■20■
難波高島屋からスクランブル交差点を渡り、千日前アーケードに入る。
最初の角を右に曲がると「なんば花月」があるが、左に曲がる。
左手には映画館、右手には「大劇」という複合レジャービルを横目に歩く。
「プランタン」というデパートを越えると車通り。
高速道路の高架下の長~い横断歩道を渡ると再びアーケードに入る。
そこらへんは「千日前」と呼ばれる非常に大阪色の強い街です。
全く売れそうにない服屋には乱雑に服が並べられ、
趣味の悪い原色のジャケットが壁いっぱいに掛けられ、
暇をもてあました店員が店の前を横切る人達に視線を送っています。
全く出そうにないパチンコ屋は、音だけが賑やかに響きわたり、
たいして美味しそうにない「喫茶アメリカン」はゴージャスな店構えが目立ちます。
その喫茶の向かいの路地を入り、古い散髪屋の前で立ち止まります。
古い散髪屋の狭い店内はお客さんがいっぱいで、お婆さん一人が慌しく動き回っていました。
散髪屋のドアを開けると「キィ~」と音がしました。
上田「すみません・・、あの、タマイさんっておられますか?」
(手にしたメモの地図ではここのはずだが・・)
お婆「あんた誰やねん!?」
上田「あ、関美のウエタと申しますが・・あの・・おばさん・・いや・・」
お婆「あ~、娘に用事かいな、ちょっと待ち」
少し待つと奥から玉居オバサンが出てきました。
玉居「ああ、上田君、早速来てくれたん?」
「ちょっと子供にご飯食べさしてるから・・」
「そこのアメリカンでお茶してて~、後でいくから・・」
玉居さんの実家は散髪屋でした。
玉居さんの母は、「散髪屋さん役」で吉本新喜劇の舞台に立ったこともある有名人でした。
玉居母は毛剃りがとても上手いらしく、毛剃りのためだけに多くのお客さんがやってくるのだそうです。
「喫茶アメリカン」の店内はとてもゴージャスで、鏡張りで、
昔のダンスホールを連想させるようなシャンデリアがあったりしました。
クッションの効いたソファーに腰を下ろし、店名のままアメリカンを注文しました。
運ばれてきたアメリカンコーヒーは意外に美味しく、いや、すごく美味しいコーヒーでした。
「・・・(この喫茶店はアタリや)」
入り口に駆け込んできた玉居さんがレジのオバサンに呼びとめられて、
何やらヒソヒソと話し掛けられていました。
玉居「いや~、そんなんちゃうよ~、かなわんな~」
他のお客さんにも話し掛けられている玉居さんは、ここら界隈では人気者のようです。
玉居「ゴメンな~、やっと手ェが空いたワ」
上田「玉居さん、ここのコーヒー、メチャウマですね~」
玉居「そうやろ、私毎日くるんやで」
玉居さんに運ばれてきたのは甘そうなチョコレートパフェでした。
パフェにはスプーンが2本突き刺さっていました。
玉居「これイタズラやで、ワザトにやってあんねん」
「ゴメンな上田君」
上田「いやいや、そんなんどうでもいいですワ」
「なんやったらそのスプーンで一緒に食べましょか?」
玉居「アカンアカン、そんなんしたらこの辺ではすぐに噂になるワ~」
「今でもいろんなところで視線感じてるのに・・」
辺りを見回すと壁の鏡越しにたくさんの視線を感じました。
「未亡人玉居さんに若いツバメ」
何かを期待されているような興味津々な空気が重たく張り詰めていました。
上田「後で婆さんの毛剃り見学させてもらえそうですか?」
玉居「大丈夫やと思うで~、母さんのことやから働かされるかもな~」
上田「えーっ、無理無理」
玉居「ハハハハ」
「そうそう、今度のお別れ会は人数何人位になった?」
上田「ほぼ全員出席になりそうですワ」
玉居「さすが上田君やなぁ~」
「アタシが声掛けると嫌がる子がおるもんなぁ~」
上田「いやいや、そんなこともないでしょうけど・・」
玉居「ほな、後は先生方やな、アタシが声掛けとくワ」
上田「いや~しかし、あの連中が集まるとは信じられませんね」
玉居「そんなモンやって、誰だって別れは寂しいモンよ・・」
「場所は味園でいいよね」
上田「え?高いんちゃいます?」
玉居「アタシ知り合いやから任しとき」
「だてに歳とってへんで~、ハハハハ」
笑うとやはりピンクの歯茎が目立ちました。
パフェを食べ終わった玉居さんは先にお店に戻りました。
僕は玉居さんの配慮で運ばれてきた2杯目のコーヒーをゆっくりと味わいました。
お店を出る時にレジのオバサンに聞かれました、
「兄ちゃん、ケー子ちゃんとはどんな関係なん?フフフ」
「ケー子ちゃんいい子やから、頼むでぇ~、フフフ」
上田「・・・」(喫茶アメリカン、店員替えたらもっと流行るワ)
『お別れ会』は「玉居おばさん」号令のもと
「味園」というコテコテのレジャービルの一室で行われました。
玉居おばさん「乾杯の音頭は上田君やな~」
上田「よっしゃ!」
「みんなお疲れさん!これからも頑張ろう~!乾杯~!!」
『えひめ福嶋』『イッチョカミ藤』『ケツ堀之口』『和歌山水落君』
『暴走族チクリン』『恐竜辻神』『ボコボコ平尾』『丸坊主ケンシロウ』
『東』『幼顔仲田』『徳島宮下』『チャーリー岩下』『焼肉前道』
『玉居おばさん』『堀江ネエさん』『ぷっつん富長』『オカッパ中崎』
『南ちゃん』『ボンバー山田』・・・
『長島先生』『古尾先生』『藤本先生』
あんなにバラバラだった30人がほぼ全員参加しました。
上田「長島先生、古尾先生、お世話になりました」
「ところで先生、高津理美容専門学校ってありますか?」
長島先生「あるよ、日本橋に・・」
「エリート校やなぁ~、関西で一番ちゃうか!?」
上田「えー!!しまった!!あ、いや・・」
「田舎の高校にパンフありましたワ!!」
長島先生「上田は誰の紹介で関美に来てんや?」
上田「いや~、パンプの『関西』って名前に期待して・・」
古尾先生「そんなもんやろな~」
「でも上田良かったやん、東京でも頑張らなアカンで」
長島先生「しかしこのクラス・・」
「賑やかやっただけに、何か寂しいもんやなあ~」
僕は高校卒業時の様な寂しさはそこにはなくて、
間違いなく『希望』に満ちあふれていました。
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