英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

“反撃能力”と言葉を言い換えて……防衛費増額、増税へ

2022-12-06 17:10:04 | 時事
『岸田首相 防衛費 5年間で“総額約43兆円確保”で調整へ』
………確かに、ロシア、中国、北朝鮮の不穏な動きなど武力行使、核使用、戦争勃発など危機が増大している現状を考えると、ある程度はやむを得ないのかもしれないが、従来の1.5倍という増大幅や、その方針決定に至るプロセスには納得いかないものがある。

 そもそも、軍事的な意味での「反撃能力」という言葉は、最近湧き出たきたように思う。
 従来は「敵基地攻撃能力」と表現し、《政府の方針としてはこれ(敵基地攻撃能力)は保持しない》とされてきたようだが、これを「反撃能力」と言い換えて、政府の方針も転換したようだ。
 敵の攻撃基地を破壊できるという能力自体は変わらないのだが、「反撃」という表現を使うことによって、《攻撃されなければ、自らは攻撃しない》という意思を示している。「自衛隊」と同様な意味合いであろう。
 ただし、《敵攻撃基地を攻撃する能力を保有するかしないか》という観点では、大きな違いがあり、これまでの政府の方針を転換することの意味は重大である。「あなたがこちらに危害を加えなければ、攻撃しませんよ」と言っても、ガンベルトに拳銃を装備しているのと、そうでないのとでは、天と地の違いがある。
 文化も風土も歴史も言語も宗教も違う他国からすれば、日本への警戒心は増大する。……それが抑止力となるという考えは否定できないが。

 とにかく、重大な方針転換を、「反撃能力」という表現と国際情勢の緊迫情況を利用して(←多少語弊があるかもしれない)、簡単に行ってしまった
 ただし、政府もいきなり方針転換したのではなく、有識者会議を開き、その見識・意見を拠り所として、今回の方針転換を決めてはいる。

 で、その“有識者会議”であるが……正式名称は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」……名称からして、防衛力増強を前提としているような気がする。
 全4回行われた。参加者は(すべてに全員が参加したわけではない)
中西寛京 京都大学大学院法学研究科教授
翁百合 日本総合研究所 理事長
上山隆 大総合科学技術・イノベーション会議議員
喜多恒雄 日本経済新聞社 顧問
國部毅 三井住友フィナンシャルグループ 取締役会長
黒江哲郎 元防衛事務次官 三井住友海上火災保険 顧問
佐々江賢一郎 元駐米大使 日本国際問題研究所 理事長
橋本和仁 科学技術振興機構 理事長
船橋洋一 国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン
山口寿一 読売新聞グループ本社 代表取締役社長

岸田首相 松野内閣官房長官 林 外相 鈴木 財務相 浜田 防衛相
高市 経済安全保障担当大臣 兼 内閣府特命担当大臣 寺田 総務大臣
永岡 文部科学大臣 西村 経済産業大臣 斉藤 国土交通大臣

折木良一元統合幕僚長、佐藤雄二元海上保安庁長官


 参加者の経歴などを吟味して述べなければならないが、経済通、軍事通で発言力がありそう、また防衛力(軍備力)アップに協力できそうな面々のような気がする。
 とにかく、防衛力アップが前提で、資金・施設面でどのくらい対応できるかが、会議の目的のように思われる。

 「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」のサイトには、この会議の目的・名目として
「 我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには、我が国が持てる力、すなわち経済力を含めた国力を総合し、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要であり、こうした観点から、自衛隊の装備及び活動を中心とする防衛力の抜本的強化のみならず、自衛隊と民間との共同事業、研究開発、国際的な人道活動等、実質的に我が国の防衛力に資する政府の取組を整理し、これらも含めた総合的な防衛体制の強化について、検討する必要があります。
 また、こうした取組を技術力や産業基盤の強化につなげるとともに、有事であっても我が国の信用や国民生活が損なわれないよう、経済的ファンダメンタルズを涵養していくことが不可欠であり、こうした観点から、総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方について、検討する必要があります。
このため、高い識見を有する人々の参集を求めて、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を開催します。」

 この文章からも、防衛力(軍事力)強化が大前提であることが分かる。それにしても……「経済的ファンダメンタルズを涵養していくことが不可欠」……“ファンダメンタルズ”とか“涵養”って何?
ファンダメンタルズ……国や企業などの経済状態などを表す指標のことで、「経済の基礎的条件」と訳される。 国や地域の場合、経済成長率、物価上昇率、財政収支などがこれに当たり、企業の場合は、売上高や利益といった業績や資産、負債などの財務状況が挙げらる。
“涵養”……水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てること

