昭和大橋を渡ると2車線の車道に出て長い直線を走る。
そのあたりは応援ポイントでもあるが嫁の姿は見当たらない。
今回はさらに飛脚以外のたくさんの人を応援するらしく、もうどこかに移動したのだろうか。
基本、移動応援は禁止。
山道のコースは狭くて車は完全に邪魔になる。
飛脚応援隊はコース上を車で通過することはなく、遠回りの大回りで現れる。
そして、単に知り合いとかだけではなくて、
目の前を通過するランナー全員を全力応援する初代応援隊長女子アベから引き継がれた自慢の応援隊だ。
そのアベもおそらく私のかなり前を颯爽と走っているに違いない・・。
長い直線のゆるやかな上り坂ではやはりふくらはぎが攣りつづける。
歩くと攣ることはないが、走ると上りでつま先が上がりロックする。
どうしたものかと歩いていたその時、14時間のぺーサーに抜かれた。
14時間はゴール関門の時間、こんなところでつかまってはゴールなど到底無理だ。
トンネルに辿り着いた。
トンネル内は涼しい。しかも下りになる。
下りでは全く攣ることもなく再び走り始める。
小野大橋を渡りかえして山道に戻る。
給水所では脚に掛け水をしてシューズも濡らす。
この水は役所の水道課やボランティアが前日真夜中に運んだ貴重な水、
やはり感謝の気持ちを忘れてはならない。
【40km】5時間21分21
フルマラソンなら完走ペースかもしれないが、ここではリタイアペース。
もう遅くても走り続けなければゴールは見えない。
42km地点、60kmの部との合流地点に嫁とセイシが現れた。
セイシ「遅い!100年待ったぞ!」
「うるさいわ!(笑)」
すぐに給水所。
「あ~、ゴールは無理やな~」「いつもの71.5kmを目指すか(笑)」
給水をとって走り出した背中越しにセイシのゲキが飛んだ・・・
【諦めるなーっ!!】
・・・そうだ、諦めたら終わりだ、そうだ、思い出した、
リタイアするときはいつも「諦めたとき」だった。
調子には波がある、
復活を信じて遅くても走り出す。
わずかな上りでも脚が攣るが下りではしっかり走る。
給水所で掛け続けた水のせいか足指にマメが出来たようで痛む。
足底、マメ、痛いところが増えて気持ちも折れる。
歩きが多くなるが何度も走り出す。
【50km】ここで半分。
ここからは毎回どういうわけか復活が現れる。
3km先は沈下橋で「そこまでは全部走る」という気持ちになるものだ。
復活。
歩くランナーをかわして進む。
歩くランナーの一人ひとりに「もう少しで沈下橋ですよ!頑張りましょう!」と声を掛ける。
「もう少し」の魔法はランナー達の脚を再び動かすものだ。
また、人に声を掛けておいて自分は歩けないというプライドも生まれ、
ついに完全復活で攣らない脚は躍動し、走れるようになった。
【53km】半家沈下橋。
この橋は往復、復路では自分の声で走りだしたランナーとすれ違いざまにハイタッチをしていった。
お互いに無言のエール交換である。
半家の沈下橋が終わると峰半家の峠に入る。
50km以上走った脚にこの峠は残酷だ。
もう全部歩くし、四万十川の写真なんか撮ったりする。
歩いてもキツい、なかなかな上り・・。
下りは急坂で足マメが激痛に変わる。
下りきると第2関門。
まだ20分以上あるじゃないか・・。
次の次の71.5kmの関門を20分残して通過出来ればゴールも出来るペースに戻せるのだが・・・。
「あら~?またこんな時間に?大丈夫~?」
いつものようにボランティアの知り合いキンちゃんの冷やかしが入る。
「いつも通りで順調極まりないでー!!」
あたりの笑いを誘う。
記念撮影。そんなことしてる場合でもないが・・
復活で使った脚はきっちりと疲労として返ってくる。
前をゆくランナーも歩く人が多くなり、給水所を出てからしばらくは歩いてしまう。
時計に目を移すと61km地点のレストステーション・カヌー館までの残り2kmは全く歩けない関門時間になった。
行かなくては・・、再度気力を振り絞ってノンストップランに挑戦する。
【60km】8時間38分28
遅くても走る、痛くても走る、歩きたくなっても走る、とにかく走る!
