漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0762

2021-11-30 19:18:08 | 古今和歌集

たまかづら いまはたゆとや ふくかぜの おとにもひとの きこえざるらむ

玉かづら 今は絶ゆとや 吹く風の 音にも人の 聞こえざるらむ

 

よみ人知らず

 

 もう私達の関係は絶えてしまったので、吹く風が目に見えないように、あの人の噂も耳に入って来ないのだろうか。

 「玉かづら」は「絶ゆ」にかかる枕詞ですが、いとしい人の関係がつる草が伸びるように長く続いていたのに、というニュアンスも含んでいるのでしょう。「吹く風」はよく出て来るフレーズで、古今集では11首ほどに登場します。その中で、0475 では、本歌と同じく目に見えないものの喩えとして使われていますね。

 

よのなかは かくこそありけれ ふくかぜの めにみぬひとも こひしかりけり

世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり

 

紀貫之

 


古今和歌集 0761

2021-11-29 19:48:20 | 古今和歌集

あかつきの しぎのはねがき ももはがき きみがこぬよは われぞかずかく

暁の 鴫の羽がき 百羽がき 君が来ぬ夜は われぞ数かく

 

よみ人知らず

 

 明け方には鴫が何度も何度も翼を羽ばたかせますが、あなたが来ない夜は、そういう夜が幾度あったか、私が数を数えます。

 「羽がき」は羽ばたきをすることで、「百羽がき」はその数(回数)が多いこと。この二語をリズム良く重ねることで、音が似ている結びの「かく」を導いています。なのですが、結びの「数かく」が何を意味するのかは明確には分かっていません。上記のように「いとしい人が来ない夜の数を数える」とする説の他、「幾度も寝がえりをうつ」と解釈する向きもあるようです。


古今和歌集 0760

2021-11-28 19:21:56 | 古今和歌集

あひみねば こひこそまされ みなせがは なににふかめて おもひそめけぬ

あひ見ねば 恋こそまされ 水無瀬川 何に深めて 思ひそめけむ

 

よみ人知らず

 

 逢わずにいるとなおさら恋心が募ります。地中を流れる水無瀬川のように、どうして深く思い始めてしまったのでしょう。

 「水無瀬川」は 0607 にも出てきました。水が地表では流れず地中に流れている川のことで、「下」「深し」といった言葉が後に続きます。


古今和歌集 0759

2021-11-27 19:12:26 | 古今和歌集

やましろの よどのわかごも かりにだに こぬひとたのむ われぞはかなき

山城の 淀の若菰 かりにだに 来ぬ人とたのむ われぞはかなき

 

よみ人知らず

 

 仮そめにさえ来てくれない人をあてにする私は、何とはかないことか。

 「山城の 淀の若菰」が序詞として「狩り」を導いています。その「狩り」が同音の「仮」との掛詞になっているのは 0755 と同じですね。相愛の関係が終わってしまっているとわかっているのに相手を待ってしまう、切ない恋心です。


古今和歌集 0758

2021-11-26 19:56:58 | 古今和歌集

すまのあまの しおやきころも をさをあらみ まとほにあれや きみがきまさぬ

須磨の海人の 塩焼き衣 筬をあらみ 間遠にあれや 君がきまさぬ

よみ人知らず

 須磨の漁師が塩を焼くときに着る衣は、筬が粗くて目が詰まっていない。それと同じように、わたし達の思いにも隙間があいているから、あなたは来てくれないのでしょうか。

 現代人にはなじみのない言葉の連続で、特に仮名書きのままでは、何を言っているのかほとんどわからないですね ^^;;;
 「塩焼き衣」は塩を焼くときに着る作業着のこと。「筬」は「織機の付属具。竹または金属の薄片を櫛(くし)の歯のように並べ、枠をつけたもの。縦糸を整え、横糸を打ち込むのに使う。」とのこと(Weblio辞書から引用)。「間遠」は間隔があいていること、網目や織目が粗いことの意です。いとしい人との関係が疎になりつつあることを、衣の織目が粗くて隙間があいていることに準えての、嘆きの詠歌です。