漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0487

2021-02-28 19:38:53 | 古今和歌集

ちはやぶる かものやしろの ゆふだすき ひとひもきみを かけぬひはなし

ちはやぶる 賀茂の社の 木綿襷 一日も君を かけぬ日はなし

 

よみ人知らず

 

 賀茂の社の神官が神事の際に木綿襷を掛けるように、私も一日としてあなたのことを気にかけない日はないのです。

 weblio古語辞典によれば、「木綿襷(ゆふだすき)」とは「木綿(ゆふ)で作ったたすき。白くて清浄なものとされ、神事に奉仕するとき、肩から掛けて袖(そで)をたくし上げるのに用いた。歌では、「かく」を導く序詞(じよことば)とすることもある。」とあります。「ちはやぶる」は通常は「神」に掛かる枕詞で、この歌も「ちはやぶる 神の社の」としている本もあるようです。


古今和歌集 0486

2021-02-27 19:29:08 | 古今和歌集

つれもなき ひとをやねたく しらつゆの おくとはなげき ぬとはしのばむ

つれもなき 人をやねたく 白露の おくとは嘆き 寝とはしのばむ

 

よみ人知らず

 

 私の思いに気づかずににいるあの人のことを、しゃくなことに白露の置く朝に起きては嘆き、夜寝ては慕うのであるなあ。

 「ねたく」は「妬く」でくやしい、しゃくだといった意。「おく」は「(白露が)置く」と「(朝)起く」の掛詞になっています。この一首だけを単独で解釈すれば、冒頭の「つれもなき人」は、こちらの思いを知っているのに応えてくれない冷たい人、との意にもとれます。ですが古今集全体として見ると、恋歌の巻が始まったばかりでこちらの思いをまだ相手が知らない段階の歌が並べられている位置に配列されていますので、この歌の解釈としても、相手はまだ読み手の恋心を知らずにいるとするべきでしょう。

 


古今和歌集 0485

2021-02-26 20:05:36 | 古今和歌集

かりこもの おもひみだれて われこふと いもしるらめや ひとしつげずは

刈菰の 思ひ乱れて 我恋ふと 妹知るらめや 人しつげずは

 

よみ人知らず

 

 私が刈り取った菰のように思い乱れてあなたに恋焦がれていると、あなたは知っているだろうか。いや、知っているはずがない。誰かがあなたにそう告げるのでなければ。

 「刈菰の」は「乱る」に掛かる枕詞。刈り取った真菰がからみついて乱れやすいことからですね。恋焦がれる気持ちを相手に気づいてすらもらえない切ない思いです。身分の違う、高貴な人への恋情でしょうか。


古今和歌集 0484

2021-02-25 19:05:47 | 古今和歌集

ゆふぐれは くものはたてに ものぞおもふ あまつそらなる ひとをこふとて

夕暮れは 雲のはたてに ものぞ思ふ 天つ空なる 人をこふとて

 

よみ人知らず

 

 夕暮れは、雲の果てをみやって物を思う。天にいるかのように手の届かないあの人を恋い慕って。

 「天つ空なる人」は、物理的に遠距離にいる人か、あるいは高貴な身分で自分には接することのできない人のことでしょうか。いずれにしてもはるかに遠くて届かない状況を天に喩えて詠んだ切ない歌ですね。

 


古今和歌集 0483

2021-02-24 19:49:12 | 古今和歌集

かたいとを こなたかなたに よりかけて あはずはなにを たまのをにせむ

片糸を こなたかなたに よりかけて あはずは何を 玉の緒にせむ

 

よみ人知らず

 

 こちらとあちらの片糸を縒り合わせなければ糸が作れずに玉を繋ぐことができないように、私も愛しいあの人と会うことができないならば、一体何によって命を繋ぎとめることができようか。

 「片糸」は、より合わせて糸にする前の細い糸のこと。会うことが叶わなければ、他には命を繋ぐよすがすら見つけられないとまで思いつめる恋を歌っています。
 この歌から巻第十一「恋歌一」最後の 0551 まで、よみ人知らずの歌が69首続きます。