■ 後半 ■
昭和大橋を渡り、2車線の車道へ向かう。
応援バスツアーの応援ポイントでもあり、応援がアツい。
しかしこの直線道、ほんの少しだけ上っている。
こんな上りでもふくらはぎは痛み続ける。
小野大橋を渡りかえして元の旧道に戻る。
エイドで脚に掛け水をする。
右足ふくらはぎをかばい続けたのか、左足太ももがアツい。
まるで掛け水が太ももの上で蒸発しているよう・・。
40km地点通過。
ここまで自分でもよくやったと思うが、次の目標はすぐそこ・・。
42.195km地点通過。
フルマラソンを走り切った!うれしい・・。
その先には2回目の給食エイド。
このエイドは60kmの部との合流地点。
AM10:00に出発した60kmの部の息子はちゃんとスタートしたのだろうか・・。
給食エイドのおにぎりは売り切れ。
・・そんなに遅いのか・・。
とりあえずそこにあるものを・・、小さなアンパンを2つ食べる。
次の目標は53kmの沈下橋。
ここで我慢していた痛み止めを飲む。
完走は無理だが、こうなったら行けるところまで行ってみたい。
歩きながら痛み止めが効くのを待つ。
2km歩いたところで痛みが少なくなり、ついに走り始める。
痛みがやわらぐと脚が進み、腕が振れ始め、呼吸はリズムを刻む。
「走る」という復活がとてもうれしい。
歩くランナーに「頑張りましょう!」「ファイト!」と声を掛ける。
その掛け声で再び走り始めるランナーもいる。
本当にウルトラはメンタルとの闘いだ。
前を走るランナーの姿に励まされ、ランナーの声に勇気をもらい、
ボランティアスタッフの声援、温かい沿道の声援、美しい景色の癒し、
それらの何かがきっかけとなり、何回も何十回も頑張れる。
沈下橋までの9kmは声を掛け続けノンストップだった。
53km地点半家(はげ)沈下橋。
この沈下橋は往復。
コースの中で一番四万十川に触れあえる。
沈下橋を走るのは楽しい。
沈下橋を渡ると2回目の峠を登る。
最初の堂ヶ森に比べるとほんの小さな峠だが、50km以上走った脚にはキツイ。
上りはすべて歩いて下りで走り出す。
下りきったところで応援の看板に「飛脚」の文字を見つけて近づいてみた。
高知市内のランニングクラブに所属している飛脚部員に頼まれたのだろう・・
見ず知らずの方々だが、応援は素直に嬉しい。
よく見ると看板に息子の名前もある。
息子はこの応援隊にちゃんとお礼を言っただろうか・・。
56km、第二関門、
約15分前に通過する。
「アレ~、こんなところギリギリで通過して大丈夫~!?」
毎度の事、知り合いボランティアに冷やかされる。
脚が動く間は先に進む。
やはり歩くランナーに声を掛け続ける。
60km地点通過。
もうすぐレストステーションのカヌー館。
近くにいるランナーに声を掛ける。
「やっとカヌー館ですね~」
すると緑色のTシャツの青年からすぐさま、
「ブログみてますよ!」と思わぬ返事が返ってきた。
「えっ、ありがとうございます!」
ブログで四万十ウルトラを書いてきて、今回初めて声を掛けて頂いた。
背中の飛脚を見て声を掛けてくれたのだろうか・・、こんな嬉しいことはない。
しかしその岡山の青年は雨具を装備せずにここまで来たらしく、
冷えてしまってカヌー館で止めるのだそうだ・・。
冷たい雨は降り続き、ビニールをかぶって走っても冷えてくる。
今回は体の冷えでリタイアするランナーも多いのかもしれない。
61km地点、第3関門カヌー館。
関門10分前に通過。
カヌー館は3度目の給食エイド、そしてスタートで預けた荷物が一度受け取れる。
西土佐高校の生徒たちが手際よく荷物を手渡してくれた。
「おい、遅いんじゃない?大丈夫?」
ボランティアスタッフに知り合いの学校の先生がいた。
娘が中学のソフトテニスで活躍していた時の保護者繋がりでもある。
(当時ペア・団体と県予選を勝ち上がり全国大会へ出場・・でしたが、東北の震災が重なり大会は自粛)
「いや~、脚が・・ちょっと無理でしたね・笑」
「そういえば、息子はとっくに行ったで~!」
「えー!ホンマですか!」
・・忘れてた、息子はまだ走っている。
エイドでのおにぎり、味噌汁、自分で用意しておいた栄養ドリンク、
慌ただしく摂取し、荷物を再び預けて出発する。
再び出発するランナーが少なくなり、一人ひとり、大きな声援で送り出される。
次の関門は10km先、そこをくぐるのはもうかなり厳しい。
とにかく脚が動くうちは走る。
カヌー館からの40kmは毎年試走で走っているので土地勘も十分ある。
