漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 611

2024-12-17 05:30:46 | 貫之集

ひとめてふ ことはいかなる みちなれや いづちもゆかで はるけかるらむ

人めてふ ことはいかなる 道なれや いづちも行かで はるけかるらむ

 

人目というものはどのような道なのか。どこにも行かないのに愛しい人との間を遠く隔てるとは。

 

 人目があるために逢瀬がままならないことのもどかしさ。そんな「人目」というものを、二人を遠く隔てる道に喩えての詠歌です。


貫之集 610

2024-12-16 04:21:08 | 貫之集

ゆめぢにも つゆぞおくらし よもすがら かよへるそでの ひちてかわかぬ

夢路にも 露ぞおくらし 夜もすがら 通へる袖の ひちてかわかぬ

 

夢の通い路にも露が置くらしい。夢で夜通し愛しい人のもとに通った私の衣の袖が濡れて乾かない。

 

 初句「夢路にも」は、「起きている間はもちろん、夢の中でさえも」ということですね。
 この歌は、古今和歌集(巻第十二「恋歌二」 第574番)に入集しており、そちらでは第二句が「露やおくらむ」とされています。


貫之集 609

2024-12-15 05:26:02 | 貫之集

すみのえの まつにはあらねど よとともに こころをきみに よせわたるかな

すみのえの 松にはあらねど 世とともに 心を君に 寄せわたるかな

 

住吉の松ではないけれども、いつの世にもかわりなく、あなたに心を寄せ続けています。

 

 「すみのえ(=住吉)」が松の名所であることから、同音の「待つ」にかかる枕詞で、ここでも「松」には「待つ」も含意されているのでしょう。「住吉の松のようにいつまでも」「住吉の松ではないが待っている」の両義ということですね。

 この歌は後撰和歌集(巻第十「恋二」 第638番)に入集しており、そこでは第二句が「波にはあらねど」とされています。詞書には「こころざしありける女につかはしける」とあります。


貫之集 608

2024-12-14 05:06:28 | 貫之集

はつかりの なきこそわたれ よのなかの ひとのこころの あきしうければ

初雁の なきこそわたれ 世の中の 人の心の あきし憂ければ

 

初雁が秋になると鳴きながら空を渡って行くように、私もずっと泣き続けている。愛しい人の心が私に飽きてしまったのがつらいので。

 

 第二句「なき」は「鳴き」と「泣き」、第五句「あき」は「秋」と「飽き」の掛詞ですね。第三句「世の中」は、ここでは男女の仲の意でしょう。
 この歌は、古今和歌集(巻第十五「恋歌五」 第804番)に入集しています。


貫之集 607

2024-12-13 05:30:49 | 貫之集

きみにより ぬれてぞわたる からころも そではなみだの つまにざりける

君により ぬれてぞわたる 唐衣 袖は涙の つまにざりける

 

あなたのためにずっと濡れ続けている衣の袖は、涙のつれあいのようなものであるよ。

 

 第五句「つま」が「端」と「褄」の掛詞になっています。