雨降って 滑りし谷の もみじかな
馬糞 Bafun
学生と山歩きをしようと、初めてのコースに挑んだ。
あれこれ迷ったが、竈門神社から登る宝満山コースに
した。
初めてのところがよいということになったからである。
中級コースとあったが、楽勝コースに見えた。
さぞかし、日本晴れの下、残る紅葉が美しかろうと期
待した。
西鉄大宰府駅から内山行きのバスで終点内山下車、そ
こが、竈門神社である。
近くには温泉があるというから、帰りが楽しみだった。
「楽勝コース」は車道から始まった。
楽勝とは言っても、腹が減っては辛かろうと、民家風
の手打ち蕎麦屋を訪ねて温かな蕎麦をすすった。
うまかった。
曇り空が気になったが、日本晴れと決めていたので、
そのうち晴れるだろうと楽観した。
やがて林道に入った。
小雨が降ってきた。
林を蓑傘代わりに汗と雨の湯気を立てながら坂道を登
り続ける。
これでもか、これでもかというような急坂に、滑りや
すい岩場が立ちはだかる。
やっと五合目、やっと六合目・・・。
結構たくさんの下山客にこんにちは、と挨拶をしなが
ら、登山客とは抜きつ抜かれつしながら上を目指した。
坂道ばかりにうんざりとしながらも、二時間の奮闘の
末に、最後の石段を登った。
宝満山、初登頂!
岩場から下をのぞくと垂直に切り立った谷である。
雨は上がったが、深い谷からガスが吹き上がる。
下りは、別ルートでと、余裕回復。
ところが、稚児落としという絶壁の岩場を鎖頼りに降
りるのだが、雨に濡れた鎖と岩場は実に恐怖だった。
ここを無事に降りたところで、一安心。
温泉とビールが待つ下り道のはずだった。
ところがである、ウサギ道をゆくべきところが、猫道
新道という怪しい標識に漂う近道のにおいと、新しいと
いう魅力に誘われてチャレンジした。
これが、地獄コースの始まりだった。
道らしい道がないのだ。
岩場と、ずるずると滑る急斜面を、生木をつかみなが
ら下りて行った。
そしてついに、断崖絶壁の岩場にどんづまった。
そこを、何とか降りようと言うが、ロッククライマー
でも装備なしには無理だろう。
どんづまると、やってみようという無謀が誘惑するの
だ。
現実に戻って、再び、急な斜面を這い上がることにし
た。
一歩間違えれば滑落する急斜面は雨に濡れてずるずる
と足元を脅かす。
立ちはだかる巨岩と急斜面に、果たして生還できるの
だろうかと不安になった。
まさか、800m級の山で遭難するわけにも行くまい。
しかし、十分に遭難しうる山であることは間違いない
のである。
それほどに、急峻な谷底が連なっているのだ。
やっと這い上がったときは、さすがにへたり込んでし
まった。
まさに、奇跡の生還というほどに恐怖の体験だった。
「道」を下ることは、さほどのことではなかった。
激闘の下山は2時間半、視界が開けたときは、ほっと
した。
安楽寺というのがあったが、何をのんきなことをとい
う風であった。
バスでJR二日市をめざし、へとへとになって、200円の
二日市温泉に入ったが、タオルを忘れていた。
何かにつけて、甘すぎた。
いい思い出になったが、風呂上りの中華料理も甘すぎ
て最悪だった。
中級山歩きコースをなめてはいけない。
山歩きでも、手袋、ザイル、カッパ、タオル、ズボン
や上着全ての着替え、できれば、ピッケルもあったほう
が良い。
つくづくと反省した。
しかし、死ぬほど怖い目に合うということは、学生に
とっては限界突破のよい経験になったと思う。
彼らの友情も長く続くことであろう。
しばし、筋肉痛も続くであろうが、禍転じて福となす、
良い勉強になった。
『人の行かぬ裏に道あり、咲く花もあり。』
たしかに、道をたどることばかりでは面白味がない。
しかし、近道をしようと思ってはならない。
危険と互角に戦う気構えと装備も大切である。
そうしたことも、失敗したればこその学びではある。
最後は、決断して引き返す勇気こそは、失敗を取り返
し、学びとする極意というべきかもしれない。
どん詰まりの日本、引き返す勇気と学びが求められて
いる。
立憲女王国・神聖九州やまとの国
梅士 Baishi