ひろば 川崎高津公法研究室別室

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第22回 行政調査

2015年08月03日 08時34分28秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 1.行政調査とは何か

 行政調査とは、簡単に言えば行政活動の一環としての調査のことであるが、厳密に定義がなされている訳ではない。行政調査を広く捉えるならば、 国勢調査などの統計調査も含まれるが、行政法学や租税法学でとくに問題となるのが、税務調査など、特定の具体的処分の前提となる(あるいは関連する)ものである。調査には質問・立入・検査などの態様があり、任意調査(事実行為)、実効性が刑罰によって担保されるもの、物理的実力行使が認められるものなどがある

 ※かつて、行政調査は即時強制の箇所において扱われていた。しかし、最近は、租税法学の影響もあり、行政調査を独立した項目として扱うのが一般的である。行政調査の中には、後に触れるように、「直接、私人の身体または財産に実力を加え、これによって行政上の目的を実現すること」という即時強制の定義に沿うものもあるが、沿わないものもあるので、即時強制とは異なる制度として扱うのが妥当であろう。なお、現在は行政調査を情報の収集・管理の一環として理解することも多い。

 

 2.行政調査の種類

 既に述べたように、行政調査について厳密な定義がなされていないこともあって、行政調査と位置づけられるものは多い。ここで、宇賀克也『行政法概説I行政法総論』〔第5版〕(2013年、有斐閣)148頁を参照しつつ、一応の分類を試みる。

 ①純粋な任意調査

 法的拘束力を欠き、相手方が調査に応ずるか否かを任意に決めることができるものである。事実行為に留まり、相手方には何らの協力義務もないため、行政作用法上の根拠を必要としない。

 ②相手方について調査に応ずる義務が法定されているが、その義務を強制する仕組みがないもの(警察官職務執行法第6条第2項など)

 ③相手方が調査を拒否した場合には給付が拒否されるというもの(生活保護法第28条など)

 ④相手方が調査に応じない場合、または応じたとしても十分な資料を提示しない場合には、相手方自身に不利益な事実があったとみなされるというもの

 ⑤間接的強制調査(準強制調査)

 相手方が調査を拒否した場合には罰則(刑罰など)が適用されることにより、間接的に調査の受諾を強制するものである。言い換えれば、質問検査権の行使の相手方は、質問に答えるか否か、検査に応ずるか否かについて、一応の自由を有するが、検査の拒否、妨害または忌避に対しては刑罰が科される。実効性が罰則によって担保されることにより、行政調査の妨害が防止されるのである。

 注意しなければならない点は三つある。第一に、あくまでも間接的に調査の受諾を強制するものであるから、相手方の抵抗(質問への無回答、資料の提示・提出の拒否など)を排除して調査を継続し、臨検、捜索、押収などをなしうるものではない。

 第二に、間接的強制調査の権限を犯罪捜査のために行うことは許されない※。

 ※なお、国税犯則取締法第1条もこの種の調査を規定するが(罰則は国税犯則取締法第19条ノ2で、間接国税に限られている)、上記のものと違い、当初から犯則調査を目的としている。この場合、検査の相手方には受忍義務が課されることとなるが、その相手方に直接、検査を強制する方法は規定されていない。

 第三に、実効性を罰則により担保するという性格を有するため、行政作用法上の根拠を必要とする。

 この種の行政調査を代表するのが、国税通則法第7章の2(第74条の2以下)に規定される税務調査であり、罰則は同第127条第2号および第3号に定められる。ここでは、第74条の2、第74条の8および第127条を紹介しておく。

 第74条の2:「国税庁、国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)又は税関の当該職員(税関の当該職員にあつては、消費税に関する調査を行う場合に限る。)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(税関の当該職員が行う調査にあつては、課税貨物(消費税法第二条第一項第十一号(定義)に規定する課税貨物をいう。第四号イにおいて同じ。)又はその帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件(その写しを含む。次条から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)において同じ。)の提示若しくは提出を求めることができる。

 一 所得税に関する調査 次に掲げる者

  イ 所得税法の規定による所得税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第百二十三条第一項(確定損失申告)、第百二十五条第三項(年の中途で死亡した場合の確定申告)若しくは第百二十七条第三項(年の中途で出国をする場合の確定申告)(これらの規定を同法第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の規定による申告書を提出した者

  ロ 所得税法第二百二十五条第一項 (支払調書)に規定する調書、同法第二百二十六条第一項から第三項まで(源泉徴収票)に規定する源泉徴収票又は同法第二百二十七条から第二百二十八条の三の二まで(信託の計算書等)に規定する計算書若しくは調書を提出する義務がある者

  ハ イに掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があつたと認められる者若しくは当該義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があつたと認められる者若しくは当該権利があると認められる者

 二 法人税又は地方法人税に関する調査 次に掲げる者

  イ 法人(法人税法第二条第二十九号の二(定義)に規定する法人課税信託の引受けを行う個人を含む。第四項において同じ。)

  ロ イに掲げる者に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者

 三 消費税に関する調査(次号に掲げるものを除く。) 次に掲げる者

  イ 消費税法の規定による消費税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者又は同法第四十六条第一項(還付を受けるための申告)の規定による申告書を提出した者

  ロ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等(消費税法第二条第一項第八号に規定する資産の譲渡等をいう。以下この条において同じ。)をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者

 四 消費税に関する調査(税関の当該職員が行うものに限る。) 次に掲げる者

  イ 課税貨物を保税地域から引き取る者

  ロ イに掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等をする義務があると認められる者又はイに掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者」

