まさか、こういうことが起こってここへ来るとは、思いもしませんでした。この建物を設計していて、一番心配していたことは水害です。ここ数年、集中豪雨どころがゲリラ豪雨なんていうものもあるので、立地条件が悪い工場棟は床を1m高くしてあります。構造的には、成形機の設置精度を確保するために地盤改良をしています。改良杭に加えて、土間スラブ下は浅層改良までしています。この工場、どんな地震がきても絶対倒れないとみんなで話していました。
工場の財産は、そこで働く従業員であり、物を作り出す成形機です。建物はそれらを守るために存在します。例え柱が傾こうが壁が歪もうが、どんなに傷を負ったとしても、文字通り体を張って財産を守らなければならない。それが建物の使命である。そいう視点を改めて教えられたような気がしました。
自転車で駆けつけてみると、KSDは傷ひとつなく誇らしげに存在していました。構造体どころか仕上だって全然大丈夫でした。細かい話、内壁のボードにもかなり目地を取っていたおかげで、クラックすら入っていませんでした。工場の人も驚いていました。まるで何事もなかったみたいだと。
帰り際に見たその姿は、ちょっと泣けるくらいかっこ良かったです。