八月駒迎え
あふさかの せきのしみずに かげみえて いまやひくらむ もちづきのこま
逢坂の 関の清水に 影見えて 今や引くらむ 望月の駒
八月の駒迎え
逢坂の関の清水に、十五夜の月と馬の影とが映っているのが見える。今まさに、望月牧場の馬が引かれていくのであろう。
「駒迎え」とは、天皇が各地の名馬をご覧になる「駒牽き(こまひき)」の儀式に際して、諸国から貢進される馬を担当の官人が逢坂の関まで迎えに出ること。第五句の「望月」は「満月」の意はもちろんですが、当時全国に23か所あった御料牧場の中でも、信濃国にあって特に規模が大きく、全国に良く知られた「望月の牧」を意味しています。望月の牧から献上された名馬が、8月の満月(従って「十五夜」ですね)が照らす中、悠然と牽かれて行く情景を描いた屏風絵なのですね。水面に映った月や情景を詠むのも、貫之の得意とするところです。
この歌は拾遺和歌集(巻第三「秋」 第170番)にも採録されています。