 (長らく、税務調査は、所得税法第234条第1項、法人税法第153条、相続税法第60条第4項など、個別の租税実体法に規定されていた。)

 第74条の8:「第七十四条の二から前条まで(当該職員の質問検査権等)の規定による当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」

 (かつては所得税法第234条第2項、法人税法第156条、相続税法第60条第4項などが、この旨を定めていた。)

 第127条:「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 一 第二十三条第三項(更正の請求)に規定する更正請求書に偽りの記載をして税務署長に提出した者

 二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)、第七十四条の四(第三項を除く。)、第七十四条の五(第一号ニ、第二号ニ、第三号ニ及び第四号ニを除く。)若しくは第七十四条の六(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

 三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者」

 (かつては所得税法第242条第8号、法人税法第162条第2号、相続税法第60条第1項など個別の租税実体法に罰則が定められていた。)

 ⑥実力行使が認められる強制調査(純粋な強制調査)

 物理的な実力行使が認められる、すなわち、相手方の抵抗を排除して行いうる調査である。当然のことながら、行政作用法上の根拠を必要とする。

 国税犯則取締法第2条第1項:「収税官吏ハ犯則事件ヲ調査スル為必要アルトキハ其ノ所属官署ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所又ハ簡易裁判所ノ裁判官ノ許可ヲ得テ臨検、捜索又ハ差押ヲ為スコトヲ得」

 同第2項:「前項ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ収税官吏ハ臨検スヘキ場所、捜索スヘキ身体若ハ物件又ハ差押ヲ為スヘキ物件ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所又ハ簡易裁判所ノ裁判官ノ許可ヲ得テ前項ノ処分ヲ為スコトヲ得」

 同第3項:「収税官吏第一項又ハ前項ノ許可ヲ請求セントスルトキハ其ノ理由ヲ明示シテ之ヲ為スヘシ」

 同第4項:「前項ノ請求アリタルトキハ地方裁判所又ハ簡易裁判所ノ裁判官ハ臨検スヘキ場所、捜索スヘキ身体又ハ物件、差押ヲ為スヘキ物件、請求者ノ官職氏名、有効期間及裁判所名ヲ記載シ自己ノ記名捺印シタル許可状ヲ収税官吏ニ交付スヘシ此ノ場合ニ於テ犯則嫌疑者ノ氏名及犯則事実明カナルトキハ裁判官ハ此等ノ事項ヲモ記載スヘシ」

 同第5項:「収税官吏ハ前項ノ許可状ヲ他ノ収税官吏ニ交付シテ臨検、捜索又ハ差押ヲ為サシムルコトヲ得」

 この規定から明らかであるように、「収税官吏」は、裁判官の許可(令状。許可状という)を得て収税官吏が臨検や捜索、または差押えを行う(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁を参照。この場合は、行政事件訴訟法により、差押えの処分に対する取消訴訟を提起しなければならないことになる)。

 国税犯則取締法第2条による手続は、実質的に刑事訴訟法による手続と同質のものである。しかし、「証拠の収集と判定について特別の知識と経験を必要とすること」、および「犯則事件の発生件数がきわめて多く、その処理を検察官の負担にまかせることが実際問題として困難なこと」から、収税官吏により行われるものとされている※。

 ※金子宏『租税法』〔第二十版〕(2015年、弘文堂)1001頁。

 また、最一小判昭和63年3月31日判時1276号39頁は「収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行つた場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許される」と述べる。すなわち、国税犯則取締法に規定される犯則調査により得られた資料を課税処分のために用いることは許される

 

 3.任意調査の範囲

 ●最三小判昭和53年6月20日刑集32巻4号670頁

 事案:本件の被告人は、東京都内で手製爆弾を警察官らに対して投げつけて傷害を負わせた他、鳥取県某市内のA銀行B支店で金銭を強奪し、逃走した。被告人は岡山県に逃走したため、同県のC警察署は緊急配備体制を敷いたところ、被告人が乗用車でD交差点付近を走行していたので、C警察署は検問を行い、被告人に対して免許証の提示を求め、職務質問を行った。被告人がボーリングバッグとアタッシュケースを持参していたため、警察官らは開披を求めたが被告人が拒否したため、被告人にC警察署への同行を求めた。警察官が被告人の同意を得ずにボーリングバッグとアタッシュケースを開けたところ、A銀行B支店の帯封がなされた札束などが見つかり、被告人は緊急逮捕された。

 東京地判昭和50年1月23日判時772号34頁は被告人に対して懲役17年の判決を言い渡した。被告人が控訴したが、東京高判昭和52年6月30日判時866号180頁は控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、被告人の上告を棄却した。

 判旨:「警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」。本件の場合は、被告人が「警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為である」。

 ●最一小判昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁(Ⅰ―112)

 事案:警察官が、覚醒剤中毒者と疑わしき人物Xに対して職務質問を行い、所持品の提示を求めた。Xは目薬などをポケットから出したが、警察官は他に疑わしきものがあるとして提示を求めた。Xは拒んだが、警察官はポケットに手を入れ、注射針と粉末入りのちり紙の包みを出した。この粉末を検査したところ、覚醒剤であることが判明し、Xを覚醒剤不法所持の現行犯として逮捕した。

 この事件において、Xは覚せい剤取締法違反の他に有印公文書偽造、同行使、道路交通法違反に問われていた。裁判では、警察官がXの承諾を得ないままポケットを捜索して差し押さえた物の証拠能力が争われ、大阪地判昭和50年10月3日刑集32巻6号1760頁および大阪高判昭和51年4月27日刑集32巻6号1765頁は証拠能力を否定してXを無罪としたが、最高裁判所第一小法廷は、次のように述べて本件を大阪地方裁判所に差し戻した。