が、知っているが為にその遠さも分かってしまう。
苦しい・・。
エイドで「キロ8分切れば次の関門くぐれるよ」と言われた。
ひたすら下を向いてピッチを刻む・・。
「イケるかもしれない・・」
68km地点、岩間沈下橋。
沈下橋を渡ると少し上り坂に・・、
「痛い・・」
痛みが復活。
走れない・・、痛い・・、
「どうしたのその足?」
ボランティアスタッフのおじさんに声を掛けられた。
本人は気付いていなかったが、痛いふくらはぎの右足つま先が外を向いていて、
変な歩き方をしているらしい・・。
くそ~、もうさすがにどうにもならない・・。
70km地点通過。
「お~い、梨あるぞー!食うていけー!」
私設エイドのおじさんやおばさんが手招きで誘う。
ここは四万十ウルトラの伝説の梨エイド。
「ありがとうございます!ここを目指して頑張ってきましたよー!!」
「ワシらもお前を待ちよったぞーっ!」
知らない他人同士だが調子のいい爺さんの返答にドッと笑いが起こる。
「う~~旨いっ!!」
美味しい梨に勇気をもらい走り始める。
芽用(かよう)大橋。
この橋を渡り終えると関門所。
もう関門は閉まっているはず。
そこで終われると思うと元気が出て走れるものだ・・。
橋の途中でバスのエンジン音が聞こえた。
リタイアバスがエンジンをかけているに違いない。
71.5km、芽用大橋、第4関門。
6分前に閉鎖で競技終了。
「おい、ダメやったか」
そう声を掛けてくる審判員はまたまた知り合いで、長男の中学野球部保護者繋がりでもある。
「息子は行った?」
「いや~気づかなかったけど・・」
ヤツはちゃんと頑張っているのだろうか・・
レーシングチップをはずしてリタイアバスに乗り込む。
左側の座席は、バス出発後に車窓下に前方の頑張るランナーを見ることになる。
今回は右側に座る。
思えば、3kmで止めてしまったかもしれなかったがよくぞここまで粘れたものだ。
これまで9回出場した中で一番早いリタイア地点がこの71.5km。
何とかそこまで辿り着けた。
この脚の状態でここまでこれたのは、これはこれで頑張ったとも言える。
悔しいのは大会前の故障であり、今回のランではない。
痛みが多かったが、70kmも楽しめたのだ。
バスは満員になり出発する。
外が冷えているのか、窓ガラスが曇る。
掌で拭いて外を眺める。
川登地区で飛脚応援隊に見つかり、みんなに指をさされる。
応援隊の笑顔に救われる。
バスはゴール地点の中村高校の堤防上に到着する。
中村高校は私と長女・長男の母校でもある。
春は野球部がセンバツ出場で大いに盛り上がった。
バスを降りるときにタオルを渡される。
リタイアした人にしか貰えないリタイアタオル。
地元ロータリークラブからの粋なプレゼントなのである。
リタイアランナーにとって最後の難関は階段の下り。
最後の試練・・
まっすぐ下りられない・・
ゴール会場はとても賑やか。
スタッフには知り合いも多く、逃げるように体育館に着替えに向かう。
雨に打たれた体は冷えて、着替えるだけで暖かさが蘇る。
着替えた後はゴール地点付近でランナーに声援を送る。
降り続く雨はとうとう止まなかった。
嫁にリタイアを知らせる。
研修の合間にwebで20km毎の通過タイムを確認していたらしく、驚きはない様子。
それどころか、何と息子がまだ走っているらしい。
これは驚き・・、
たったの一回の練習で60kmも走れるのだろうか・・。
何事もすぐに投げ出しがちなあの長男が、今も必死に頑張っている。
次男がゴール会場に駆け付けた。
次男は隣町の高校で野球部のキャプテン。
思春期で人目を気にしがちで「ゴール会場には行かない」と言っていたが、
兄の思わぬ頑張りに心が動いたのだろうか・・。
「さっき本人に電話したらあと5kmって・・」
実は昨夜、眠りが浅かったのか夢を見た。
長男はまだ幼児で、右手の親指が口の中に入っていた。
何かが気になり、咥えていた指を口から放して笑顔でそこに向かったが、
結局指を咥えて帰ってきてぴったりとくっついたまま様子を伺っていた。
短い夢だったが、その覚えのある確かな幼児の温もりを懐かしく感じた。
「ゼッケン○○番!高知県の○○さん!お帰りなさ~い!!」
マイクアナウンスで叫ばれた息子がオーロラビジョンに映る。
短い髪の毛はグシャグシャに濡れ、ぬかるんだ足元を進みながら、息子は帰ってきた。
「○○ーーっ!!」
父の叫びに気付き、近寄ってきて父と弟にハイタッチ。
そのまま歓喜のゴール!
