漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0793

2021-12-31 19:34:53 | 古今和歌集

みなせがは ありてゆくみづ なくはこそ つひにわがみを たえぬとおもはめ

水無瀬川 ありて行く水 なくはこそ つひにわが身を 絶えぬと思はめ

 

よみ人知らず

 

 地表には水のない水無瀬川の地下にも水がなくなったら流れが絶えてしまう。そのように、愛しい人の心の奥底にも私への思いがなくなってしまったら、私のこの身も終わりだと思うことでしょう。

 「水無瀬川」は地表には水がなく、地下に水が流れている川のこと。愛しい人の自分への思いを水無瀬川の流れに喩えて、表向きだけでなく心の中にも自分への気持ちがなくなってしまったら、という悲しい詠歌ですね。

 

 さて、2年続けてコロナに明け暮れた年になりましたが、そんな今年も今日でお仕舞。つたないブログにいつもおつきあいいただいてありがとうございます。明日からも変わらず続けていきますので、気が向かれた際にはどうぞ引き続きお付き合いください。 m(_ _)m

 

 


古今和歌集 0792

2021-12-30 19:08:16 | 古今和歌集

みづのあわの きえでうきみと いひながら ながれてなほも たのまるるかな

水の泡の 消えでうき身と いひながら 流れてなほも たのまるるかな

 

紀友則

 

 はかないものであるはずの水の泡が消えてしまわずに浮かんでいる、それと同じようにはかなく辛い身の私ですが、世の流れに身を任せながらも、やはりあの人の気持ちをあてにしてしまうのです。

 「うき」は「浮き」と「憂き」の掛詞。愛しい人が離れて行ってしまうわが身のはかなさ辛さを、浮かんでは消えてしまう泡に準えて詠んでいますね。水の泡のはかなさと言えば思い出されるのは方丈記冒頭の一節。そらんじている人も多いでしょうか。

 

 ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。 


古今和歌集 0791

2021-12-29 19:48:48 | 古今和歌集

ふゆがれの のべとわがみを おもひせば もえてもはるを またましものを

冬枯れの 野辺とわが身を 思ひせば 燃えても春を 待たましものを

 

伊勢

 

 愛しい人が離れて行ってしまったわが身を冬枯れの野辺と思えば、野が野焼きによって春を待つように、私もあの人への思いに身を燃やして春を待ちますのに。

 詞書には、もの思いにふけっている頃、ある所へ出かけた折に野焼きの火が燃えているのを見て詠んだ、とあります。愛しい人が離れてしまった後も恋情に燃える自身の心を、野焼きの火に準えた力強い詠歌ですね。

 


古今和歌集 0790

2021-12-28 19:12:05 | 古今和歌集

ときすぎて かれゆくおのの あさぢには いまはおもひぞ たえずもえける

時すぎて かれゆく小野の 浅茅には 今は思ひぞ たえず燃えける

 

小野小町姉

 

 時期が過ぎて枯れてゆく小野の浅茅に、野焼きの火が燃えているように、愛された時を過ぎてあなたが私から離れてゆく今、私の胸ではずっとあなたへの思いの火が燃えているのです。

 「かれ」は「枯れ」と「離れ」の掛詞。「思ひ」の「ひ」は「火」が掛かっています。どちらもよく見られる修辞法ですね。
 作者の小野小町姉は詳細不詳で、出自や経歴はわかっていません。古今集のこの一首の他、後撰和歌集にも二首が採録されています。


古今和歌集 0789

2021-12-27 19:39:40 | 古今和歌集

しでのやま ふもとをみてぞ かへりにし つらきひとより まづこえじとて

死出の山 ふもとを見てぞ 帰りにし つらき人より まづ越えじとて

 

兵衛

 

 死出の山の麓を見て引き返してきました。私につれないあなたより先には越えまいと思って。

 詞書には、病気で具合が悪かった時、親しい仲であった人が見舞いにも来てくれず、治ってから見舞いをよこしたので詠んで送ったとあります。心細くて、見舞いに来てほしいときに来てくれず、元気になってからのこのこと(?)やって来た相手に、皮肉たっぷりに「あなたより先にだけは死ぬまいと思って、死出の山を麓だけ見て帰って来たのよ」と詠み送ったということですね。
 兵衛(ひょうえ)は、平安時代前期の貴族藤原高経(ふじわら の たかつね)の娘とされる人物で、0455 以来の登場。古今集への入集はこの二首となります。