 判旨:「警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべきである」(前掲最二小判昭和53年6月20日を参照)。本件の場合はXに対する所持品検査の必要性および緊急性は是認しうるが、許容限度を逸脱したものと解すべきであり、「右逮捕に伴い行われた本件証拠物の差押手続は違法といわざるをえない」。但し、職務質問の要件は存在し、かつ所持品検査の必要性および緊急性は認められており、許容限度を僅かに超えていたのであって、「令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図があつたものではなく、また、他に右所持品検査に際し強制等のされた事跡も認められないので、本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいいえないのであり、これを被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地に立つてみても相当でないとは認めがたいから、本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである」。

 ●最三小決昭和55年9月22日刑集34巻5号272頁(Ⅰ―113)

 →第4回において扱った。自動車の一斉検問の法的根拠を警察法第2条第1項と解する。

 

 

 4.行政調査の要件や手続の問題

 ①行政手続法には、行政調査に関する一般的規定は存在しない(行政手続法第3条第1項第14号を参照すること)。

 ②任意的手段による限りであっても、所掌事務と関係のない調査は許されない。この点において、一部の省庁で行われている、情報公開法に基づく開示請求に際しての法定事項以外の請求者の属性調査・情報収集は所掌事務の範囲を超えており、 情報公開法の趣旨に反するため、違法ではないかと考えられる。

 ③間接的強制調査

 このような場合、調査手続の問題もあるし、憲法第31条、第35条、第38条に違反するかも問題となる。税務調査についての事案が参考となるので、ここで取り上げておこう。

 ●最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁(川崎民商事件、Ⅰ―109)

 事案:当時の川崎税務署長は、川崎民主商工会員の被告Yの所得税確定申告に過少申告の疑いを抱いた。そこでYの帳簿書類などを検査しようとしたが、Yはこれを拒んだ。そのため、Yは所得税法に規定される検査拒否罪で起訴された。第一審、第二審ともにYを有罪としたので、Yは上告したが、最高裁判所大法廷は、次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:「憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」。しかし、税務調査が「あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはでき」ない。また、税務調査は、専ら「所得税の公平確実な賦課徴収を目的とする手続であつて、刑事責任の追及を目的とする手続ではなく、また、そのための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもな」く、公益上の必要性と合理性が認められる。さらに、「憲法三八条一項の法意が、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであると解すべき」であり、「右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする」が、税務調査は「憲法三八条一項にいう『自己に不利益な供述』を強要するものとすることはでき」ない。

 ●最三小決昭和48年7月10日刑集27巻7号1205頁(荒川民商事件、Ⅰ―110)

 事案:荒川税務署は、荒川民主商工会員の被告Yの所得税確定申告に過少申告の疑いがあるとして調査官を派遣した。しかし、Yは息子とともに、調査官に対して調査には応じられないとして調査官を追い返したため、所得税法に規定される不答弁罪および検査拒否罪にあたるとして起訴された。第一審はYを無罪としたが、第二審は有罪としたため、Yが上告したが、最高裁判所第三小法廷は、決定で次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:所得税法第234条第1項は「客観的な必要性があると判断される場合に」職権調査の一つとして質問や検査を行う権限を認めたものであり、「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべく、また、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行なううえの法律上一律の要件とされているものではない」。

 ●最三小判昭和59年3月27日刑集38巻5号2037頁

 憲法第38条第1項が供述拒否権(黙秘権)の告知を義務づけるものではないと理解した上で、国税犯則取締法に供述拒否権(黙秘権)に関する規定がなく、収税官吏が質問の際にあらかじめ供述拒否権(黙秘権)の告知をしなかったからといって、憲法第38条第1項に違反するものではない、と述べている。同趣旨の判決は他にも存在する※。

 ※現在、国税通則法には「納税義務者に対する調査の事前通知等」を定める規定として第74条の9が置かれている。同第74条の10もあわせて参照されたい。

 ④質問検査権の行使(間接的強制調査)と犯則調査(実力行使を伴う強制調査)との関係

 既に引用したところから明らかであるように、国税通則法第74条の8は、質問検査権を犯罪捜査のために利用してはならないという趣旨の規定である。すなわち、当初から犯罪を捜査するために税務調査を行ってはならないのである。しかし、質問検査権を行使して税務調査を進めるうちに、何らかの犯罪容疑を裏付ける事実が発見されることもありうる。このような場合、行政調査によって得られた資料を犯則調査に利用することが可能であるのかが問題となる。

 このような行政調査(税務調査)について、犯罪捜査のために行うことは許されないという前提があるからには、仮に行政調査(検査の拒否、妨害または忌避に対する罰則を伴う)によって得られた資料を犯則調査に利用できるとすれば、憲法第38条第1項の趣旨に反することになるため、税務調査で得られた供述を犯則調査に利用し、さらに刑事裁判で証拠とするのは許されない、という考え方もある

 ※川出敏裕「税法上の質問検査権限と犯則事件の証拠」ジュリスト1291号200頁、およびそこに掲げられた諸文献を参照。

 しかし、判例は異なる態度をとる。

 ●最二小決平成16年1月20日刑集58巻1号26頁(Ⅰ―111)

 事案:X1社、X2社の統括管理者は、X2社の代表取締役にしてX1社の実質的経営者であるX3と共謀し、両社の売り上げを一部除外した上で架空の経費を計上するなどの方法によって所得を秘匿し、平成元年から平成4年までの事業年度にわたり、合計で2億9000万円ほどの法人税を免れた、として起訴された。

