漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 594

2024-11-30 05:50:43 | 貫之集

あけたてば まづさすひもの いとよわみ たえてあはずは などいけるかひ

明けたてば まづさすひもの いと弱み たえてあはずは など生けるかひ

 

夜が明け始めて日が差すと、まず最初に腰の紐を挿して締めるが、その糸がとても弱くて切れてしまうのと同じように、私たちの仲が切れて逢えなくなってしまったら、どうして生きている甲斐があるだろうか。

 

 「(日が)射す」と「(紐を)挿す」、「日」と「ひ(も)」、「いと(たいそう、の意)」と「糸」と、掛詞を駆使した技巧的な一首。「たえて」も、糸が切れる意を仲が途絶えてしまう意の両義になっていますね。冒頭「明けたてば」の「たつ」は立春、立秋などという場合の「立」と同じ語法でしょう。


貫之集 593

2024-11-29 05:56:01 | 貫之集

あきののに みだれてさける はなのいろの ちぐさにものを おもふころかな

秋の野に 乱れて咲ける 花の色の 千ぐさにものを 思ふころかな

 

秋の野の乱れて咲いている花が色とりどりであるように、恋しさに乱れてさまざまな物思いにふける今日この頃であるよ。

 

 色とりどりの花になぞらえて、種々物思いにふける自身の心を描写した歌。
 この歌は古今和歌集(巻第十二「恋二」 第583番)に入集しています。


貫之集 592

2024-11-28 05:07:12 | 貫之集

ももちどり なくときはあれど きみをのみ こふるこころは いつとさだめず

百千鳥 なくときはあれど 君をのみ 恋ふる心は いつとさだめず

 

たくさんの鳥が一斉に鳴くときは決まっているけれども、あなただけを恋しく思う私の心が泣くとき、いつと定まってはいないのであるよ。

 

 「百千鳥」はここではたくさんの鳥の意。057 にも出てきましたね。


貫之集 591

2024-11-27 05:22:54 | 貫之集

あきののの うつろふみれば つれもなく かれにしひとは くさばとぞみる

あきの野の うつろふ見れば つれもなく かれにし人は 草葉とぞ見る

 

秋の野の色褪せてゆくさまを見ると、薄情にも私から離れて行った人のことが、枯れた草葉のように思われるよ。

 

 冒頭「あき」が「秋」と「飽き」、第四句「かれ」が「離れ」と「枯れ」の掛詞になっています。掛詞は同音異義語に複数の意味を同時に持たせた技法ですが、ある古今集解説の本(『「古今和歌集」の創造力』 鈴木宏子著)に
 ・同音であるとは、言い換えれば「仮名で書いたときに等しい」ことである。
 ・古今集で発達したレトリックである
との記載があります。この記述に出会ったとき、「なるほど!」 と妙に合点がいったことを覚えています。