いやもう、まさかまさかのサプライズ!
「何と、アイツ、帰ってきやがった!・・」
感動で目元がウルウルになった。
父と子供達で記念撮影。
今回初めての親子挑戦。
結局、父のほうがリタイアで、息子はちゃんとゴールした。
前々日、「アンタは60km完走したお母さんがどんなにスゴイか、思い知ることになるで~」
と豪語していた嫁の去年のタイムよりも速いタイムのゴールだった。
父「四万十ウルトラ、どうやった?」
長男「う~~ん・・、かなり疲れたけど・・、何回もやめようと思ったけど・・」
【おもしろかった!】
四万十川ウルトラマラソン、
一人では「ダメだ」と思っていても周りの力で頑張れる。
頑張った分だけその先に進むことが出来る。
簡単に諦めない気持ち、くじけてもそこから立ち上がる勇気、
この素晴らしい大会は必ず人をひと回り成長させてくれる。
PM7:30、
ゴール関門ギリギリに駆け込んできたランナーは、ゴール付近で倒れてしまい、
ゴールテープの前に立つ審判員の足元で無念の競技終了を迎えてしまった。
会場がまだ騒然とする中、花火が打ち上げられた。
競技は終了だが、まだ走ってゴールに向かうランナー達がいることを知っている。
時間外完走を目指して最後の脚を動かしている。
私は2度も時間外完走を経験しているからだ。
大きな音で打ち上げ花火が上がる中、ポツポツと帰ってくるランナーに声を掛ける。
「ナイスラン!」
本当の最終ランナーを見届けて会場を後にする。
チームとしての結果、もうひと組の100km初挑戦飛脚親子は速いタイムで無事ゴール。
他数名も完走したが、
60kmを2度目の挑戦の飛脚女性はゴール地点に現れなかった。
彼女は2年連続の最終関門リタイア。
しばらくは悔しいだろうが、笑い飛ばしてまた挑戦してほしいものだ。
研修先からギリギリ駆け付けた嫁の車で家路に向かう。
家族「とにかく・・腹がへったーー!!(笑)」
さて、
私ですが、次回はとうとう10回目の出走ということで、なるべく走るつもりです。
完走メダルは2個しかもらっていないダメランナーですが、温かく見守ってやってください(^^)。
完走されたみなさん、惜しくもリタイアされたみなさん、ボランティアスタッフ、沿道応援のみなさん、
webで応援してくれたみなさん、大会に携わるすべてのみなさん、
一日中の雨にもかかわらず、「ありがとうございました!」
そして「みなさんお疲れ様でした!」
■ 完 ■
~あとがき~
今回も長々と長文失礼しました。
誰かの何かに役に立てば・・との思いです。
レポートというよりも私的な日記にお付き合い頂き、ありがとうございました。(^^)
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ホント、マラソンのレースって一つの物語ができるくらい、いろんなことがありますね。それにレースに至るまでの過程でも一つの物語出来ますよね。
故障をじっくり直して、また綺麗な四万十川の記事を上げてほしいデス。
それにしても息子さん、凄いです。
まずは長文お付き合い頂きましてありがとうございます。
私は年間のレースがコレ一本なんでどうしても思い入れが強くなりがちです。
今回「親子挑戦」の副題に「父の言い訳」があります(笑)。
私的な部分も多く、何がどう伝わるのか恐い部分もあるのですが、
結果「いい物語」と言って頂いてうれしい限りです。
ありがとうございます。
故障箇所はしばらくラン休めば直りそうで、仕事には差し支えありません。
来月くらいには、今回の残り30kmの宿題ランをやりたいところですが・・、まあゆっくり休みます。
息子が今回体験したことは大きな財産となるように思います。
父が勝手に始めたウルトラマラソンですが、
何の運命か家族が関わるようになりました。
私は次回の10回目の100km挑戦をひとつの区切りにしようと考えているので、
次回は嫁も含めて家族で走れれば・・とひそかに夢見ています(笑)。
これから春までは野に山に川にと従来の平凡なブログに戻りますが、
またテキトーに覗いてやってください。(^^)
息子さんも含め、お2人の素晴らしいラン、十分に伝わってきました!
