漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 656

2025-01-31 06:23:31 | 貫之集

いつとてか わがこひざらむ ちはやぶる あさまのやまの けぶりたゆとも

いつとてか わが恋ひざらむ ちはやぶる 浅間の山の 煙たゆとも

 

いつになったら、あの人を恋しいと思わなくなるだろうか。浅間の山の煙が絶えることがあっても、そんな時が来るはずがない。

 

 「ちはやぶる」は通常は「神」に掛かりますが、ここでは「浅間山」の枕詞。浅間山に宿る神威を表現しているのでしょう。
 この歌は拾遺和歌集(巻第十一「恋一」 第656番)、続古今和歌集(巻第十二「恋二」 第1076番)に入集していますが、前者ではよみ人知らずの歌とされ、またそれぞれ若干語句に相違があります。単なる偶然ですが、貫之集と拾遺和歌集は歌番号まで一緒ですね。

 

拾遺和歌集
いつとてか わがこひやまむ ちはやぶる あさまのたけの けぶりたゆとも

続古今和歌集
いつとてか わがこひざらむ しなのなる あさまのやまの けぶりたゆとも

 


貫之集 655

2025-01-30 05:30:28 | 貫之集

うちよする うらなみみれば わがこひの つきぬるとこそ まづしられけれ

うち寄する 浦波見れば わが恋の 尽きぬるとこそ まづ知られけれ

 

打ち寄せる浦波を見ていると、私の恋が終わったのだということを、まず思わされるよ。

 

 個人的には、寄せては返す波と恋の終わりの実感との結びつきがいまひとつよくわかりませんでした。^^;;


貫之集 654

2025-01-29 05:36:07 | 貫之集

けさのとこの つゆおきながら かなしきは あかぬゆめぢを こふるなりけり

今朝の床の 露おきながら 悲しきは あかぬ夢路を 恋ふるなりけり

 

今朝の床を、露が置いたように涙で濡らしながら起きて悲しく思うのは、夢の中でのまだ飽き足らない逢瀬がなお恋しく感じることであるよ。

 

 第二句の「おき」は「(露が)置き」と「(私が)起き」の掛詞になっています。


貫之集 653

2025-01-28 04:43:50 | 貫之集

まれにあふと きくたなばたも あまのがは わたらぬとしも あらじとぞおもふ

まれにあふと 聞くたなばたも 天の川 渡らぬ年は あらじとぞ思ふ

 

まれにしか逢えないと聞く彦星と織姫ではあっても、彦星が天の川を渡らない年はないのだろうと思う。

 

 このあとにはもちろん、「それにひきかえ、あの人は一向に私に逢いに来てくれない」という嘆きが続くのでしょう。
 この歌は風雅和歌集(巻第十三「恋四」 第1280番)に入集しており、そちらでは第二句が「いふたなばたも」とされています。


貫之集 652

2025-01-27 04:27:17 | 貫之集

てるつきも かげみなそこに うつりけり にたるものなき こひもするかな

照る月も 影水底に うつりけり 似たるものなき 恋もするかな

 

 照る月はその光が水底に映ってそこにも月があるかのようだが、そんなふうに似たものとてない恋をしていることよ。

 

 月や花などが水面に映る情景の描写は、貫之が得意とするところですね。
 この歌は、拾遺和歌集(巻第十三「恋三」 第791番)に入集しています。