漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 075

2023-06-30 06:09:44 | 貫之集

いろのみぞ まさるべらなる いそのまつ かげみるみづも みどりなりけり

色のみぞ まさるべらなる 磯の松 影見る水も 緑なりけり

 

色がますます濃くなってきたのであろう。磯の松の姿を映して見せる水までもが、すっかり緑色に染まっているよ。

 

 貫之得意のリフレクションの詠歌ですが、松を題材にしたものは少ないようです。


貫之集 074

2023-06-29 06:17:24 | 貫之集

ちよまでの ゆきかとみれば まつかぜに たぐひてたづの こゑぞきこゆる

千代までの 雪かと見れば 松風に たぐひて田鶴の 声ぞ聞こゆる

 

松に降りかかる雪かと思って見たら、風に合わせて鳴く真っ白な鶴の鳴く声が聞こえた。

 

 雪と松と鶴の組み合わせは 051 にもありました。屏風絵に良く書かれる構図なのかもしれませんね。


貫之集 073

2023-06-28 05:16:25 | 貫之集

をしみにと きつるかひなく さくらばな みればかつこそ ちりまさりけれ

惜しみにと 来つるかひなく 桜花 見ればかつこそ 散りまさりけれ

 

散ってしまうのは惜しいと思って見に来たかいもなく、桜の花は見れば見るほどますます散っていくことよ。

 

 一つ前の 072 と同じモチーフの詠歌ですね。続けて収録されていることからも、同じ屏風絵に基づく歌なのかもしれません。


貫之集 072

2023-06-27 05:25:33 | 貫之集

みてのみや たちかくしてむ さくらばな ちるををしむに かひしなけれは

見てのみや 立ちかくしてむ 桜花 散るを惜しむに かひしなければ

 

ひとしきり見たらどこかに隠してしまおうか。桜の花は、放っておくと惜しむ甲斐もなく散ってしまうのだから。

 

 まあ、身も蓋もないことをあえて言えば、どこかに隠したところでやっぱり桜は散ってしまうわけですが、心情としてはとても良くわかりますね ^^

 

よのなかに たえてさくらの なかりせば はるのこころは のどけからまし

世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし


在原業平

(古今和歌集 巻第一 「春上」 第53番)


貫之集 071

2023-06-26 04:56:33 | 貫之集

ひともなき やどににほへる ふぢのはな かぜにのみこそ みだるべらなれ

人もなき 宿に匂へる 藤の花 風にのみこそ 乱るべらなれ

 

人けもない宿に匂っている藤の花が、風だけには乱れているようだ。

 

 手元の解釈書によると、「風」と「藤の花」を男女に擬人化した意味もあるとのこと。なるほどですね。