かぜふけば なみうつきしの まつなれや ねにあらはれて なきぬべらなり
風吹けば 波打つ岸の 松なれや ねにあらはれて 泣きぬべらなり
よみ人知らず
ある人のいはく、柿本人麿がなり
風が吹くと波が打ち寄せる岸の松の根が波で洗われるように、私は恋の思いが表に表れて、声に出して泣いてしまいそうだ。
「ねにあらはれ」は「根に洗われ」と「音に現れ」の掛詞。左注によれば人麿作との説があるとのこの歌ですが、手元の書籍には、掛詞や「べらなり」が使用されていることから見て人麿作ではありえないとの記述があります。万葉集にも掛詞が使われた歌はありますがごく少数であり、また「べらなり」は平安時代にのみ使われた語のようです。後者の点について、weblio古語辞典 に解説がありますので、以下に引用します。ご参考まで。
助動詞「べし」の語形の変化しない部分「べ」+接尾語「ら」+断定の助動詞「なり」からできた語。平安時代、漢文訓読語に「べし」に当たる語として用いられ、和歌では『古今和歌集』のころにはかなり用いられたが間もなくすたれる。