漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 1111

2022-11-14 06:41:38 | 古今和歌集

みちしらば つみにもゆかむ すみのえの きしのおふてふ こひわすれぐさ

道知らば 摘みにも行かむ 住の江の 岸の生ふてふ 恋忘れ草

 

紀貫之

 

 道を知っていたら摘みにでも行こう。住の江の岸に生えているという恋忘れ草を。

 詞書には「深養父 恋ひしとはたが名づけけむことならむ下」とあり、清原深養父の詠んだ 0698 の次に置かれていたことが示されています。

 

 「古今和歌集 0001」と題して、一日一首の古今和歌集歌のご紹介を初めて書いたのは 2019年10月31日。それから3年とちょっとで、ようやく最後の一首にたどり着きました。かなり軽い気持ちで始めて最後まで行きつく自信があったわけでもなく、まして一日も欠かさずなどとは望外のことでしたが、たびたび来訪くださる皆さまに励まされ、ここまでやって来ることができました。コメントやいいねをくださる方々はもちろん、来訪いただいたすべての皆さまに心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

 明日から、何やら気が抜けてしまいそうな気もします(笑)が、実は次に取り組みたいものもあり、少しお休みしたらまた始めていきたいと思っています。

 

 毎日ご紹介してき古今和歌集も本日で全巻の読み切り。ここまでおつきあいいただき、誠にありがとうございました!

 


古今和歌集 1110

2022-11-13 06:43:24 | 古今和歌集

わがせこが くべきよひなり ささがにの くものふるまひ かねてしるしも

わが背子が 来べき宵なり ささがにの 蜘蛛のふるまひ かねてしるしも

 

よみ人知らず

 

 私のいとしい人が来るはずの今宵。蜘蛛のうごきが、まるでそのことを知っているかのようです。

 巻第十四「恋歌四」からの墨滅歌。詞書には「思ふてふことのはのみや秋をへて下」とありますので、0688 の次におかれていた歌ですね。続けて「衣通姫(そとほりひめ)の、一人ゐて帝を恋ひたてまつりて」とあります。「衣通姫」は、第19代允恭(いんぎょう)天皇に召された女性で、膚の美しさが衣と通して輝いくほどであったことからその名があるといい、仮名序にも、小野小町がその系統であるとして名が記されています。「ささがにの」は「蜘蛛」にかかる枕詞ですね。日本書紀にある次の歌の異伝歌とされています。

 

わがせこが くべきよひなり ささがねの くものおこなひ こよひしるしも

わが背子が 来べき宵なり ささがねの 蜘蛛のおこなひ 今宵しるしも


古今和歌集 1109

2022-11-12 06:11:03 | 古今和歌集

やましなの おとはのたきの おとにだに ひとのしるべく わがこひめやも

山科の 音羽の滝の 音だにも 人の知るべく わが恋ひめやも

 

よみ人知らず

 

 山科の音羽の滝の音のように、音(噂)にさえ人にしられるような恋をするもんでしょうか。

 1108 への返歌。詞書には「返し 采女のたてまつれる」とあります。少し表現が違いますが、0664 と同じ歌と見られています。

 

やましなの おとはのやまの おとだにも ひとのしるべく わがこひめかも

山科の 音羽の山の 音だにも 人の知るべく わが恋ひめかも

 

よみ人知らず
この歌、ある人、近江の采女のとなむ申す


古今和歌集 1108

2022-11-11 06:05:49 | 古今和歌集

いぬがみの とこのやまなる なとりがは いさとこたへよ わがなもらすな

犬上の 鳥籠の山なる 名取川 いさと答へよ わが名もらすな

 

よみ人知らず

 

 犬上の鳥籠の山の麓を流れる名取川の名のように浮き名を流されてはいけないから、人から聞かれたら「さぁ」と答えて、私の名を漏らさないようにしてください。

 巻第十三「恋歌三」の墨滅歌。詞書には「恋しくは下にを思へ紫の下」、左注には「この歌、ある人、あめのみかどの近江の采女にたまへると」とあります。0652 の次に記載されていた歌で、あめの帝(=天皇ないしは具体的に天智天皇のこととされます)が近江の采女(具体的には不詳)に賜ったとの説がある、ということですね。「名取川」は現在の仙台市を流れる川ですが、それだと「近江」(「犬上」も近江の地名です)と場所が合わず、ここは近江を流れる「いさや川」としている伝本も多いとのこと。万葉集に収録されている、この歌の元とされる歌も「いさや川」となっていますね。

 

いぬかみの とこのやまなる いさやかは いさとをきこせ わがなのらすな

犬上の 鳥籠の山なる 不知哉川 いさとを聞こせ わが名告らすな

 

よみ人知らず


古今和歌集 1107

2022-11-10 06:31:50 | 古今和歌集

わぎもこに あふさかやまの しのすすき ほにはいでずも こひわたるかな

我妹子に あふさか山の しのすすき 穂には出でずも 恋ひわたるかな

 

よみ人知らず

 

 いとしい人に「あふ」の名を持つ逢坂山のしのすすきには穂が出ないように、私も表には出さずに恋い慕い続けていることよ。

 こちらには詞書がありませんので、ひとつ前の 1106 と同じく、巻第十一「恋歌一」巻末に置かれた墨滅歌ですね。