 問題となったのは、この起訴に至る経緯である。高松国税局調査査察部は、X1社およびX2社に対して内偵立件の決議を行い、この両社と取引関係にある者の課税実績に関する情報を収集していた。X3は税理士と相談し、その税理士が今治税務署に行き、修正申告の可否などについて相談を行った。同じ日に、今治税務署副所長と統括国税調査官が協議を行い、2名の税務署職員を調査に赴かせた。彼らは税理士の立会いの下、X1社およびX2社の事務所において調査を行い、質問などを行うとともに帳簿を預かり、預金残高に関するメモや集計票の写しを受け取り、今治税務署に戻った。統括国税調査官は、査察による調査が必要であると判断し、高松国税局調査査察部の統括主査に対して過少申告などを報告した。高松国税局調査査察部は、査察立件決議を行い、高松簡易裁判所に、X1社およびX2社の事務所などを臨検場所とする臨検・捜索・差押許可状の発布を請求した。高松簡易裁判所が許可状を発布し、その翌日に高松国税局調査査察部は証拠品を押収した。

 この事件においては、最初に税務調査が行われ、そこで得られた資料を基にして国税犯則調査が行われていたことになる。そのため、税務調査が国税犯則調査の手段として利用されたとして、法人税法第156条・第163条、憲法第31条・第35条・第38条に違反するという主張が、弁護人からなされた。しかし、松山地判平成13年11月22日判タ1121号264頁は弁護人の主張を退け、X1社、X2社およびX3の全員を有罪とした。高松高判平成15年3月13日判時1845号149頁は全員の控訴を棄却し、最高裁判所第二小法廷も全員の上告を棄却した。

 判旨:「法人税法(平成13年法律第129号による改正前のもの)156条によると、同法153条ないし155条に規定する質問又は検査の権限は、犯罪の証拠資料を取得収集し、保全するためなど、犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使することは許されないと解するのが相当である。しかしながら、上記質問又は検査の権限の行使に当たって、取得収集される証拠資料が後に犯則事件の証拠として利用されることが想定できたとしても、そのことによって直ちに、上記質問又は検査の権限が犯則事件の調査あるいは捜査のための手段として行使されたことにはならない」。

 しかし、このように理解した場合、手続面での人権保障の意味がどうなるのかという疑問が生じよう。

 また、この決定では、税務調査の結果として得られた資料を犯則調査の資料として利用することがどこまで許されるのか、明確に述べられていない。当初から犯則調査のために税務調査をするのでなく、税務調査の結果として犯則調査に至るのは許されるということなのであろうか。しかし、これでは行政調査と犯則調査とを厳格に分離しなくともよい、という結論に至らないであろうか。

 ●最一小判昭和63年3月31日訟月34巻10号2074頁

 事案:不動産販売業のX社は青色申告の承認を受けていたが、Y税務署長はX社の売上原価の伸び率が高く、借入金および未払いの発生が多額であったことなどから税務調査を行った。他方、X社には売上原価について架空の原価を計上した疑いがあり、東京国税局査察部は査察官をX社に派遣し、臨検、捜索、差押えなどを行い、質問調査なども行った。その後、Y税務署長は前記査察調査に基づく課税資料を入手し、税務調査を行った。その結果、Y税務署長はX社への青色申告承認を取消す処分を行い、税額更正処分および重加算税賦課決定処分も行った。X社はこれらの処分の取消を求めて出訴したが、東京地判昭和61年11月10日税務訴訟資料154号458頁は請求を棄却し、東京高判昭和62年4月30日税務訴訟資料158号499頁もX社の控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もX社の上告を棄却した。

 判旨:「収税官吏が犯則嫌疑者に対し国税犯則取締法に基づく調査を行つた場合に、課税庁が右調査により収集された資料を右の者に対する課税処分及び青色申告承認の取消処分を行うために利用することは許されるものと解するのが相当であ」る。

 なお、行政調査という主題から離れるが、参考までに、最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁(Ⅰ―124)を取り上げておく。

 事案:新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(いわゆる成田新法。現在は成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)の第3条第1項に定められた工作物使用禁止命令の合憲性が問われたものである。この規定には、命令の相手方に対する告知、弁解、防御の機会を与えるという趣旨が盛り込まれていない。Y(運輸大臣)は、毎年、Xに対し、空港の規制区域内所在のX所有の小屋につき、暴力主義的破壊活動者の集合や活動などへの供用を禁止する処分を繰り返した。Xは処分の取消および国家賠償を求めて出訴したが、千葉地判昭和59年2月3日訟月30巻7号1208頁は、取消請求については却下し、国家賠償については棄却した。東京高判昭和60年10月23日民集46巻5号483頁は、千葉地方裁判所判決の一部を変更したものの、やはりXの請求を一部却下し、一部棄却した。最高裁判所大法廷も、Xの請求を一部却下し、一部棄却した。

 判旨:「憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」が、「同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である」。

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行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版 第7回 行政計画

2015年08月02日 10時35分28秒 | 行政法講義ノート〔第6版〕に向けての暫時改訂版

 1.行政計画の意義

 都市計画、国土利用計画、全国総合開発計画など、行政権が、何らかの目標を設定し、その目標を実現するための手段を総合的に提示するものは多い。その計画自体、または計画を定立する行為は、各行政機関の基本的な権限法か、個々の行政法令に規定されることが多い。また、計画の内容は様々であり、名称も「計画」に限られない。

