きみまさで けむりたえにし しおがまの うらさびしくも みえわたるかな
君まさで 煙絶えにし 塩釜の うらさびしくも 見えわたるかな
紀貫之
あなたがおられなくなって、煙が絶えてしまった塩釜が、うら寂しく見えていることです。
詞書には「河原の左大臣の身まかりてのち、かの家にまかりてありけるに、塩釜といふ所のさまをつくれりけるを見てよめる」とあります。「河原の左大臣」は 0848 でもご紹介した通り源融(みなもと の とおる)のこと。源融自身の歌も 0724、0873 に採録されています。初句「君まさで」の「まさ」は「あり」の尊敬語「ます」の未然形。和歌で尊敬語が使われるのは珍しく、貫之が源融に深い尊敬の念を抱いていたことがわかります。「塩釜」は陸奥地方の名所で、源融の家の庭にその塩釜を模して造られた一角があったのを見て詠んだ歌、ということですね。「煙」は塩を焼く煙です。