このマラソンはメンタル、
何とか関門3分前に通過出来た。
レストステーション、スタート地点で預けた荷物が一度受け取ることが出来る。
荷物の中から栄養ドリンクを取り出し、急いで飲んで再出発する。
いやもう厳しい。
次の71.5kmの関門にはかかるだろう。
これまでの最低記録はそこの関門、何としてもそこだけは辿り着かなくては・・。
地元民として土地勘がある。
その土地勘があるために、その距離がどれだけ遠いかまで分かってしまう。
西土佐の赤い橋が見えてきた。
去年からこの橋を往復するコースとなった。
下を流れる四万十川は県外ランナーの癒しとなるだろう。
近頃、この橋を車で渡ることはなくなった。
新しく長いトンネルが抜けて、車のほとんどはそのトンネルを通るようになった。
そのトンネルの横の旧道のくねくね道、そこをランナーは走る。
民家もなく、川沿いの樹々で覆われた道は音が消えて静寂だ。
陽は傾き、影は長く伸びる。
今回で最後と決めた100kmの道程は思ったよりも長い。
「もうだめだ」
精も根も尽き果て、ついに下を向いてダラダラと歩き始める。
時折吹く強い風が足元の落ち葉を払い、汗で濡れたシャツは冷たくさえ感じる。
前後にランナーの姿は見えず、閑散とした山道の風景は寂しくて何だか切ない。
そんな時、風に乗って声が運ばれてきた。
「頑張ってー!」
姿は見えないが、どうやら女性の声だ。
いやもう頑張れない、暑さで攣り続けた脚は棒のようで思うようには動かない。
「頑張ってー!」
遠くに、豆のように小さいが、明らかに自分に向かって大きく手を振る女性がいる。
あの人は自分が歩いている限り応援をやめないのだろうか・・・、
「頑張ってー!」
これはもう・・・「頑張らなくては・・」。
もう一度走ろうとするが、硬くなった脚は痛くて悲鳴を上げる。
それでも脚を交互に進めて、とにかく動き続ける、
腕を振り、呼吸を整え、リズムを刻み、とにかくそれを続ける。
「頑張ってー!」
頑張れる、頑張れる。
固まった筋肉は徐々に躍動しはじめ、何とか走れるようになる。
折れたのはメンタルで、身体なんてどうにか動くものだ。
飛び跳ねながら応援してくれる女性の姿が次第に大きくなり涙がこぼれそうになる。
「頑張ってー!!」
言葉は言霊となり胸に響いて躍りだす。
ついに復活して、走り続けて女性のもとまでたどり着いた。
「あなたのおかげで走れるようになりました!ありがとうございます!」
頭を下げた後、再び走り始めた。
頭を上げてみると見える景色も随分変わる。
風に吹かれたコスモスが揺れ、横を流れる四万十川は雄大で癒しの風景だ。
随分歩いたせいで、次の関門はくぐれないだろう。
せめて二つ目の沈下橋は走って渡りたいものだ。
長い直線を頑張ると岩間の沈下橋が見え始めた。
1km少し先にある関門は閉鎖されているはずだが、
大丈夫、まだ走らせてもらえる・・。
岩間の沈下橋のたもとの給水エイドが近づいてきた。
片づけも始まっているようで黄色いスタッフジャンパーを着たボランティアが慌ただしく動いている様子がうかがえる。
そんな中、おそらく最後だと思われるランナーの私が走って近づいてきたことで片付けの手が止まったようだ。
スタッフ全員による大きな拍手と大きな声援が起こりはじめ、ねぎらいのシャワーを受ける。
「よく頑張ってここまで走ってきたね!」
その言い回しで次の関門が閉じたことを確信する。
そんな事よりも「よく頑張ったね」という毛布に包まれたような温かい言葉にグッときて涙がこぼれる。
「ありがとうございます」
岩間の沈下橋は、収容バスに追いかけられながらの貴重な経験となった(笑)。
ひたすら逃げるが、間もなくバスに追いつかれ収容される。
結果、70kmでリタイアとなった。
バスの中は、私がついさっきまで抜いていったランナー達が皆収容されていた。
すぐに71.5kmの関門所で降ろされた。
私の最後の100kmマラソンはこうして終わった。
乗り換えたリタイアバスでは落ち込むことなどなく、清々しい気持ちだった。
横に座った大阪の若者ランナーと談笑し笑いながらバスに揺られた。
ゴール地点で降ろされた後は体育館で荷物を受け取り、仲間の応援に精を出す。
そこに現れたミニオン応援隊キク・マユのコンビと記念撮影。
M君ゴール!アベは2年連続のゴール!S君は途中手の震えなどの脱水症状で棄権、
60kmの部に参加していたS君奥さんは途中嘔吐により棄権、
長い100kmの一日は、それぞれのランナーにそれぞれの事が起こる。
完走の喜び、リタイアの無念、頑張った分だけ様々な出来事がのちにかけがえのないエピローグになる。
午後7時半、ゴール関門が閉まり花火が打ち上がった。
最後まで会場にいた仲間たちと記念撮影。
私の100kmマラソンはここで終了。
これまでこのブログで「敢闘記」「奮闘記」「完走記」など様々な記録を書いてきたが、
一つだけ断言することがある。
私が愛してやまないこの四万十川ウルトラマラソンは「美しい癒しの風景」と「温かい応援」にあると言っても過言ではない。
ウルトラを通じて知り合った皆様や、大会にまつわる全ての人達に感謝して終わろうと思います。
「ありがとうございました!」
次は60kmの部を走ってみる・・とか、60歳になるときにもう一度だけ100km挑戦してみる・・とか、
いろんな事を言われたり言ってみたりしますが、どうなることやら・・・。
とりあえず同級生3人(セイシ・アベ・私)で打ち上げの宴。
アベ「ほら、アンタのブログ用に乾杯の写真撮らないと・・」
セイシ「しかし、お前が一番根性がないわ!」
ワイ「エントリーも出来てないような奴に言われたくもないわい!(笑)」
「お疲れさま!乾杯ーー!!」
【完】