 このように多様性を有する行政計画を統一的に理解することには困難を伴うが、共通点と考えられるものを抽出すれば、行政計画とはおおよそ次のようなものであると理解することが可能である。

 Ⓐ行政計画は、行政立法と並んで行政機関が一種の基準を定める行為である。すなわち、行政計画には規範定立的な要素が認められる。

 Ⓑ行政計画は、行政を合理的に遂行するために、一定の方向性を示し、調整するために、必要不可欠の手段である。但し、一義的なものではない。

 Ⓒ行政計画の基本的な性格として、一定の時間(期間)における目標を設定すること、その目標を達成するために様々な政策手段を盛り込むという構造を有することがあげられる。

 行政計画は、次に示す側面から或る程度の分類をなすことができる。なお、これはあくまでも例示的なものであり、網羅的でなく、また排他的なものでないことに注意を要する。

 時間的な面:長期計画、中期計画、短期計画

 対象の面:経済計画、都市計画、財政計画

 段階の面:基本計画、実施計画

 地域の面:全国計画、地方計画、地域計画

 上下の面:上位計画、下位計画

 法律の根拠の面:後述

 法的拘束力の面:後述

 ここで、実定法から災害対策基本法の例を概観しておこう。

 ・内閣府に設置された中央防災会議(第11条第1項)は、防災基本計画を策定する(第34条。内容については第35条を参照)。

 ・この防災基本計画に基づいて指定行政機関(第2条第3号)の長が防災業務計画を策定する義務を負う(第36条)。

 ・「防災業務計画の作成及び実施にあたつては、他の指定行政機関の長が作成する防災業務計画との間に調整を図り、防災業務計画が一体的かつ有機的に作成され、及び実施されるように努めなければならない」(第37条第2項)。

 ・都道府県防災会議(第14条第1項)は第40条第1項および第14条第2項により、市町村防災会議(第16条第1項)は第42条第1項および第16条第2項により、防災基本計画に基づいて地域防災計画を策定することを義務づけられている。

 

 2.行政計画の法定拘束力と裁量

 上記のような分類のうち、行政法学において最も重要なのは法的拘束力の面からのものである。次の三種に大別される。

 (1)策定・公告により私人の権利行使に対して制約を加えるもの※

 その例として、次のものをあげることができる。

 ・都市計画法第7条による市街化区域および市街化調整区域の設定

 ・同第8条による用途地域の設定(→建築基準法第6条および第6条の2により、建築物についても規制を受けることとなる)

 ・同第29条による市街化区域内および市街化調整区域内の開発行為許可制度(市街化調整区域内については第34条および第43条により厳しく規制される)

 ・土地区画整理事業計画

 ※櫻井敬子・橋本博之『行政法』〔第4版〕(2013年、弘文堂)153頁は「拘束的計画」と表現する。

 (2)私人の権利行使を制約するものではないが他の行政機関・行政主体を拘束するもの

 その例として、高速自動車道路整備法に基づく整理計画をあげることができる。

 (3)国全体や地方公共団体などに対する指針を定め、国民に対する要望に留まるもの

 その例として、国土開発計画法に基づく全国総合開発計画をあげることができる。

 以上のうち、(1)については法律の根拠を必要とする。行政計画自体が何らかの具体的な法的効果を意図しているからである。

 これに対し、(2)および(3)は、少なくとも私人に対する法的拘束力がなく、事実行為に留まるため、一応は法律の根拠を必要としないと言いうる。しかし、このように言い切ってよいかという疑問も残る。何故なら、行政計画を立てるということは、その計画に基づいて行政が推進されることにつながる。すなわち、後の個別的行為の前提になる。しかも、策定・公告によって私人の権利行使に対して制約を加えることが予定されていない計画であるとしても、公表により、私人への誘導や勧告などとして現われる事実上の拘束力を有する場合がある。このように考えるならば、紋切り型に「事実行為であるから法律の根拠は不必要である」ということはできないであろう。勿論、一概に「行政計画には法律の根拠を必要とする」とすることにも意味はない。

 もっとも、法律において行政計画の目標、行政計画を策定する際に考慮すべき要素などを定めるとしても、計画を策定するという行為の性質上、具体的内容の作成については、策定権者に広範な裁量権(計画裁量)を認めざるをえない。この裁量権をどのように統制するか、例えば、

 行政計画の策定過程過程に国民・住民がどこまで参加できるか、

 利害関係人がどこまで参加できるか、

 専門知識をどの程度まで導入するか、

という点が、行政手続の一環として重要な課題である。ドイツ連邦行政手続法には計画策定手続に関する規定が存在するが、日本の行政手続法には存在しない※。1984年の行政手続法研究会(第一次)報告においては 、計画策定手続に関する規定を置くことが提案されていたが、結局、規定は置かれず、現在に至るまで実現していない。

 ※日本の行政手続法には、行政計画の策定(および公表)の手続に関する規定が存在しない。もっとも、個別法には、手続に関する規定が置かれる場合もある。その代表例として、都市計画法の規定を抜粋しておく。

(公聴会の開催等)

第十六条 都道府県又は市町村は、次項の規定による場合を除くほか、都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

2 都市計画に定める地区計画等の案は、意見の提出方法その他の政令で定める事項について条例で定めるところにより、その案に係る区域内の土地の所有者その他政令で定める利害関係を有する者の意見を求めて作成するものとする。

3 市町村は、前項の条例において、住民又は利害関係人から地区計画等に関する都市計画の決定若しくは変更又は地区計画等の案の内容となるべき事項を申し出る方法を定めることができる。

