漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 350

2024-03-31 05:59:26 | 貫之集

くれぬとて なかずなりぬる うぐひすの こゑのうちにや はるのへぬらむ

暮れぬとて 鳴かずなりぬる 鶯の 声のうちにや 春のへぬらむ

 

春が暮れてしまうと思って鳴かなくなった鶯の声と一緒に、春が去って行ってしまうのであるよ。

 

 第一句の「ぬ」は完了の助動詞。打消しの助動詞「ず」の連体形と同型で紛らわしいですが、ここでは前者。
 貫之は古今集 0312 では鹿の声ととも秋が暮れて行くと詠んでおり、同種の発想ですね。

 

ゆふづくよ をぐらのやまに なくしかの こゑのうちにや あきはくるらむ

夕月夜 をぐらの山に 鳴く鹿の 声のうちにや 秋は暮るらむ

(古今和歌集 巻第五「秋歌下」 第312番)


貫之集 349

2024-03-30 05:04:59 | 貫之集

おなじ七年正月、内裏の仰せにて

としたてば はなこふべくも あらなくに はるいまさらに ゆきのふるらむ

年たてば 花乞ふべくも あらなくに 春いまさらに 雪の降るらむ

 

おなじ承平七年正月、天皇の仰せにて

新年になったので、もう花が咲くのを願うまでもなくなったはずなのに、どうして春になったいまさら、雪が降るのであろう。

 

 年が明けた(旧暦なので、つまり春になった)のにどうしてまだ花が咲かずに代わりに雪が降るのか、という歌ですが、年があけたのは現実世界、雪が降っているのは屏風絵の中のことでしょうか。


貫之集 348

2024-03-29 05:22:02 | 貫之集

人の家の竹

ちよもたる たけのおひたる やどなれば ちくさのはなは ものならなくに

千代もたる 竹のおひたる 宿なれば 千ぐさの花は ものならなくに

 

人の家の竹

千代も生き続ける竹の生えている宿であるから、他のたくさんの草花などはものの数ではない。

 

 個人的には竹よりも色とりどりの花の方が好きですが、長寿の祝賀に、咲いては枯れてしまう花よりも、長寿になぞらえて竹を寿いでの詠歌ですね。


貫之集 347

2024-03-28 06:07:28 | 貫之集

川辺に鶴群れたる

かはのせに なびくあしたづ おのがよを なみとともにや きみによすらむ

川の瀬に なびく葦田鶴 おのが代を 波とともにや 君に寄すらむ

 

川辺に鶴が群れている

川の瀬に身を任せている鶴は、自分の千年の齢を波に乗せてあなたさまに差し上げているのでしょうか。

 

 鶴が自身の長寿を他に譲るという発想はこのあと 691 にも出てきます。


貫之集 346

2024-03-27 06:16:41 | 貫之集

水辺の菊

きくのはな ひちてながるる みづにさへ なみのしわなき やどにざりける

菊の花 ひちて流るる 水にさへ 波の皺なき 宿にざりける

 

水辺の菊

菊の花が水につかって流れると、そこはその川までも波が立たず、寄る年波の皺さえも見えない長寿の宿となるのであるよ。

 

 菊は長寿の源との伝承に基づき、菊とともに流れる水には波さへも経たないと詠んだ歌。菊の花びらが散って流れる川面の絵柄なのでしょう。美しい情景ですね。 ^^