やまざとは あきこそことに わびしけれ しかのなくねに めをさましつつ
山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目をさましつつ
壬生忠岑
山里は、秋がことのほかわびしいもの。鹿の鳴く声に幾度も目を覚まして。
「つつ」は反復を表す接続助詞。しんと静まった夜更けに鳴く鹿の声に目を覚ますことを繰り返すたびに一層つのるわびしさを詠んでいます。
やまざとは あきこそことに わびしけれ しかのなくねに めをさましつつ
山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目をさましつつ
壬生忠岑
山里は、秋がことのほかわびしいもの。鹿の鳴く声に幾度も目を覚まして。
「つつ」は反復を表す接続助詞。しんと静まった夜更けに鳴く鹿の声に目を覚ますことを繰り返すたびに一層つのるわびしさを詠んでいます。
あきかぜに こゑをほにあげて くるふねは あまのとわたる かりにぞありける
秋風に 声をほにあげて 来る舟は 天の門わたる 雁にぞありける
藤原菅根
秋風に吹かれ、声を帆のように高くあげてやってくる舟は、天空の海峡を渡る雁であったことよ。
非常に難解(今の私には)な一首です。「ほ」は「秀(ほ)」と「帆」の掛詞で、「秀」は、ぬきんでていること、秀(ひい)でていること、表面に出て目立つものといった意味。声をあげながら天空を渡る雁を、帆をあげて海峡を進む舟に見立てています。
作者の藤原菅根は菅原道真の弟子で文章博士にまでなった学者ですが、のちに道真の失脚に一役買ったともされています。古今集への入集はこの一首のみですね。
よをさむみ ころもかりがね なくなへに はぎのしたばも うつろひにけり
夜を寒み 衣かりがね 鳴くなへに 萩の下葉も うつろひにけり
よみ人知らず
ある人のいはく、柿本人麿がなり
夜が寒いので衣を借りたい、そんな夜に、雁が鳴くとともに萩の下葉も色がうつろってしまった。
「ころもかりがね」は「衣借り」と「雁が音」とを掛けています。気温が下がり、季節のうつろいを象徴する雁が鳴き、萩の葉の色もうつりゆく寂しい秋の風情ですね。
はるがすみ かすみていにし かりがねは いまぞなくなる あきつゆのうへに
春霞 かすみていにし かりがねは 今ぞ鳴くなる 秋露の上に
よみ人知らず
春霞の向こうへ去って行ってしまった雁が、再び渡来して秋露の上で今まさに鳴いているよ。
「春霞」と「秋露」を対比させることで強調される季節の移り変わりが、去って行った雁の帰来を詠み込むことでさらにあざやかに描写されています。わずか三十一文字で表現された時の流れのダイナミズムで、個人的にはとても好きな一首です。