(都市計画の案の縦覧等)

第十七条 都道府県又は市町村は、都市計画を決定しようとするときは、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公告し、当該都市計画の案を、当該都市計画を決定しようとする理由を記載した書面を添えて、当該公告の日から二週間公衆の縦覧に供しなければならない。

2 前項の規定による公告があつたときは、関係市町村の住民及び利害関係人は、同項の縦覧期間満了の日までに、縦覧に供された都市計画の案について、都道府県の作成に係るものにあつては都道府県に、市町村の作成に係るものにあつては市町村に、意見書を提出することができる。

3 特定街区に関する都市計画の案については、政令で定める利害関係を有する者の同意を得なければならない。

4 遊休土地転換利用促進地区に関する都市計画の案については、当該遊休土地転換利用促進地区内の土地に関する所有権又は地上権その他の政令で定める使用若しくは収益を目的とする権利を有する者の意見を聴かなければならない。

5 都市計画事業の施行予定者を定める都市計画の案については、当該施行予定者の同意を得なければならない。ただし、第十二条の三第二項の規定の適用がある事項については、この限りでない。

(条例との関係)

第十七条の二 前二条の規定は、都道府県又は市町村が、住民又は利害関係人に係る都市計画の決定の手続に関する事項(前二条の規定に反しないものに限る。)について、条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない。

 ●最一小判昭和47年10月12日民集26巻8号1410頁(Ⅰ―78)

 事案:第8回(その1)において扱った判決である。浄化槽清掃業を営むXは、市長Yに対してH市における汚物処理業の許可申請を行ったが、Yは不許可処分をした。Xは不許可処分の取消しを求めたが、横浜地判昭和40年7月1日行集16巻8号1434頁はXの請求を棄却した。これに対し、東京高判昭和42年11月21日行集18巻12号1434頁は、Yの不許可処分に裁量権の逸脱があったとしてXの請求を認め、不許可処分を取り消した。Yが上告し、最高裁判所第一小法廷は東京高等裁判所判決を破棄し、事件を同高等裁判所に差し戻した。

 判旨:旧「清掃法一五条一項が、特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を受けなければ、汚物の収集、運搬または処分を業として行なつてはならないものと規定したのは、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従つて収集、処分することは市町村の責務であるが(同法六条、地方自治法二条三項七号、同法別表第二の一一参照)、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、みずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解せられる。かかる趣旨にかんがみれば、市町村長が前記許可を与えるかどうかは、清掃法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である」。

 ●最一小判平成16年1月15日判時1849号30頁

 事案:X(原告・被控訴人・被上告人)は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第7条第1項により、Y(松任市長、被告・控訴人・上告人)に対して一般廃棄物収集・運搬業の許可申請を行った。Yは不許可処分を行ったため、Xがその取消を求めた。金沢地判平成12年10月13日判例集未登載はXの請求を認め、名古屋高金沢支判平成14年8月28日判例集未登載はYの控訴を棄却したが、最高裁判所第一小法廷は、Yの上告を認容してXの請求を棄却した。

 判旨:「廃棄物処理法は、(中略)一般廃棄物の収集及び運搬は本来市町村が自らの事業として実施すべきものであるとして、市町村は当該市町村の区域内の一般廃棄物処理計画を定めなければならないと定めている。そして、一般廃棄物処理計画には、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み、一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項等を定めるものとされている(廃棄物処理法6条2項1号、4号)。これは、一般廃棄物の発生量及び処理量の見込みに基づいて、これを適正に処理する実施主体を定める趣旨のものと解される。そうすると、既存の許可業者等によって一般廃棄物の適正な収集及び運搬が行われてきており、これを踏まえて一般廃棄物処理計画が作成されているような場合には、市町村長は、これとは別にされた一般廃棄物収集運搬業の許可申請について審査するに当たり、一般廃棄物の適正な収集及び運搬を継続的かつ安定的に実施させるためには、既存の許可業者等のみに引き続きこれを行わせることが相当であるとして、当該申請の内容は一般廃棄物処理計画に適合するものであるとは認められないという判断をすることもできるものというべきである」。

 ●最一小判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁(Ⅰ−79。小田急高架化訴訟)

 第8回(その2)において扱った。

 ●最二小判平成18年9月4日訟月54巻8号1585頁(林試の森事件)

 第8回(その2)において扱った。

 

 3.行政計画と争訟

 行政計画は、いかなるものであれ、将来的に何らかの我々の生活に何らかの影響を及ぼしうる(そのことが全く想定されない計画は存在しえないであろう)。そのため、行政計画を行政不服審査法や行政事件訴訟法によって争うことは可能であるかが問題となる。これについては、法的拘束力の有無を分けて検討する必要がある。

 まず、法的拘束力を持たない行政計画(新産業都市建設基本計画など)は、指針的な性格しか持たず、具体的な処分として扱われないから、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟で争うことはできない(大分地判昭和54年3月5日行裁例集30巻3号397頁を参照)。

 それでは、法的拘束力を有する行政計画は取消訴訟の対象となるのであろうか 。ここで判例の動向を概観する。

 例1:土地区画整理事業計画

 土地区画整理法第2条第1項は、「土地区画整理事業」を「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従つて行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業」と定義する。大まかな手続は、事業計画の決定・公告→仮換地の指定→建築物等の移転・除却→工事→換地計画の認可→換地処分→生産金の徴収・交付という流れである。この手続の最初の段階において土地区画整理事業計画の妥当性を争うことができるのかが問題とされる。このような事業計画が決定され、公告されれば、土地の形質変更や建物の新築などについて制約を受けることになるからである(同第76条第1項、第85条および第140条を参照すること)。

