■2■
翌日受験当日、
少し早めにホテルを出ました。
『関西美容理容難波専門学校』は7階建の大きなビルでした。
試験内容は「学科試験」と「面接」のみです。
「学科試験」のある5階教室まで階段で上りました。
壁3面がガラス張りという明るい教室で試験は行われました。
始まるまではとても緊張しました。
試験科目の「一般常識」は大阪に来る汽車の中で勉強しただけで、
まるで見当のつかないものでした。
大阪の親戚美容師おばさんの、
「大丈夫、大丈夫、名前さえ書いとけば絶対受かるから」
という言葉にすがるしかありませんでした。
受付を済ませ「来た者順」で席に着いたのですが、
目の前に座っている学ラン姿の『小さな丸坊主君』は、
どう見ても中学生・・
「ん??、中学生も一緒に受験?」
「そういや~専攻に高等課程(中卒)・専門課程(高卒)ってあったな」
「でもまさか同じテスト用紙じゃないだろう・・」
列の前からタスキリレーで試験用紙が配られ、
最後尾に座っていた僕は「丸坊主君」に用紙を渡されました。
「え?試験用紙、中卒と同じ?」
とりあえず用紙に目を通すと、
「1+1+(-1)=」とか「リトマス試験紙」とか、「一般常識」というよりも・・・
「ひょっとして試験会場間違えたか?」
と思いキョロキョロしていると、やはり他の人達もソワソワしていて、
それを察知した男性教官が、
「ひとつ申し上げておきますが、」
「高等課程、専門課程、同じ試験用紙です!」
「繰り返します・・」
と見るからに神経質そうな顔で言いました。
「学科試験」は楽勝でした。
「面接」は別の教室で行われました。
扉の前は狭い階段の踊り場になっていて、並べられた椅子に座り順番を待ちました。
ベージュ色に塗られた頑丈そうな鉄の扉は威圧感たっぷりでした。
「次の方どうぞ」
高校で習った面接マニュアルに従い、真剣に望みました。
「ノックは2回」
「どうぞ、と言われるまでドアを開けてはならない」
「ドアを開けて浅いおじぎ」
「ドアを閉めて浅いおじぎ」
「どうぞお掛けください、の声で椅子を軽く引き、」
「左手より入り浅く腰を掛け、背筋を伸ばす」
しかし、2人の面接官の思いもよらぬ言葉がその緊張感を台無しにしました。
「上田君は遠方から来られているので先に申し上げますが・・・」
「合格です!」
「あとで制服のサイズを測って帰ってください」
度肝を抜かれている僕を尻目に履歴書に目を通し、続けて
「高知からですか・・ウチには寮が無いんですがどうされます?」
『少し大柄なジャンボ鶴田似』が聞いてきました。
「中村高校といえば、あのセンバツ準優勝山沖投手の?」
学科試験会場にいた『7:3分けの神経質顔』がそこで初めて聞いてきました。
中村高校ブランド「山沖投手」が出てきた事に気を許し、
面接というより雑談といった感じで和やかに進みました。
制服(ブレザー)のサイズ合わせをして、受験が無事終了しました。
早速1階にあるピンクの公衆電話でオフクロに電話しました。
「今終わった、合格って言われたけどホンマやろか?」
学校に寮が無いのでアパート暮しになりました。
初めて親元から離れて、念願の1人暮しです。
アパートは親戚の警官のオッチャンが探してくれました。
(親戚の美容師おばさんと夫婦)
難波大阪球場のすぐ横から南に向かう「南海電車」、
「南海電車」は車体全体がモスグリーンで、青虫のようでした。
急行で行くと、難波~新今宮~堺~羽衣~となり、終点は和歌山です。
急行で3つ目の駅が新しく住むことになる「羽衣」です。
難波を出発した南海電車は「通天閣」を近くに眺めながら、
わずか5分で「新今宮駅」に到着します。
「新今宮駅」から見える風景は、浮浪者などが路上で寝ていたりして、
華やかな難波の裏側を見るような感じでした。
南海電車はしばらく高架上を走るので、
電車の中からはその様子を見下ろすことになります。
「わずか5分でこうも違うものか・・」
電車は少しの間危険な匂いのする西成区を通過します。
「住吉大社」のある住吉区、「南港」のある住之江区、
日本一汚い河川「大和川」を越えると「堺駅」に到着します。
堺駅から見える景色は海が近いことを感じさせてくれます。
「臨海工業地帯」の工場群が遠くに要塞の様にそびえ立ち、
幾つもある大きな煙突からは煙がもうもうと空に上っています。
堺を過ぎると電車は高架を下り、住宅街を走ります。
「羽衣」(高石市)はそんな住宅街にありました。
短大もあり、駅前も結構賑やかで、
「ロッテリア」「西友スーパー」などに人が集まっていました。
駅前はロータリーになっていて、
タクシーが停まっていたりラーメン屋台があったりします。
羽衣商店街という昔ながらの通りを歩くこと5分、
ビュンビュンと車の走る国道26号線を渡ります。
4車線の車道は田舎の中村には無く、横断歩道さえも長く感じます。
信号が青になると「カッコー、カッコー」とうるさい音がします。
大通りを渡るとそのまま脇道を直進します。
もう目の前には大きな「浜寺公園」が見えています。
その途中、建物と建物の間の細い路地を曲がります。
細い路地は自転車が1台止まってあると行き来が不便になるくらいです。
その狭い路地の突き当たりがこれから住むことになるアパートです。
「梶丸文化2階中」
住所の文字通り、
2階建ての文化住宅(全6世帯)の2階の真ん中が僕の部屋です。
2階に向かう赤い階段を上りました。
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南海電車
通天閣
堺臨海工業地帯
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