漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0671

2021-08-31 19:11:16 | 古今和歌集

かぜふけば なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬべらなり

風吹けば 波打つ岸の 松なれや ねにあらはれて 泣きぬべらなり

 

よみ人知らず
ある人のいはく、柿本人麿がなり

 

 風が吹くと波が打ち寄せる岸の松の根が波で洗われるように、私は恋の思いが表に表れて、声に出して泣いてしまいそうだ。

 「ねにあらはれ」は「根に洗われ」と「音に現れ」の掛詞。左注によれば人麿作との説があるとのこの歌ですが、手元の書籍には、掛詞や「べらなり」が使用されていることから見て人麿作ではありえないとの記述があります。万葉集にも掛詞が使われた歌はありますがごく少数であり、また「べらなり」は平安時代にのみ使われた語のようです。後者の点について、weblio古語辞典 に解説がありますので、以下に引用します。ご参考まで。

 

 助動詞「べし」の語形の変化しない部分「べ」+接尾語「ら」+断定の助動詞「なり」からできた語。平安時代、漢文訓読語に「べし」に当たる語として用いられ、和歌では『古今和歌集』のころにはかなり用いられたが間もなくすたれる。

 

 

  


古今和歌集 0670

2021-08-30 19:12:08 | 古今和歌集

まくらより またしるひとも なきこひを なみだせきあへず もらしつるかな

枕より また知る人も なき恋を 涙せきあへず もらしつるかな

 

平貞文

 

 枕のほかには知る人もいない恋を、涙をこらえきれずに人に知られてしまったことです。

 人知れない恋を枕だけは知っているということをモチーフとした恋歌。同じモチーフの 0504 もあらためてお読みいただければ幸いです。

 

わがこひを ひとしるらめや しきたへの まくらのみこそ しらばしるらめ

わが恋を 人知るらめや しきたへの 枕のみこそ 知らば知るらめ

 

よみ人知らず


古今和歌集 0669

2021-08-29 19:08:37 | 古今和歌集

おほかたは わがなもみなと こぎいでなむ よをうみべたに みるめすくなし

おほかたは わが名もみなと こぎ出でなむ 世をうみべたに みるめ少なし

 

よみ人知らず

 

 どうせそのうち噂が立ってしまうのなら、舟を漕ぎ出して海に出ていくように、世間にはっきりと知られてしまっても構わない。そうなっても世間を疎ましく思うだけで、海辺には海松布(みるめ)が少ないように、あの人と逢える機会はどうせ少ないのだから。

 難解な歌で、一応意味が通るようにと思うと解釈文が冗長になってしまいました。「うみべた」は「海のあたり」の意ですが、それと同時に「うみ」は「憂み」との掛詞にもなっています。「みるめ」は例によって「海松布」と「見る目」の掛詞ですね。

 

 


古今和歌集 0668

2021-08-28 19:56:25 | 古今和歌集

わがこひを しのびかねては あしひきの やまたちばなの いろにいでぬべし

わが恋を しのびかねては あしひきの 山橘の 色に出でぬべし

 

紀友則

 

 自分の恋心を隠しておけなくなって、山橘が色づくように、私の思いも表に表れてしまいそうだ。

 「山橘」はやぶこうじ(紫金牛)の別名。冬に美しい赤い実をつける植物です。

 

 


古今和歌集 0667

2021-08-27 19:09:03 | 古今和歌集

したにのみ こふればくるし たまのをの たえてみだれむ ひとなとがめそ

下にのみ 恋ふれば苦し 玉の緒の 絶えて乱れむ 人なとがめそ

 

紀友則

 

 恋情を心に秘めていることが苦しい。玉を連ねる紐が切れて玉が散り乱れるように、私も恋に乱れてみようか。人よ、どうか咎めないでおくれ。

 歌意はわかりやすいですね。「玉の緒」が「絶ゆ」と結びついて詠まれた歌となれば、百人一首にも採られた式子内親王の名歌もご紹介しないわけにはいきませんね。

 

たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする

 

式子内親王

(新古今和歌集 巻第十一 「恋歌一」 第1034番)