 ①最大判昭和41年2月23日民集20巻2号271頁は、こうした制約が「当該事業計画の円滑な遂行に対する障害を除去するための必要に基づき、法律が特に付与した公告に伴う附随的な効果にとどまるのであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえ」ず、「事業計画自体ではその遂行によって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが、必ずしも具体的に確定されているわけではなく、いわば当該土地区画整理事業の青写真たる性質を有するにすぎない」から、取消訴訟の対象にはならない、とした。

 従って、私人は、計画に不服を持つ場合であっても、計画そのものではなく、計画に基づく具体的な処分に対して訴訟を提起すべきである、ということになるのであろう。しかし、これに対しては、計画そのものを訴訟の対象にすることこそ、計画に関する各紛争を早期に、かつ根本的に解決する道筋であるとして、批判も強かった。

 ようやく、最大判平成20年9月10日民集62巻1号1頁(Ⅱ-159)により、土地区画整理事業計画を取消訴訟により争うことが認められるようになった。事案および判旨を紹介しておく。

 事案:Y1(浜松市。被告・被控訴人・被上告人)は、市内を通る遠州鉄道鉄道線(通称西鹿島線。新浜松駅~西鹿島駅)の連続立体交差事業の一環として、同線の上島駅の高架化および同駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、西遠広域都市計画事業上島駅周辺土地区画整理事業(本件土地区画整理事業)を計画した。平成15年11月7日、Y1は土地区画整理法第52条第1項の規定に基づき、Y2(静岡県知事、被告・被控訴人)に対して本件土地区画整理事業の事業計画において定める設計の概要に関して認可を申請した。同月17日、Y2はY1に対して認可を行った。これを受けて、Y1は同月25日に本件土地区画整理事業の決定を行い、公告を行った。これに対し、本件土地区画整理事業の施行地区内に土地を所有するXらは、本件土地区画整理事業が法律に定められる事業目的を欠いているなどと主張し、取消を求めて出訴した。

 静岡地判平成17年4月14日民集62巻8号2061頁はXらの請求を却下し、東京高判平成17年9月28日民集62巻8号2087頁も控訴を棄却したが、最高裁判所大法廷は東京高等裁判所判決を破棄し、事件を静岡地方裁判所に差し戻した(以下、「法」は土地区画整理法のこと)。

 判旨:市町村が土地区画整理事業を公告すると、「換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか、施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は、書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項)、施行者は、その申告がない限り、これを存しないものとみなして、仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)」。そして、「事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能にな」り、事業計画が決定されると「特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続ける」。従って、「施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない」。

 また、「換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかね」ず、「換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきであ」り、「市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる」。

 例2.土地区画整理組合の設立認可

 最三小判昭和60年12月12日民集39巻8号1821頁は、処分性を認める。従って、設立認可は取消訴訟の対象となる。

 例3.市町村営の土地改良事業に係る事業施行認可

 最一小判昭和61年2月13日民集40巻1号1頁は、処分性を認める。従って、事業施行認可は取消訴訟の対象となる。

 例4.都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業計画の決定

 処分性が認められ、取消訴訟の対象となる。

 ●最一小判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁

 事案 大阪市は、昭和59年6月11日、都市再開発法第54条第1項に基づき、大阪都市計画事業阿倍野A1地区第二種市街地再開発事業の事業計画を決定し、同日付の同市告示第338号により公示した。これに対し、阿倍野A1地区や同A2地区に土地・建物を所有し、またはこれらを賃借して営業を行っているXらは、この事業を実施することにより、直接的に生活環境、財産、営業等に甚大な影響を受けるとともに、事業計画について住民の同意がなされておらず、手続上の瑕疵があるなどと主張し、事業計画決定の取消を求めて出訴した。大阪地判昭和61年3月26日行集37巻3号499頁はXらの請求を却下したが、大阪高判昭和63年6月24日行集39巻5・6号498頁はXらのうちA1地区内に土地・建物を所有するX1について控訴を認容して事件を大阪地方裁判所に差し戻し、X2らについては訴えを却下した。大阪市は上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した。

 判旨:「都市再開発法五一条一項、五四条一項は、市町村が、第二種市街地再開発事業を施行しようとするときは、設計の概要について都道府県知事の認可を受けて事業計画(以下「再開発事業計画」という。)を決定し、これを公告しなければならないものとしている。そして、第二種市街地再開発事業については、土地収用法三条各号の一に規定する事業に該当するものとみなして同法の規定を適用するものとし(都市再開発法六条一項、都市計画法六九条)、都道府県知事がする設計の概要の認可をもって土地収用法二〇条の規定による事業の認定に代えるものとするとともに、再開発事業計画の決定の公告をもって同法二六条一項の規定による事業の認定の告示とみなすものとしている(都市再開発法六条四項、同法施行令一条の六、都市計画法七〇条一項)。したがって、再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法二六条四項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることとなる。しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して三〇日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである(同法一一八条の二第一項一号)」。従って、「公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である」。

 (なお、大阪高等裁判所によって訴えを却下されたX2らは上告したが、最一小判平成4年11月26日判例集未登載は上告を棄却した。)

 例5.都市計画の用途地域の指定によって建築制限などの義務が課される場合

 都市計画法に基づく用途地域の指定により、やはり、当該地域内の土地所有者などには建築基準法上の建築制限などの制約(義務)が課され、その範囲内で一定の法状態(権利状態)の変動が生じることとなる。しかし、判例は、用途地域の指定に処分性を認めていない。

