漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 625

2024-12-31 05:53:03 | 貫之集

わすられず こひしきものは はるのよの ゆめののこりを さむるなりけり

忘られず 恋しきものは 春の夜の 夢の残りを さむるなりけり

 

忘れられない、恋しいものは、春の夜の夢のような美しくも儚い時間が失われて、まさに夢のように消え去ってしまったことだ。

 

 第五句「さむる」は「冷むる」で、熱が冷める意。美しく儚い恋の思いでを切なく思い起こしての詠歌ですね。

 

 今日は大晦日。今年1年、貫之集の名歌におつきあいいただいてありがとうございました。
 このまま継続できれば9月頃には最後の歌のご紹介にたどり着けるかと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。


貫之集 624

2024-12-30 05:02:54 | 貫之集

わびわたる わがみはつゆを おなじくは きみがかきねの くさにきえなむ

わびわたる わが身は露を おなじくは 君が垣根の 草に消えなむ

 

いつもわびしく暮らしているわが身は露のようなもの。できることなら露のように、あなたの家の垣根の草に置いて消えてしまいたい。

 

 この歌は後撰和歌集(巻第十「恋二」 第649番)に入集しており、そちらでは「心せざる女の家のあたりにまかりて、いひいれはべりける」との詞書が付されています。

 

 


貫之集 623

2024-12-29 05:27:53 | 貫之集

うつつには あふことかたし たまのをの よるはたえずも ゆめにみえなむ

うつつには 逢ふことかたし 玉の緒の 夜は絶えずも 夢に見えなむ

 

現実にあのひとに逢うことは難しいから、夜はいつも夢に現れてほしい。

 

 「玉の緒」は「絶ゆ」に掛かる枕詞。百人一首第89番 式子内親王の歌がつとに有名ですね。

 

たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞ

 

 この歌は拾遺和歌集(巻第十三「恋三」 第809番)に入集しています。そちらでは柿本人麻呂が作者とされていますが、拾遺集の記載は誤りと考えられているようです。


貫之集 622

2024-12-28 05:38:09 | 貫之集

しのぶれど こひしきときは あしひきの やまよりつきの いでてこそくれ

しのぶれど 恋しきときは あしひきの 山より月の 出でてこそ来れ

 

思いは心に秘めていても、恋しさが募るときには、山から月が出るように家を出てあなたを訪れてしまうのです。

 「あしひきの」は「山」にかかる枕詞。抑えていてもほとばしり出てしまう思いを山の端から出て来る月に準えての詠歌ですね。
 この歌は古今和歌集(巻第十三「恋歌三」 第633番)に入集しています。

 


貫之集 621

2024-12-27 04:48:44 | 貫之集

わびひとは としにしられぬ あきなれば わがそでにしも しぐれふるらむ

わび人は としに知られぬ 秋なれば わが袖にしも しぐれ降るらむ

 

悲嘆にくれる人にとっては、暦とは関係なく、常に季節は秋なのであろうか。だから私の袖はしぐれが降ったかのように涙で濡れているのだろう。

 

 「わび人」は、ここではつらい目にあって、悲嘆にくれている人の意。叶わぬ恋ゆえの悲嘆ですね。