、審議の上で改正するのが筋ですが、衆議院が解散されるとなれば無理ですから、次の第188回国会か第189回国会に提出、ということになるのでしょうか。
本日はこの程度としておきますが、今後の展開が気になるところです。
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上記の「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」ですが、国会に提出された当初の案では「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」となっておりました。もう一度、並べて記しますので、よく見比べて下さい。
当初案:「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」
現行法:「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」
次に、当初案の第1条を紹介します。取り消し線(打ち消し線)が引かれている部分は、修正案により削除された部分です。
「この法律は、世代間及び世代内の公平性が確保された社会保障制度を構築することにより支え合う社会を回復することが我が国が直面する重要な課題であることに鑑み、社会保障制度の改革とともに不断に行政改革を推進することに一段と注力しつつ経済状況を好転させることを条件として行う税制の抜本的な改革の一環として、社会保障の安定財源の確保及び財政の健全化を同時に達成することを目指す観点から消費税の使途の明確化及び税率の引上げを行うとともに、所得、消費及び資産にわたる税体系全体の再分配機能を回復しつつ、世代間の早期の資産移転を促進する観点から所得税の最高税率の引上げ及び相続税の基礎控除の引下げ並びに相続時精算課税制度の拡充を行うため、消費税法(昭和六十三年法律第百八号)、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)及び租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)の一部を改正するとともに、その他の税制の抜本的な改革及び関連する諸施策に関する措置について定めるものとする。」
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もう一つ、参考までに、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」の附則から、第1条および第18条を紹介しておきます。
まず、第1条です。「施行期日」という見出しの下に、次のように定められています。
「この法律は、平成二十六年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第一条及び第七条の規定並びに附則第十八条の規定 公布の日
二 第四条から第六条までの規定及び附則第十九条から第二十五条までの規定 平成二十七年一月一日
三 第三条の規定並びに附則第十五条及び第十六条の規定 平成二十七年十月一日」
次に第18条を紹介します。「消費税率の引上げに当たっての措置」という見出しの下に、次のように定められています。
第1項:「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。」
第2項:「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。」
第3項:「この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」