けふわかれ あすはあふみと おもへども よやふけぬらむ そでのつゆけき
今日別れ 明日はあふみと 思へども 夜やふけぬらむ 袖の露けき
紀利貞
今日別れても、明日は「会う身」との名を持つ近江に旅立つのだから、またすぐに会えるとは思うけれども、夜が更けたせいだろうか、袖が露に濡れている。
詞書には「・・・藤原清生(きよふ)が近江介にまかりける時に、むまのはなむけしける夜よめる」とあります。「むま」とは「馬」。旅立ちに際しては馬の鼻先を向かう方向に向けることから、餞別の金品を贈ったり送別の宴を行ったりすることをこのように表現するようです。「あふみ」は「会ふ身」と「近江」の掛詞。赴任先はさほど遠くないのだからまたすぐに会えるとは思うけれども、別れの寂しさに涙がこぼれる。その涙で袖が濡れるのを、夜が更けたせいだと強がって見せたというところでしょうか。