芥川賞作家に学ぶ小説講座2021年12月4日(土)5日(日)
講師:松村栄子先生
※講座を受講した個人のメモです。
単なる心覚えですので、そこのところ了解の上ご覧ください。
☆導入
・好きな作品を100編挙げてみよう
・身近くまとめるのが文章力としては上。必ずしもながいのがえらいというわけではない。
・小説は魔法のようなことがある。
・無理矢理言語化して伝えてみたい。
☆小説執筆のための要件
大事なもの
長さ(ボリューム)、テーマ、ストーリー
しかしこれらは後で変更可能。
語りの視点、文体、登場人物、読者層
これらが決まらなければ一行目も書き始められない。
掌編 短編 中編 長編
1-30 30-100 100-300 300-(原稿用紙換算枚数)
文芸的 ←ーーーーーーーーーーーーーー→文学的
(一語一語?一文一文) (ことの重さ・深さ)
アイディア 1テーマ 多くの人物と長い時間を管理
空白を勘定に入れるのか?一行改行もパソコンでは読みやすい。
(これは過渡期)
☆テーマ これは書き始める動機、きっかけ
①人物……ある人物像
②主張……世の中の不合理
③世界……日常から遠い環境
④情景……一場面
・しばしば動機となったテーマとは違うものが描き出される。
・だから最初のテーマにがんじがらめになる必要はない。
・終わったときには違ったものがあらわされていてもかまわない。
☆ストーリー これはシーンとシーンをつなげる役割がある。
・シーンには表層の意味と深層の意味がある。
表層のできごと→情景
深層→本当に書きたいこと
・「こう思った」とは書かないが、そこで価値観や心理が動いている。
(ケバケバシかったり、妙だったり……)
・そして
語られたこと→表層
語られなかったこと→深層
前者よりも後者の方が重要。それによって読者が想像し、ふくらませていく。
それが読書の醍醐味
・書くときには、エピソードと本筋の二本立てで考えている。
(そこに物語を考えるおもしろさと難しさがある)
・物事は常に二層構造になっているということ。
☆視点 語り手は見えるものしか語れないということ。
語り手は心の中で、見えるものについて語る。意識、感情、記憶を含む。
それ以外は想像するのみ!
・視点と人称は、語り手と読者の存在論でもある。
(意識しすぎるのがよいとはかぎらない。ほどほどに意識して)
・カメラには死角がある
・語り手≠作者 (語り手は虚構である)
・語り手=作者なのは、エッセイ、作文、論文
A一人称視点
B三人称主観(登場人物)視点
C三人称客観視点
A~Cには謎がある。それを徐々に解いていくのに向く。
それに対して
D神の視点は長大な物語に向く(歴史ものなど)
Dは推移がわかりやすい(「孔明が悩んでいた頃、曹操は……」など)。
・C(三人称客観視点)について
あるときこれを説明していたら
「それって『鬼の視点』じゃないですか」
といってくれた人がいた。
つまり、どこにでもいけるが人の気持ちは分からない語り手ということだ。
・章ごとに視点を帰るのは安易に使わない方がよい。効果を考えていこう。
☆文体
・これは視点の口調に合わせよう。
・一人称の場合、キャラクターに添いすぎると、濃くなり過ぎる。
(多少上品すぎる程度に抑えていく)
・人物より目立つのは不利。
・文体は世界像をつくるもの。したがってことばのレベルを揃えるのが重要。
口語(みたいな)
普通(のような)
文語(のごとき)
・視点のぶれも気になるが、ことばのぶれも気になる。
(感覚を養っておくことが重要)
・話者の違いを、ちゃんと一貫して保つ。
(そうでないと会話の主体が分からなくなる)
・ちょっと書きすぎることがあるので注意)
・地の文、叙述部分について
語り手の知性・性格を反映することになる。
実在の作者、仮想の語り手などどのような文体を選ぶかが一行目から重要。
・文体は作品全体の品位に係わってくる!
