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昭和62年春、
就職すると給料が入るので荷物の殆どを田舎に送り返し、
衣類と布団だけを指定された池袋のアパートに送りました。
「親代わり」にお世話になった「大村婆さん」「西田オバサン」にお礼を言うと
階段降りてわざわざ見送りに出て来てくれました。
大村婆「若いツバメが去っていくわぁ~」
西田オバ「ガハハハ」
大村・西田「ほな兄ちゃん!元気でなあー!」
大きな声と共に手を振られました。
(自分の親でもされたことがないので恥ずかしかった。)
国鉄は「JR」という名称に変わりました。
新大阪から東に向かう新幹線は初めてでした。
窓から見える景色は殺風景なのだが、新鮮な気持ちに変わりはありません。
終点東京に近くなると、新幹線は突然「巨大なビル群」に囲まれました。
圧倒的な都会・・・、窓にへばりつく自分は緊張感に包まれました。
「これから日本の頂点で戦うんだ・・」
気持ちの高ぶりを抑えてくれたのは池袋駅に着いてからの「大雪」でした。
春のボタン雪は水分をたっぷり含んでいて、
いっちょうらのDCブランド黒スーツがびしょ濡れになりました。
「これからお店に挨拶しに行くのに・・」
雪を地図から払いのけながら歩いていくと、目印の「サンシャイン60」が見えてきました。
すぐ近くの高架下に『カットサロン伊東』がありました。
『カットサロン伊東』
北海道出身で小柄な『口ひげのマスター』が出迎えてくれました。
マスター「雪の中、大変だったね~」
「まあ、そこに座りなよ」
上田「あ、いいです、立ったままで・・」
びしょ濡れのスーツのままで客待ちソファーに座るわけにはいけません。
「このタオル使って」
大柄でメガネの奥さんが綺麗な白いタオルを渡してくれました。
「マスター」「奥さん」、
そして、年下だがこの店では先輩になる『安部君』、
春休みで暇を持て余しているマスターの高2娘など、皆優しそうな感じで安心しました。
その日は店の説明だけで、アパートの地図を渡されました。
おそらく不動産屋でコピーされた白黒の地図には、
これから住むことになるアパートが黒く塗りつぶされていました。
アパートはお店から徒歩10分、
車通りから路地を曲がり、少し歩いた所にありました。
・・が、どうやら一軒家のようです?
表札に「谷岡ススム」と書いてあります。
上田「すみませーん!大阪から来た上田ともうしますが・・」
いかにも主婦らしいオバサンが出てきて
「はいはい、ああ上田さんね」
「荷物きてるから、部屋2階ね、ああこれ鍵ね」と矢継ぎ早にいいます。
上田「・・・(ん?もしかしてアパートではなく下宿なのか?)」
「では失礼しまーす・・」と上がろうとすると、
オバサン「あ、こっちじゃなくて」
「横に廻ると別に階段があるから・・よろしくね」
そう言うと、くるりと背を向けて奥に引っ込みました。
関西のような馴れ馴れしさは全く無く、少し物足りない感じがしました。
とりあえず外に出てみたものの、どこを見ても「階段」がありません。
「物置」が目に止まりました。
勇気を出して引き戸を開けてみました。
ビックリ、忍者屋敷の様な細い階段が付いていました。
(どうやら自宅の2階を人に貸すため改装したらしい)
「これから毎日物置から通勤するんか・・」
「まあ仕方ないか・・池袋で2万円のアパートやからなあ~」
部屋は4畳一間でした。
押入れもありません・・、
窓が一つあるので開けてみました。
木枠の窓はすべりが悪く、途中でガタガタと音を立てます。
隣の家の壁しか見えないのですぐ閉めました。
日当たりゼロ、風呂無し、トイレ共同、
部屋の隅には驚くほど小さな流し場がありました。
水道の蛇口をひねると勢いの無い水が「トー」と流れます。
既に届いていた荷物を広げ、布団に横たわりました。
とりあえずタバコに火をつけました。
タバコの煙は部屋の隅に集まりました。
「銭湯を探さんといかんな・・、それと洗面用具か・・」
東京には「コンビニ」がたくさんありました。
セブンイレブンのおにぎりが僕の主食になりそうです。
「さすがに大都会には安い定食屋なんか無いか・・」
「しかし住みにくそうな街やな・・」
「やっていけるかな・・」
音楽プレーヤーのイヤホンを耳にあて、不安な気持ちで寝ました。
しかし、
本当の不安は次の日の初出勤になる「お店」の方でした。
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JR東海ファイトエクスプレス
懐かCM JR東海「ファイト!エクスプレス」(2)
懐かCM JR東海「ファイト!エクスプレス」(2) [その他] もらいもの89~90年ごろに放送したやつ 曲は尾崎豊「I LOVE YOU」
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