 「高い見識を有する人々を参集」とある……そうなのだろうと思うが、先にも述べたように、偏りがあるように感じる。

 とにかく、その会議でまとめられた見解・意見を拠り所にして、そして、「敵基地攻撃能力」→「反撃能力」に表現を変えて、政府の方針転換を決めてしまった。(そう言えば、「集団的自衛権」とかいう言葉もそんな感じだ。
 《イラクへの自衛隊派遣》や今回の《防衛力強化》そのものの是非はともかく、そのやり方(法の拡大解釈や表現の言いかえや有識者会議の利用)が、自民党らしいやり方である。(《消費税は社会福祉の安定財源》という理屈で、景気回復の手段として消費税率を下げる意見はシャットアウトも同様である)
 それと、今回の報道で「“敵基地攻撃能力は保有しない”という政府の方針を変更」という表現が、その半日後の報道からは「これまでの政府の方針を変更して、“反撃能力を保有する”とした」云々の表現(敵基地攻撃能力という言葉を使わない)に変わっていた……私の思い違いかもしれないが…

 さて、今回の与党(自民・公明)の敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を認めることで合意した件の流れや合意の内容については、東京新聞Web時事ドットコムで記されており、そちらを参照していただきたい。
 この反撃能力には大きな問題点がある。どのタイミングを持って《攻撃された》と判断するのだろうか?ミサイルが発射されてからでは遅いし、発射前だと先制攻撃なってしまう。昨今の“Jアラート”の即時性の低さ、情報の不確かさを考えると、到底、正確な攻撃の把握ができるとは思えない。攻撃力を持つ前に、まず、ミサイルの発射準備情報の察知能力を上げることが先決であろう。
 政府が真面目に《的確な反撃能力の行使》を考えているとは思えない。とにかく、軍事力をアップして各国への牽制力をアップさせたいと考えているのなら、素直に『牽制軍事力』(先制攻撃はしません)とアピールすればよい。

 あと、この与党合意の内容で、引っ掛かりを感じたのが「集団的自衛権」を適用し、日本だけではなく同盟国に(アメリカに)攻撃が確認された時も、反撃能力を行使すると定めたこと。もうこれは、米国への忖度としか考えられない。

 あと、気になったこと……話が戻るが、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の議事要旨(第4回会議についてはアップされていない)や報告書などを読んでいたら、気分が悪くなった。
 例えば、報告書の1.「防衛力の抜本的強化について」(1)目的・理念、国民の理解では
 防衛力の抜本的強化の目的は、このような厳しい安全保障環境において、我が国の国民の生命と財産、我が国の主権及び平和と安定を守り、国際社会の秩序を保ち、安定を図ることにある。
 それには、日本及び日本周辺での戦争を抑止し、力による現状変更を許さないという我が国の意思を国内外に示し、有事の発生それ自体を防ぐ抑止力を確保しなければならない。そして、自分の国は自分たちで守るとの当たり前の考えを改めて明確にすることは同盟国や同志国等からの信頼を揺るぎないものにするために不可欠であることも忘れてはならない。
 この防衛力強化の目的を、国民に「我が事」として受け止め、理解して頂けるよう、政府は国民に対して丁寧に説明していく必要がある。その際に重要なことは、なぜ防衛力を抜本的に強化する必要があるのか、国民生活の安全や経済活動の安定を守るために必要な措置はどのようなものか、そのためにどれぐらいの負担が必要となるのかについて国民に理解してもらう努力であり、国民に丁寧に説明していくことである。


 「気分が悪くなった」と書いたが、こう感じたのは私だけだろうか?私は“非国民”なのだろうか?
 “自分の国は自分たちで守る”というが、今の政治家を観ていると、《国(政治家)は、国民のことなど、何とも思っていない》としか思えない。そもそも、《自分の国は自分たちで守る》ということが当たり前の考えなのだろうか?……それが当たり前かどうかは、私は取りあえず棚に上げておいて、こう言いたい……「自分の国を守ることより、自分を守るので精一杯なんだよ!」(個人的には、国よりも自然を守りたい)
 会議の参加者に、あの寺田総務大臣がいては、説得力はないだろう。

 さらに、報告書や議事要旨などを読んでいると、
「防衛力を総合的に強化していくには、防衛産業(←軍事産業)の強化は欠かせない」
「防衛力強化には先端技術の開発や、防衛産業の振興など、我が国の経済力強化につなげられそうな糸口がある。防衛力強化を国全体にとってのチャンスと捉え、経済力強化を図り…」
「財源確保の考え方について、まずは歳出改革を行った上で、不足する財源について措置を検討していくべき。なお、財源の検討に当たっては、防衛力強化の受益が広く国民全体に及ぶことを踏まえ、それに要する費用は、国民全体で広く負担する形を目指すべき」→どこかに「個人所得の増税」とかも書いてあった


繰り返しになってしまうが……
「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」という会議名だが、《防衛力アップするためにはどうしたらよいか》という議論で、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の保有の妥当性の議論は全くなかった(反撃能力保有が大前提)
そういう会議なのに、岸田総理や政府・与党は「反撃能力の必要性」を提言されたとして、防衛増額の方針を決定してしまった。
(有識者会議がどういう会議だったかの説明は、『ロイター』「反撃能力の必要性など提言、財源は「国民負担も視野」 政府有識者会議」
ワールドカップサッカーの日本チームを応援するのも良いが、自民党の横暴さの事実をもっと報道すべきである。
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