漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 472

2024-07-31 05:47:13 | 貫之集

池の鶴

わがやどの いけにのみすむ つるなれば ちとせのなつの かずはしるらむ

わが宿の 池にのみ住む 鶴ならば 千歳の夏の 数は知るらむ

 

池の鶴

わが家の池にずっと住んでいる鶴であるから、千年にも及ぶ過ごした夏の数も知っていることであろう。

 

 第二句「のみ」は現代では専ら限定の意で用いますが、ここでは強調の意ですね。


貫之集 471

2024-07-30 05:41:40 | 貫之集

五月五日

とりのねは あまたあれども ほととぎす なくなるこゑは さつきなりけり

鳥の音は あまたあれども 時鳥 鳴くなる声は 五月なりけり

 

五月五日

鳥の鳴く声は数々あるけれども、時鳥の鳴く声が聞こえると、五月になったのだなあと思う。

 

 時鳥の声で五月になったことを知るという歌は 228 にもありましたね。

 

ほととぎす こゑききしより あやめぐさ かざすさつきと しりにしものを

時鳥 声聞きしより あやめ草 かざす五月と 知りにしものを


貫之集 470

2024-07-29 04:07:47 | 貫之集

撫子

ながけくに いろをそめつつ はるもあきも しらでのみさく とこなつのはな

長けくに 色をそめつつ 春も秋も 知らでのみ咲く 常夏の花

 

撫子

長い間に色を染めてきて、春も秋も知らない常夏の花が咲いている。

 

 撫子の別名「常夏」から、春も秋も知らずに咲くと発想しての詠歌ですね。実際には品種にもよって4~11月にかけて花をつけるようですが、盛りは8~9月というところのようです。


貫之集 469

2024-07-28 05:51:07 | 貫之集

時鳥

あけくるる つきひあれども ほととぎす なくこゑにこそ なつはきにけれ

明け暮るる 月日あれども 時鳥 鳴く声にこそ 夏はきにけれ

 

時鳥

明けては暮れる月日はあるけれども、時鳥の鳴く声にこそ、夏が来たことを実感できるものであるよ。

 

 最後の「けれ」は詠嘆の助動詞「けり」の已然形。それまで気付かずにいたことに、初めて気付いた気持ちを表しています。

 


貫之集 468

2024-07-27 05:28:32 | 貫之集

池のほとりに咲ける藤、舟に乗りて遊び見る

こぎかへり みれどもあかず わかれにし はるのなごりの ふぢなみのはな

漕ぎかへり 見れどもあかず 別れにし 春のなごりの 藤波の花

 

池のほとりに咲いている藤を、舟遊びをしながら見る

舟を戻していくら見ても飽きることがない。去ってしまった春との別れの名残の藤の花は。

 

 第四句「なごり」は、歌意としては「名残」の方ですが、同音の「余波」がかかっており、それが「藤波」の縁語ともなっています。