本当にお疲れ様でした!
私事ですが、走っている途中で痛めた足背部は、肉離れで全治2ヶ月の診断を受けてしまいました…腱断裂してなかっただけマシか…と思いつつ走れない自分に苛立つ日々…
でも、四万十川ウルトラマラソンでやりきった事は後悔していません!本当に楽しかったです!
2月のフルマラソン2本をどうにか走れる様に地味〜に走る事以外のリハビリを継続していきます!
来年も出走の機会を頂けたら、次はケガせずに記録狙っていきます!
いつも通りかなり私的で、マラソンと関係のない話も多いのですが、
そこはもう・・・好き勝手やっています!(笑)。
息子には驚かされました。
昨年ゴールした19歳ランナー2人は「もう絶対に嫌だ!」とぼやいていましたが、
息子の「おもしろかった」という返事に親として満足しております。
kiさん、やはり大怪我ですね~、
「プチン」が断裂でなくて何よりです。
しかし・・肉離れで残り20kmをやりきりましたか~、恐るべし精神力!
肉離れですが、経験からいうと同じ箇所を故障しがちです。
焦る気持もそこそこに、やはりしっかり完治させたいところですね。
次回の四万十、当選されたら是非とも「記録」狙ってください!
知り合いとして周りに自慢しまくりますよ!(笑)
とりあえず、2月のフル、調整頑張ってください。
応援してますよ(^^)/
とても、読み応えのある「物語」でした
簡単にコメントするのもはばかられる位、何だか色々なストーリーが混ざりあって、ウルトラマラソンが成り立っているのだと思いました😄
やはり、マラソンって独りじゃないですね
たくさんの人に支えられて、走らせてもらっていると再確認
それにしても、痛みに耐えてよく走られたと思います❗最初の3キロで、歩きたい、逆戻りして家まで帰りたい・・・でも、歩いてるランナーはいない・・・走るしか道はない
うっ~😢、自分に置き換えると、泣きたいくらい辛い状況ですね
エルソルさんの精神力が前へ前へと向かわせたのでしょうね
本当に本当にお疲れ様でした
何だかマジメコメントになりましたが(笑)、エルソルさんのblogを読んで、ハッキリ分かりました❗
「私にはウルトラは無理~😅😅😅」
100歩譲ってもし挑戦するなら、この「へなちょこ精神」を鍛え直さねば(笑)
(いつもはもっと長いんです・・)
四万十ウルトラの良さが少しでも伝われば幸いかな。
「痛み」ですが、
練習だったらとっくに止めていましたね(笑)。
まだ峠の前だったんで進むのに結構勇気いりましたよ~。
約10年前に勝手に走り出したウルトラマラソンですが、
その後、色んな人を巻き込んで新たな挑戦ランナーを生み、応援隊まで結成したり・・・、
そんな関係で、いとも簡単に投げ出すワケにはいかなくなったのも前に進めた理由でもありますね。
まーさん、
大丈夫、まーさんなら間違いなくウルトラいけるよ。
いつか挑戦してみてください(^^)/
マジメコメントありがとう~
実は私にも今年大学生になった長男と高校3年の次男、女子高生なった娘がおり、マラソンタイムや年格好、家族構成といろいろ近しく感じ、すごくエルソルさんに親近感(自分勝手に…)を持っております。
痛む脚で70km以上走破されたのには脱帽です!それから息子さんの初ウルトラ完走おめでとうございました!今頃ではありますが本当にお疲れ様でした。
今年も運良く抽選に当たれば、四万十川ウルトラに参加したいと思っております!その時は雨具も準備万端で臨みますね笑笑
長文ダラダラすみません、最後にこれからもエルソルさんのブログ楽しみに読ませていただきます、お身体とご家族を大切にマラソン頑張って下さい。
同世代でしたか・・、私はまだまだ青年のつもりでいるので「青年」で行きましょう~(笑)。
(歳は同じですが、私は今年51になりますので、学年は一つ上になりますね)
さて、私の娘は岡山倉敷の大学を来春に卒業予定です。
家に大学生を抱えていると家計はホント大変ですよね~、
お互い頑張りましょうね(笑)。
四万十ウルトラですが、
私も一応エントリーしております。
今回は岩間沈下橋(コースでは二つ目)が崩落しているので、少しだけコース変更があるようですよ。
無事抽選をクリアして楽しめるといいですね。
そうそう、雨具は忘れずに(笑)。
ブログは好き勝手にやってます。
暇な時にでもたま~にのぞいてやってくださいm(__)m。
コメントありがとうございました。