「おい起きろ!山へ行くぞ!」
目覚めの悪い高3の長男を揺り起こし、車で出発。
行き先は鬼ヶ城山系の奥、初めて行く「目黒鳥屋」(めぐろとや)。
「なんで山なんかに行かないかんのや・・」
「うるさい!これでも食っとけ!」
車の中でブツブツと文句を言う息子を菓子で黙らせる。
2年前は長女を連れて山に入った。
親子の山登りは我が家からの卒業旅行なのだ。(※親父が勝手にそうしているだけ・・)
ほとんどを車で上り、そこから山の尾根を3つ4つと縦走する。
山の入り口は一番易しいスーパー林道のそば。
息子は親父のトレーニングウエアを着せられて不格好。
初めて見たヤマドリに興奮する息子。
「メッチャでかい!」「メッチャきれい!」「スゲーっ!」
「え?いきなりあの階段?」
何もかもが新鮮らしい。
子どもの頃は海に川に里山にと随分連れまわったが、
歳を重ねるごとに友達と遊ぶことが優先になり、親にはついてこなくなった。
父と二人だけで出掛けるのはいったい何時以来なのだろう・・。
すぐに猪のコルに到着。
もうすでに景色に圧倒されている息子。
少し楽しくなってきたようだ。
体力に心配のない男2人、どんどんと先に進む。
大久保山に到着。
「うわーっ」
スマホで360度パノラマ撮影を無邪気に楽しんでいる。
「今日はあの右端の山まで行くぞ!」
「ウソやろ・・」
「いやホンマ」
先を急ぐ。
八面山(やつづらやま)を越えて、ブナ林に入る。
ササとブナの風景はいつも素晴らしい。
これまでの事、これからの事、
家では生返事だけの息子だが、こういう場所ではちゃんと聞いてくれて、
自分の思いもちゃんと口にする。
大自然の中では親子の会話が素直に出来る。
風が避けれる広場でおにぎりを食べる。
「ウマい」「ウマい」とコンビニおにぎりにむしゃぶりつく姿が何だかうれしい。
「旨いか・・、姉ちゃんと来た時は大変なコースから入ってメシどころじゃなかったぞ(笑)」
先に進む。
熊のコルに到着。
ここからは初めてのコースに入る。
枯れ葉と苔岩で本来のコースが分かりづらい。
足元には霜柱。
案の定、本来のコースからそれてしまい、見晴らしのいい山頂を目指す。
野生のカンは息子のほうにあるようで、言うとおりに進むとコースに戻ることができた。
アドベンチャーを楽しむ息子。
「ん?何か野生動物のにおいがする」
やはり感性は息子の方が強いようで、目の前に現れた4頭の鹿があわてて逃げた・・。
ひときわ景色が広がり、苔ロードを進む。
串が森に到着。
あと少し・・
さすが高校生、息が切れるのは親父のほう。
前日に28km走っていることを言い訳に、息子に先を譲る。
「ウォーーッ!!スゲーーッ!!」
先に到着した息子が叫んだ。
目黒鳥屋に到着。
雲ひとつない素晴らしい景観。
「ホントにすごい」
親父もつぶやく。
感動・・。
記念撮影。
子供の頃、重たそうなランドセル背負って家を出たものの、なかなか学校に辿り着かなかった息子。
決してサボっていた訳でもなく、彼なりの理由がちゃんとあった。
(トンボのヤゴが今まさにトンボになろうとする瞬間を見入っていた)
(溝の隙間につま先が挟まって動けなくなっていた)←ホントらしい・・
(口笛で呼び出すことが出来る露地猫をさらになつかせようとしていた)
(喫茶店のおばさんにつかまって庭の花がもうすぐ咲くことを聞かされ続けた)
かつて「よりみち王子」と名付けられた息子は、この春から地元で社会人。
うまく伝わらないかもしれないが、今回の山登りは親父からの「がんばれ」のエールなのである。
親父と二人でのこの卒業旅行を心の中のどこかにそっと残しておいてほしい。
親父と息子が通った中村高校はこの春センバツ出場を決めた。
後輩たちが大舞台で頑張っているその頃、息子は新人研修に入る。
社会人は辛くて逃げ出したいことのほうが多くなるが・・・、「がんばれよ」。
「おい、帰りはお前の運転で帰るか・・」
「えっ!?」(免許取りたてホヤホヤ)
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きっと、何年か経った後に「そう言えば、あの山登り楽しかったな~」って、子どもさんは思い出してくれると思います
良い伝統行事ですね
何処の親も子離れは難しいものですが、
子の方は思春期あたりから必死になって親から離れようともがきます。
そんな流れに身を任せて最近は少し距離を置いてみたりしたもんです。
この山登りは、実は親の方の卒業旅行なのかもしれません。
今回はコメントまで真面目モードでスミマセン(笑)。