日本の将来が不透明になっている折、あれこれ読み漁って見つけたものを記事にしてみるのは無駄ではないかもしれません。
生き延びるというテーマの場合、日本では天皇家というものがお手本とできるかと思います。
酒井美意子「元華族たちの戦後史 没落、流転、激動の半世紀」 講談社 2016年
酒井美意子については こちら
この本の表紙カバーに書かれている文章から
・明治以来、日本には華族と呼ばれた、文字どおりの上流階級が存在した。しかし、1945年8月の敗戦で、彼らは大きな変転に直面する。前田侯爵家の姫君として生まれ、酒井伯爵家に嫁いでいた著者は、激動の昭和史をいかに生き抜き、何を目撃したのか。生き生きと綴られた皇族・華族たちの明暗交々の生き様と、驚きいっぱいの歴史的証言!
歴史はいろいろな視点から考えてみる、という意味でも貴重な証言として感じられます。
この本の中に付録として 東久邇成子「やりくりの記」というものが掲載されていました。
酒井美意子とは女子学習院で同級であって、辛口の人物評もある酒井美意子もほめる賢い人柄であったようです。
東久邇成子(昭和天皇第一皇女)については こちら
「やりくりの記」(『美しい暮らしの手帖』第五号所収、一九四九年十月発行)
・日本は変わった。私たちもこれまでの生活を切り替えようとこの焼け跡の鳥居坂に帰って来た。やりくりの暮しがはじまったのである。ここは居間の方が全部焼けて、ただ玄関と応接間だけが残ったので、これを修理して、やっと、どうにか住めるようにしたのだ。だから押入れが一つもなく、台所と言っても、ただ流しだけで、配給物などを入れておく戸棚もないので、洋服ダンスの下方にしまったりしている始末である。
・広い品川の家に、昔ながらの習慣にひたって両親と共に暮す事は、ある意味では、楽だと言う事も出来る。しかし生活そのものを思いきりつめて、むだな所を捨て、将来に大きな希望、明るい夢を抱いて、その実現へと、一歩一歩踏みしめて行くと思うと、こんな生活でも、いまの暮しを私はたのしいと思う。咲き誇った花の美しさより、つぼみのふっくらした美しさがほしいと思うからである。
・子供には子供の世界がある。大人には想像も及ばない世界である。私たちはつい大人の考えから、ああして、こうしてと指図して美しい子供心を圧迫してしまう事が度々あるのではないだろうか。
軟かい宝石のような、そんな感じのする子供心を、私は出来るだけ注意ぶかく見守り、傷つけないように磨こうと思う。
・焼跡の大部分に畑もつくった。毎日の食生活を少しでも助けるためである。夏の朝早く露をたたえて生き生きと輝いているトマト、なす、きうり等、もぎとってくるのも嬉しかった。しかし、今年の春の頃は、畑に人参も、ほうれん草も、大根もなくて、毎日春菊だの、わけぎだのと同じきまった野菜に、きょうは何を使おうかしらと苦労させられたものだ。そして結局高い端境期の野菜を買わなければならなかった。この苦い経験を生かして、来年は多種類の野菜が少しずつでも、絶え間なくとれる様に、殊に端境期を気をつけて菜園計画を立てようと思っている。
・この様に台所の事、畑の事、縫物の事等、朝から晩まで仕事に追われがちの私である。庭の草花の一輪でも部屋の片隅に生けて、そのささやかな美を味いたいと思いつつも、ふだんはそれすら忘れてしまっている。けれども、これではいけないと思う。
・でも、どんな風にしたらその日、その日の家事が早く片付いて、こうしたゆったりと落ちついた時間を持つ事が出来るだろうかと考えて見た。
この数年の忙しい毎日の暮しで、私が知ったのは、一つの仕事を敏速にする訓練と心掛けが必要だということである。これは要点をつかんで無駄をはぶき計画的に仕事をすることだと思う。忙しい忙しい、と思っていると、しっかりと、ものを考えて判断したり、家庭の中の事柄の計画を立てるような事もなくなってしまう。
・もう一つには、いつも整頓をする習慣をつけることである。机の上には二,三日分の新聞がたまり、鉛筆が出し放しにしてあったり、台所に道具が、ちらばっていたりすると、能率が上らないばかりでなく、何時の間にか子供もおもちゃになったり、なくなったり、こわれたりするものもある。何時も定めた所にしまう様にすれば、手順よく仕事がはかどるようになる一つの手段だと思う。
・世界は、社会はまさに混沌とした深い霧にとざされている様に見えるが、しかしその中にもある一点から、ほのぼのとした光がさし始めているような気がする。私の生活もまた様々なもやにさえぎられて、今もまだ幾多の困難をのりこえなければならないが、これは私たちだけではない。日本中みんな苦しいのだから、この苦しさにたえてゆけば、きっと道はひらけると思うと、やりくり暮しのこの苦労のかげに、はじめて人間らしいしみじみとした、喜びを味う事が出来るのである。
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どういう境遇でも適応していく、という心構えが大事だと教わったような気がします。
また、時間を上手に使うには、手早さの訓練と整理整頓が大事とのこと。(汗
35歳の若さで亡くなった東久邇成子のこの飾らない文章には、今の女性たちに気合を入れる働きがあると思いますが、いかがでしょうか。
皇族や華族の苦労話など読みたくもない、ではなくて、苦労を乗り越えて続いている家系のパワーなり処世法なりを参考にする
倒産してしまった会社の社長の体験談を読む
また、高齢者の特別な体験を聴く
といったことが、大きな災害や高齢化社会を乗り越えていくために必要そうに思います。
タイサンボクのふっくらしたつぼみです。