漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 503

2024-08-31 04:43:16 | 貫之集

ひとしれず きつるところに ときしもあれ つきのあかくも てりわたるかな

人しれず 来つるところに ときしもあれ 月のあかくも 照りわたるかな

 

人知れず来たところに、折しも月があかあかと照り渡っているよ。

 

 下二句が 247 とよく似ていますが、歌全体のおもむきはまったく違いますね。わずか三十一文字のうち後半十四字が酷似しているにもかかわらずこれだけ表現の幅を持たせられるのが、和歌のすばらしいところですね。 ^^


貫之集 502

2024-08-30 06:22:15 | 貫之集

つなはへて もりわたりつる わがやどの わさだかりがね いまぞなくなる

つなはへて もりわたりつる わが宿の 早稲田かりがね いまぞ鳴くなる

 

綱を張り巡らせてずっと守ってきたわが家の早稲田を刈り取る時が来て、今まさに雁が鳴く声が聞こえる。

 

 第四句「わさだかりがね」は 153 にも出てきたフレーズ。あちらは、早く刈り取りの時期が来て雁が鳴かないものかという願望の歌でしたが、こちらはまさにその時期がやってきて雁が鳴いているという歌ですね。

 

かりほにて ひさへへにけり あきかぜに わさだかりがね はやもなかなむ

かりほにて 日さへへにけり 秋風に 早稲田かりがね はやも鳴かなむ
(153)


貫之集 501

2024-08-29 05:54:00 | 貫之集

ふくかぜの しるくもあるかな をぎのはの そよぐなかにぞ あきはきにける

吹く風の しるくもあるかな 荻の葉の そよぐなかにぞ 秋はきにける

 

吹く風ではっきりとわかる。荻の葉が風にそよぐ音の中に、秋はやって来たのだ。

 

 萩に吹く風に秋を感じるという歌は、100378 にも出てきましたね。貫之が好んだモチーフなのでしょう。

 

をぎのはの そよぐおとこそ あきかぜの ひとにしらるる はじめなりけれ

荻の葉の そよぐ音こそ 秋風の 人に知らるる はじめなりけれ
(100)

 

いつもきく かぜをばきけど をぎのはの そよぐおとにぞ あきはきにける

いつも聞く 風をば聞けど 荻の葉の そよぐ音にぞ 秋は来にける
(378)


貫之集 500

2024-08-28 04:37:52 | 貫之集

あしひきの やまだをうゑて いなづまの ともにあきには あはむとぞおもふ

あしひきの 山田を植えて いなづまの ともに秋には あはむとぞ思ふ

 

山田を植えて、秋になったら稲妻の光で実るという稲を、妻とともに見ようと思う。

 

 稲が稲妻の光を受けて実るという俗信があったとのこと。「あしひきの」は「山」にかかる枕詞で、また、「稲妻」の「妻」には作者の「妻」の意が掛かっています。


貫之集 499

2024-08-27 05:19:51 | 貫之集

さみだれに あひくることは あやめぐさ ねながきいのち あればなりけり

五月雨に あひ来ることは あやめ草 根長き命 あればなりけり

 

五月雨に降られながらもあやめを引きに来るのは、長いあやめの根に、同じく長い命が託されているからであるよ。

 

 あやめの根の長さに着目した、貫之独自の着想の歌。131227394517 にも出てきます。