漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 1036

2022-08-31 05:35:15 | 古今和歌集

かくれぬの したよりおふる ねぬなはの ねぬなはたてじ くるないとひそ

隠れ沼の 下よりおふる ねぬはなの 寝ぬ名は立てじ くるないとひそ

 

壬生忠岑

 

 隠れ沼の底から生えている 「ねぬなは」の名のように、共寝をしていないという噂は立てないでおこう。だから私がやって来ることを、どうかいやがらないでほしい。

 「隠れ沼」は人目につかないひっそりとした沼。「ねぬはな」は蓴菜(じゅんさい)のこと。「共寝をしていないという噂は立てない」なので、回りくどいですが、共寝しているとの噂が立っても構わないということですね。第五句がわかりづらいですが、「来る+な+いとひ+そ」で、来ることをいとうなという命令表現となっています。


古今和歌集 1035

2022-08-30 05:33:21 | 古今和歌集

せみのはの ひとへにうすき なつごろも なればよりなむ ものにやはあらぬ

蝉の羽の ひとへに薄き 夏衣 なればよりなむ ものにやはあらぬ

 

凡河内躬恒

 

 蝉の羽のように薄い単衣の夏衣が身になじむと皺が寄るように、ただただ気持ちが薄い人でも、慣れ親しめば心が寄り添うものではないでしょうか。

 「ひとへ」は「単衣」と副詞の「ひとへに」、「なれば」は「(衣が)馴れば」と「(二人の仲が)慣れば」、「より」は「(皺が)寄り」と「(心が)寄り」、と両義を持たせた語が多用され、巧みに二重の意味を詠み込んでいますね。第五句の「やは」は反語です。


古今和歌集 1034

2022-08-29 06:08:26 | 古今和歌集

あきののに つまなきしかの としをへて なぞわがこひの かひよとぞなく

秋の野に 妻なき鹿の 年をへて なぞわが恋の かひよとぞ鳴く

 

紀淑人

 

 秋の野に、妻のない鹿が長い間「なぜ自分の恋には効きめがないのか」と、「かいよ」と鳴いている。

 「かひよ」は鹿の鳴き声の擬音で、これに効果という意味の「かひ(効、甲斐)」をかけています。
 作者の紀淑人(き の よしと/よしひと)は平安時代前期から中期にかけての貴族にして歌人。醍醐朝では武漢、朱雀朝、村上朝では地方官を歴任しました。古今集への入集はこの一首のみです。

 


古今和歌集 1033

2022-08-28 05:54:47 | 古今和歌集

はるののの しげきくさばの つまこひに とびたつきじの ほろろとぞなく

春の野の しげき草葉の 妻恋ひに 飛び立つ雉の ほろろとぞなく

 

平貞文

 

 春の野の茂った草葉のように繁くつのる妻への思いで、飛び立つ雉がほろろと鳴くように私もほろほろと泣いている。 

 「ほろろ」は雉の鳴き声を表す擬音語で、「ほろほろ」と表現することもありますね。玉葉集には次のような歌が収録されています。

 

やまどりの ほろほろとなく こゑきけば ちちかとぞおもふ ははかとぞおもふ

山鳥の ほろほろと鳴く 声聞けば 父かとぞ思ふ 母かとぞ思ふ

 

行基

(玉葉和歌集 巻十九「釈教」 第2627番)


古今和歌集 1032

2022-08-27 06:14:06 | 古今和歌集

おもへども なほうとまれぬ はるがすみ かからぬやまも あらじとおもへば

思へども なほうとまれぬ 春霞 かからぬ山も あらじと思へば

 

よみ人知らず

 

 あの人のことを思っていても、なお疎ましく思ってしまう。春霞がかからない山がないように、あの人が関りを持たない人などいないと思うから。

 現代風に言えば、気の多い恋人にやきもきしている、というところでしょうか。