会話文→登場人物の知性・性格を反映(リアリティ重視)
地の文→たとえ一任上でも上品めに。リアリティは会話部分で。
・会話文が多いと軽薄。工夫がないとダラダラになる。全てカギかっこにすると地の文が貧しくなる。
・会話対が少ないと、重厚だが説明的になる。
・会話と地の文のバランスが必要
・会話文の効用
①全体のリズムのバランスをとる
②ストーリーを先にすすめられる
③状況説明の補助
(説明ではなく描写するために役立つ)
「なんだよその妙ちきりんな服装は!?」
など
・小説は描写。説明は不用。本人に言わせればいい。
・ただし説明的なダラダラした会話は×
(リアルではあっても冗長、くどいので整理すること)
・「と言った」をやりすぎると困る。テンポも悪くなるし誰が言ったのかも問題に。
・ではどうするか。
登場人物のしゃべり癖をあらかじめ設定しておく。するとそのキャラがわかりやすく紛れなくなるので、テンポが落ちない。
・「と~は言った」ではなく別の動詞を動員しよう。
「目を丸くする」
「振り向いた」
「立っていた」
「~の声だ」
などの、動詞を使ってみる。
・地の文は
①視点をずらさず(語り手が誰かを常に意識)←作者に近い美意識を持つ
②くだけすぎず
③無駄なく簡潔に
・会話文は
①文法は不要
②話者の個性(年齢性格方言性別)を決めておくこと
←キャラを立てる
←どれだけ登場人物がたち上がっているか
(一日目、以上)
二日目
☆小説をどこから作るか?
テーマ、キャラクタ、シーン、方法論といろいろあるが
☆登場人物について
書くかどうかは別として考えておく。
誕生日、名前、性別、年齢、身分、容姿、家庭環境、
性格、趣味、トラウマ、嗜好など
・キャラを作るのではなく、どこかにいるはずの人物を想像して描写する。
・「世界で一番の美女」←これは通用しない。ずぼら。もっと多様。
「語り手はそう思う」というのはあるが、具体的特徴を描くのがよい。
・愛情を持った瞳が必要
・身分は、場合によっては作品の中でじゃまになることもあるので注意
(ある種の固定観念を呼び寄せる?)
・容姿は、モデルのような人物を想定しておく。
それには通販カタログの人の切り抜きが有効
また、一度に容姿を書くのではなく、場面場面で必要に応じて矛盾しないように書くとよい。
・主人公を美男美女にしない方がいい。
・ある一部分が魅力的、というのがよい。
・読者がリアルな人物として思い描けることが大切。たとえ突飛であっても、描き方によってはリアリティを持つこともある。
・作者はそういう人がいることを信じることが必要。というよりむしろ「知っている」のだ。
それを観察して描く←ここが大切。
・登場人物は少ない方がよい。
・似た人物は避ける。一人で代表させる(ゴレンジャー)
・ご都合主義に陥らない
・奇抜なキャラクターを書くとき、本人(作者)が存在を疑ってはならない。
・重要人物については、要素を一覧表にまとめておく。
・端役はワンポイントの個性があるとよい。
咳払いの癖
変わったメガネ
くたびれたカーディガン
すると名前を付けなくても分かる。あとでもしかしたらあのときの?となる。
・固有名詞は必要な人だけにつけた方がよい。
・産みの苦しみより、捨てる苦しみが大きい。
・スピード感の感覚が必要。捨てるべきは何か。スローモーションもしくは制止画にするとき。
・文章は基本順接で進めよう。
・絶対的な悪はかけない。
・自分の好きなものしかかけない。
・楽しいのが大切。
・つらいこと、本当のことは覚悟しないと書けない。
・登場人物を安易に殺さない方がいい。それでもやっぱり実際にそういうことは起こるが。
・つらくてもがんばって生きていくというのが文学的かな。
☆最後に
・主述の対応、表現の対応(あたかも~ででもあるかのように)
・てにをはを明確に
「気持ちにさせる」
「思いをさせる」
・小説においては漢語は和語にひらこう。柔らかな表現を用いるのがプロ。
・重複表現を避けよう。
・話し言葉は、対象が移ろいながら展開していくこともある。
通じていれば間違いとはいえない。しかし、書き言葉の時は気をつけること。
・「産みの苦しみ」より「捨てる痛みを!」