 ●最一小判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁(Ⅱ-160)

 事案:岩手県知事(被告)は、昭和48年5月1日、同県告示第591号により、盛岡広域都市計画用途地域のうち、当時の紫波郡都南村(現在は盛岡市の一部)の某地域を工業地域に指定した。これに対し、当該地域内で精神病院を経営するXらは、この指定によって病院等の建築物を建築することができなくなる(現行の都市計画法第9条第11項および建築基準法第48条第11項を参照)などとして、工業地域の指定の無効確認などを求める訴訟を提起した。盛岡地判昭和52年3月10日行集28巻3号194頁はXらの請求を却下し、仙台高判昭和53年2月28日行集29巻2号191頁もXらの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXらの上告を棄却した。

 判旨:「都市計画区域内において工業地域を指定する決定は、都市計画法八条一項一号に基づき都市計画決定の一つとしてされるものであり、右決定が告示されて効力を生ずると、当該地域内においては、建築物の用途、容積率、建ぺい率等につき従前と異なる基準が適用され(建築基準法四八条七項、五二条一項三号、五三条一項二号等)、これらの基準に適合しない建築物については、建築確認を受けることができず、ひいてその建築等をすることができないこととなるから(同法六条四項、五項)、右決定が、当該地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課し、その限度で一定の法状態の変動を生ぜしめるものであることは否定できないが、かかる効果は、あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があつたものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。

 

 4.計画担保責任

 行政計画の変更や中止によって損害を受けた者に対する損失補償または損害賠償の要否が問題となることがある。行政計画の変更や中止そのものは適法であっても、信義誠実の原則(信頼保護の原則)により、損害賠償や損失補償などを行わずに行政計画を変更または中止するならば行政主体に不法行為責任が認められることがある。

 ●熊本地玉名支判昭和44年4月30日判時574号60頁

 事案:荒尾市(被告)は、住宅難を緩和するため、同市内に住宅団地の建設計画を立て、土地を購入した上で計画を実行に移した。この計画によると公営、民営を合わせて1500戸の住宅を建設するなどとなっていたが、浴室設備の計画がなかったため、同市は公衆浴場を設置することとなり、原告が選ばれた。原告は被告の要求を受けて増設も可能となるように公衆浴場の建設に着手し、ほぼ完成させた上で熊本県より公衆浴場営業の許可を得た。ところが、昭和35年12月24日に前市長が死亡し、新市長が選任された後、住宅団地建設計画は大幅に縮小され、昭和36年度からの建設計画は全面的に中止された。これにより、原告は、この住宅団地の地理的条件によって営業許可を得ながらも営業ができないなどとして、損害賠償を請求する訴訟を提起した。熊本地方裁判所玉名支部は、原告の請求を一部認容した。

 判旨:本件において「被告市の執行機関たる首長が、原告の浴場建設を徒労に帰せしめるような該団地建設計画の廃止(該公営住宅建設事業の廃止)の挙に出るということは、これによつて原告の被むる不利益を防止し、もしくはその損害を賠償することを条件としてはじめて許容されるべきものであり、然らざる限り該行為は違法性を帯びるものといわなければならない」。また、「原告は被告市のかかる協力援助を期待してこれに信頼を懸けることができるという協助・互恵の信頼関係が成立しておるものであるというべく、しかしてかかる協助・互恵の信頼関係に基づき原告の有する利益は十分法律上の保護に値いするものであるというべきであるから、かかる利益を何らの代償的措置を講ずることなく一方的に奪うということは信義則ないし公序良俗に反し、また禁反言の法理からも許されないところであ」る。もっとも、荒尾市が「その行政施策(財政緊縮政策等)の必要に基づき本件団地の建設を廃止する所為には何ら違法と目すべきものがなく、それ自体としては適法なものといわなければならない」が、本件の場合は、原告が「団地の共同施設たる浴場を建設経営することによつて被告市の公営住宅法上の義務を実質的に肩替りし、延いてはその管理行政に協力し、反面同被告の住宅団地完成によつて、自己の生活基盤の安定も期し得られるものと信じてきた原告の信頼を著しく破る背信的所為となる(何らの代償的措置も講じないものである限り)ものであり、かつ当時右団地建設の廃止によつて原告がその建設に係る公衆浴場に採算のとれる浴客の来集を全く期待し得なくなるものであること、すなわち原告における致命的な損害発生の必然性を被告市において十分認識しておつたことは、本件弁論の全趣旨に徴し明白であるから、結局被告市の所為は、故意に因り違法に他人の利益を侵害するものとして不法行為(仮に典型的な不法行為でないとしても、すくなくともいわゆる適法行為による不法行為)を構成するものというべきであり、被告市は結局原告の被むつた損害を賠償すべき義務を免がれ得ないものといわなければならない」。

 ●最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁(Ⅰ-29)

 第4回において取り上げた。なお、この判決は不法行為責任という構成をとるが、原田尚彦『行政法要論』〔全訂第七版補訂二版〕(2012年、学陽書房)132頁は、この最高裁判所第三小法廷判決の法的構成を疑問として「計画変更は適法であるというのであれば、それによって特別の犠牲を蒙った者には、行政行為の撤回にともなう信頼保護の法理に準じ、損失補償をあたえると構成する方が素直な解釈であろう」と述べる。たしかに、原因行為である行政計画の変更・中止(場合によっては廃止)そのものが適法であるが私人が損害を被った場合に、不法行為責任の問題とするのは、相対的違法という観念を用いるにしても、奇異な感じは否めない。

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