くれぬとて なかずなりぬる うぐひすの こゑのうちにや はるのへぬらむ
暮れぬとて 鳴かずなりぬる 鶯の 声のうちにや 春のへぬらむ
春が暮れてしまうと思って鳴かなくなった鶯の声と一緒に、春が去って行ってしまうのであるよ。
第一句の「ぬ」は完了の助動詞。打消しの助動詞「ず」の連体形と同型で紛らわしいですが、ここでは前者。
貫之は古今集 0312 では鹿の声ととも秋が暮れて行くと詠んでおり、同種の発想ですね。
ゆふづくよ をぐらのやまに なくしかの こゑのうちにや あきはくるらむ
夕月夜 をぐらの山に 鳴く鹿の 声のうちにや 秋は暮るらむ
(古今和歌集 巻第五「秋歌下」 第312番)