漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 014

2023-04-30 06:22:22 | 貫之集

八月駒迎え

あふさかの せきのしみずに かげみえて いまやひくらむ もちづきのこま

逢坂の 関の清水に 影見えて 今や引くらむ 望月の駒

 

八月の駒迎え

逢坂の関の清水に、十五夜の月と馬の影とが映っているのが見える。今まさに、望月牧場の馬が引かれていくのであろう。

 

 「駒迎え」とは、天皇が各地の名馬をご覧になる「駒牽き(こまひき)」の儀式に際して、諸国から貢進される馬を担当の官人が逢坂の関まで迎えに出ること。第五句の「望月」は「満月」の意はもちろんですが、当時全国に23か所あった御料牧場の中でも、信濃国にあって特に規模が大きく、全国に良く知られた「望月の牧」を意味しています。望月の牧から献上された名馬が、8月の満月(従って「十五夜」ですね)が照らす中、悠然と牽かれて行く情景を描いた屏風絵なのですね。水面に映った月や情景を詠むのも、貫之の得意とするところです。
 この歌は拾遺和歌集(巻第三「秋」 第170番)にも採録されています。


貫之集 013

2023-04-29 06:08:26 | 貫之集

たなばた

あきかぜに よのふけゆけば あまのがは かはせになみの たちゐこそまて

秋風に 夜の更けゆけば 天の川 川瀬に波の 立ちゐこそ待て

 

たなばた

秋風が吹き、七夕の夜が更けて行くと、天の川の川瀬には波が立ち、織姫が立ったり座ったりして逢瀬を待っている。

 

 第五句の「立ち」には、「波が立つ」と「立ちゐ(立ったり座ったり)」の両方の意味が掛かっています。現代人の感覚だと七夕は夏の行事なので初句の「秋風に」に一瞬違和感を感じますが、旧暦では1~3月が春、4~6月が夏で7月はもう秋。今で言えば9月くらいの季節感なのでしょうね。
 この歌は拾遺和歌集(巻第三「秋」 第143番)採録です。


貫之集 012

2023-04-28 05:49:25 | 貫之集

七月七日

たなばたに ぬぎてかしつる からころも いとどなみだに そでやくちなむ

たなばたに 脱ぎてかしつる 唐衣 いとど涙に 袖や朽ちなむ

 

七月七日

脱いで織女に供えたこの衣は、逢瀬のはかなさを嘆く織女の涙で朽ちてしまうことでしょう。

 

 「かす」はここでは供える意。「いとど」の「いと」は「糸」を連想させ、「唐衣」と縁語をなしていますね。
 拾遺和歌集(巻第三「秋」 第149番)にも収録されています。


貫之集 011

2023-04-27 06:04:14 | 貫之集

六月祓え

みそぎする かはのせみれば からころも ひもゆふぐれに なみぞたちける

みそぎする 川の瀬見れば 唐衣 ひもゆふぐれに 波ぞ立ちける

 

六月の祓え

禊をする川の瀬を、衣の紐を結いながら眺めていると、夕暮れになって川面には波が立っているよ。

 

 「六月祓え(みなづきばらえ)」とは「夏越祓え(なごしの祓え)」ともいい、1年の折り返しとなる六月末日に行われる、半年の穢れを祓い、残り半年の厄除けを行う神事のこと。「唐衣」は「紐」にかかる枕詞で、第四句は「紐結う」と「日も夕暮れ」の掛詞になっています。
 この歌は新古今和歌集(巻第三「夏歌」 第284番)採録です。

 

 


貫之集 010

2023-04-26 06:39:03 | 貫之集

六月鵜飼

かがりびも かげしるければ うばたまの よかはのそこは みづももえけり

篝火も 影しるければ うば玉の 夜川の底は 水も燃えけり

 

六月の鵜飼

鵜飼の篝火の影がはっきりと映っているので、夜の川の底で水も燃えているかのようだ。

 

 「しるけれ」は「しるし(著し)」の已然形で「はっきりわかる」「明白である」意。「うば玉の」は「夜」にかかる枕詞ですね。屏風絵の幻想的な絵柄が目に見えるようです。